はじめに
「気をつかう」という表記は悩みますよね。「気遣い」や「言葉遣い」など、「遣」を使っている表記はよく見かけますので、「気を遣う」や「言葉を遣う」にするのは自然かもしれません。
でも、「道具を使う」のとどう違うのでしょうか。どうして「気を使う」や「言葉を使う」にしないのでしょうか。
実は、「使う/遣う」の使い分けは、こうしなければならないという明確な決まりがあるわけではなくて、むしろ慣用に頼っているところがあるんですね。
そのあたりをどう考えればいいのか、今回は公用文や新聞表記ではどのように扱っているのかを踏まえて、基本的なことをまとめてみたいと思います。
ちなみに、「気を使う/気を遣う」の使い分けについては、ミスを防止するために自分で注意するような場合は「気を使う」、失礼のないように相手に配慮する場合は「気を遣う」を使うことが多いようです。
「使う」の意味と使い方
「使」は一般用語で、道具・手段・能力などを、何かの目的のために使用する場面で広く用いられます。
・スマートフォンを使いこなしたい。
・公共交通機関を使って移動する。
・英語を使う機会が増えてきた。
・頭を使うパズルが好きだ。
また、誰かのために用事を足しに行くことにも使います。
・お使いに行ってくれない?
・使い走りをさせられた。
・使いの者を行かせます。
「使い」を用いる典型的な複合語
「使」は「使い○○」の形の複合語になることも多く、実用性や機能性を表します。
・この包丁は使い勝手がいい。
・使い捨て容器の削減に取り組む。
・使いようによっては役に立つ。
・お金の使い道を家族で話し合った。
・道具の使い方を覚える。
「遣う」の意味と使い方
一方の「遣う」は、単に用いるだけでなく、「心を配る/巧みに操る/気持ちを向ける」といったニュアンスを含みます。意識や感覚を働かせるイメージですね。
例として「言葉を使う」と「言葉を遣う」で違いを見てみたいと思います。
○「言葉を使う」と「言葉を遣う」はどう違う?
「言葉を使う」は、言葉を道具として利用するという意味です。絵を使う場合も、音を使う場合もあるかもしれませんが、手段として「言葉を使う」ということですね。
一方で、「言葉を遣う」は、相手や状況に配慮しながら言葉を選ぶニュアンスになります。失礼のないように慎重に言葉を選んだり、伝わりやすい表現を考えたりするイメージでしょうか。こちらは単に使うだけではなく、「心配り」が含まれています。
このような意味合いを含む場合には「遣う」を用いるということなんですね。これで「使う」と「遣う」の違いが少しおわかりいただけたでしょうか。
「遣い」は複合語として定着していることが多い
「遣」は、動詞よりも、「○○遣い」という複合名詞の形になっている語が多いのが特徴です。これらは、長い慣用の中で「遣い」という形が固定されたんですね。
・気遣い
・心遣い
・言葉遣い
・仮名遣い
・無駄遣い
・息遣い
・金遣い
・お小遣い
・上目遣い
・両刀遣い
・筆遣い
・人形遣い
・太刀遣い
など
「使う」と「遣い」の整理
ここまでを整理すると、次のような傾向が見えてきます。
○「使う」は一般用語で、動詞として広い意味で使います。さまざまなものを使います。また、名詞の形で用いるものとしては、「お使い」や「子どもの使い」「魔法使い」などがあります。
・道具を使う
・頭を使う
・手足を使う
・お使いに行く
・まるで子どもの使いだ
○「遣い」は複合名詞に多く、「心の動き」や「技術」といったニュアンスを含みます。
・気遣い
・言葉遣い
・金遣い
・仮名遣い
・両刀遣い
動詞の「遣う」の形になるのは「気を遣う/心を遣う/言葉を遣う」など限られたものになります。
・気を遣う
・心を遣う
・言葉を遣う
「気を使う」と「気を遣う」はどちらが正しい?
「気を使う」と「気を遣う」はどちらが正しいのでしょうか。確認のため、用字用語集や辞書類を見てみると、やはり揺れがあるようで、「こうでなければならない」というルールをお伝えすることはできません。
ただ、一般には、ミスを防止するために自分で注意するような場合は「気を使う」、失礼のないように相手に配慮する場合は「気を遣う」を使うことが多いようです。
・気を使う:自分自身に向けた注意
・気を遣う:相手に対する配慮
「金遣い」と「お金を使う」の違い
「つかい」と「つかう」の両方が同じ漢字になるものばかりではなく、片方は「使」、もう片方は「遣」になることもあります。むしろそのほうが多いかもしれません。
なぜそうなるのかとういうと、「お金を使う」は動詞としての使用であるのに対して、「金遣い」は慣用化した名詞だからなんですね。
・お金を使う(動詞)
・金遣いが荒い(複合名詞)
・筆を使う(動詞)
・筆遣い(複合名詞)
・平仮名を使う(動詞)
・仮名遣い(複合名詞)
このように、動詞は「使う」、名詞は「遣い」が基本形と覚えておくと、「使う/遣う」で迷う場面が減りそうですね。
ただし、「魔法使い/魔法遣い」のように表記がゆれていることもありますので、あくまでも目安と考えてみてください。
まとめ――「慣用」と仲よくする
ここまで見てきたように、「使う」と「遣う」の使い分けには、絶対的な文法ルールがあるわけではありません。長い時間の中で、日本語として自然に定着した「慣用」が大きく関わっています。
迷ったときは、「遣」を用いる代表的なものを覚えておくと便利です。
○動詞でも「遣い」にする代表例
・気を遣う
・心を遣う
・言葉を遣う
○「遣」が定着している複合語
・気遣い
・心遣い
・言葉遣い
・小遣い
・仮名遣い
・筆遣い
など
少し面倒に思えるかもしれませんが、表記の違いに目を向けてみると、表現の奥行きも感じられますね。
最後まで読んでくださってありがとうございました!




