「つつが」つながりの「つつがない」と「ツツガムシ」
「つつがなくお過ごしのことと存じます」の「つつがない」ってすてきな表現ですよね。唱歌「ふるさと」の2番にも「♪いかにいます父母/つつがなしや友垣」って出てきます。
でも、この「つつがない」は、刺されると大変なことになる害虫の「ツツガムシ」と同源なんです。びっくりですよね。どういうことなんでしょうか。今回は「つつがない」を取り上げてみたいと思います。
「つつがない」はどういう意味?
・無事である/息災である
・異常がない/支障がない
「つつがない」は「無事である」とか「異常がない」という意味で、「つつがなくお過ごしですか?」とか「工事がつつがなく終了した」というように用います。
(用例)
・先日、息子から、つつがなく過ごしているとの連絡がありました。
・おかげさまで、手術を受けた父もつつがなく退院いたしました。
・心配されたお祭りも、雨に降られることなくつつがなく終わりました。
「つつがない」の語源は?
「つつがない」は、漢字では「恙ない」と書きますが、日本には古くから「つつが(=病気や災難)」という大和言葉がありました。中国から漢字が伝わったとき、同じ意味を持つ「恙」という文字を当てはめたんですね。
それに打ち消しの「ない」をくっつけることで、「病気や災難がない」、つまり、「無事である、元気である」という意味の「つつがない」が生まれたというわけです。
「ツツガムシ」の由来は?
では、あの厄介な害虫の「ツツガムシ」とはどういう関係があるのでしょうか。
前述したように、「つつが」は「病気や災難」という意味でしたよね。近代になって、東北地方などで恐れられていた「謎の地方病(現在のツツガムシ病)」の原因となる恐ろしい虫が特定されました。
その際に、「病気を起こす虫」として「ツツガムシ(恙虫)」と命名されたようです。
「恙」の漢字の意味は?
「つつがない」は漢字で「恙ない」と書きます。中国語の「恙(yàng ヤン)」は「病気・災い」という意味なので、この漢字に和語の「つつが」を当てたんですね。
また、古代中国には「恙」という「人の心を食う伝説の虫」が存在していたようです。日本でも中国でも、虫はよろしくない存在だという感覚は共通しているようです
(「恙」の漢字の意味)
①心配ごと/憂い
②病気/災い
③伝説上の害虫。上古より人の心を食うとされ、これにかまれることを恐れた。漢代頃から、人をねぎらう語として「無恙(=無事である)が書簡などで用いられるようになった。
(『漢辞海(第四版)』より)
「ふるさと」の歌詞の意味を確認しよう
蛇足になってしまいますが、冒頭で触れた唱歌「ふるさと」に現代語訳を付けてみました。お時間があればさっと目を通してみてくださいね。
うさぎ追いし かの山
(うさぎを追いかけたあの山)
こぶな釣りし かの川
(小さなフナを釣ったあの川)
夢は今もめぐりて
(夢の中では今でも思い出されて)
忘れがたきふるさと
(ふるさとを忘れることができない)
いかにいます父母
(父母はお元気でいらっしゃるだろうか)
つつがなしや友垣
(友人たちは変わりないだろうか)
雨に風につけても
(雨の日も風の日も何かにつけて)
思いいずるふるさと
(ふるさとのことが思い出される)
志を果たして
(立てた志を成し遂げたなら)
いつの日にか帰らん
(いつかきっと帰ろう)
山は青きふるさと
(青い山があるふるさとに)
水は清きふるさと
(水がきれいなふるさとに)
まとめ
ここまで見てきたように、「つつがない」はもともと「つつが(病気や災難)」という大和言葉に由来し、それが「ない」状態、つまり「無事である」ことを表す言葉でした。
そして、その「恙(=病気)」は、後世になって「病気を運ぶ厄介な虫=ツツガムシ」名前にも受け継がれたというわけです。
何気なく使っている「つつがなくお過ごしください」という挨拶の裏に、こんな由来が隠れていたとは驚きですね。唱歌「ふるさと」を口ずさむときも、「つつがなしや友垣」に込められた意味を思い出してみてくださいね。
最後まで読んでくださってありがとうございました!
『新明解語源辞典』(三省堂)
『暮らしのことば新語源辞典』(講談社)
『漢辞海(第四版)』(三省堂)






