ひらがなの「こと」と漢字の「事」の使い分け

帽子をかぶったカバのイラスト 表記の決まりごと

「事」と漢字で書く場合と「こと」とにする違いは?

「こと」というのは、「事なかれ主義」とか「事あるごとに」などと漢字で用いられるほかに、「生きていくこと」のようにひらなで書く場合もとてもたくさんあります。明確にその違いを探っていくことにしましょう。

形式的な用法の「こと」はひらがなで「こと」と書きます

ひらがなにするのは形式名詞の場合です。形式名詞というのは、前の語を名詞にしたり、あるいは補ったりするために用いられます。この場合はもともとの「事柄」という意味合いが薄れているのでひらがなにするんですね。

○前の語を名詞にする例
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悲しい  があった
悲しいことがあった
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本を読む  が好きです
本を読むことが好きです
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疲れる   はしたくない
疲れることはしたくない
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外国に行った  はありません
外国に行ったことはありません
○前の語の意味を補う例
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恩師   が忘れられない
恩師のことが忘れられない
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地質   をよく知っている
地質のことをよく知っている
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服装   などどうでもいい
服装のことなどどうでもいい

「こと」って、ほとんどひらがなでいいんじゃない?

「事」と漢字にする場合

「事」を「ジ」ではなく「こと」と読むのは、「事」そのものが名詞である場合と、「~事」のように熟語や複合語で名詞になるものとがあります。用例としては次のようなものがあります。

・事の重大さ
・事に当たる
・事のついでに
・事もなげに
・事なかれ主義
・事欠く
・事細かに
・悩み事
・習い事
・争い事
・願い事
・出来事
・見事
・物事

決まった言い回しになっている場合がほとんどだね。

例外的に「事」を「こと」にするケース

本来であれば「事」の用例に当てはまるものの、あえてひらがなにするものがあります。ついでに覚えてしまいましょう。

大ごと_:(大事だと「だいじ」と読めてしまうため)
人ごと_:(人事だと「じんじ」と読めてしまうため)
もめごと:(前の語がひらがななので続けてひらがなにする)
まねごと:(前の語がひらがななので続けてひらがなにする)

「人ごと」は「ひとごと」とも書きます。この場合の「ひと」は「他人」という意味になるので、「人間」の意味と区別して「ひと」とする考え方です。書き手の判断でどちらを用いても大丈夫です。

「私事」と「私ごと」と「私こと」について

「私事」というのは「漢語」ですから「シジ」と読みます。「私事都合により欠席します」などとよく用います。これは「個人的な」や「プライベートな」という意味です。「私事」は「わたしごと」や「わたくしごと」とは読みませんので、漢字で書いてあったら「シジ」とのみ読んでください。

それと区別するために、「和語」の「わたしごと」や「わたくしごと」の場合には「私ごと」にします。「私」は「わたし」とも「わたくし」とも両方とも読めるので、読みを特定したい場合には「わたくしごと」と表記するしかありません。

また、挨拶の文面で「私こと」というのを目にしたことがあるかと思います。「私こと」から始まって、「私こと このたび~」などと書いてありますよね。この「こと」は形式名詞ですので「ごと」ではなく「こと」になるんですね。