音のイメージが邪魔をする「すべからく」
突然ですが、クイズです。「学生は、すべからく勉強するべきだ。」という一文があったとします。これは次のうちどちらの意味だと思いますか?
① 学生は、みんな勉強するべきだ。
② 学生は、当然、勉強するべきだ。
――正解は、②なんです。
「すべからく」は「当然~すべきである」とか「ぜひとも~しなければならない」というように、義務や強い勧奨を表す言葉です。「すべて(みんな)」という意味ではありません。
でも、①だと思った人も安心してください。実は、「すべからく」を「すべて(みんな)」という意味だと思っている人は少なくないんです。文化庁の「国語に関する世論調査」でも、本来の意味と誤用とが半々ぐらいと拮抗していて、国会答弁やアニメのセリフ、新聞社のタイトルでも、誤用と思われる表現が指摘されているほどです。
実は、このように誤用が広まった結果、国語辞典に誤用の意味が「俗語」として掲載されるまでになった語もあるんですね。今回は、この「すべからく」の意味や使い方、そして誤用の類似例についてまとめてみたいと思います。
「すべからく」の意味と使い方
(「すべからく」の意味)
・当然〜すべきである
・ぜひとも〜しなければならない
「すべからく」は、「す(為)」に「べし」の未然形「べから」がついて、さらに接尾語の「く」がくっついて生まれた大和言葉です。
漢字で書けば「須(ら)く」です。必須の「須」ですから、このほうが本来の意味をイメージしやすいですね。高校の漢文の授業で「すべからく~べし(当然~するべきだ)」と習ったのを思い出した方もいらっしゃるかもしれません。
「All(すべて)」ではなく「Should(当然〜すべき)」ですから、後ろに「べきだ」とか「なければならない」という語をセットで用いるのが本来の使い方です。
(「すべからく」の使い方)
・すべからく〜べし
・すべからく〜べきだ
・すべからく〜なければならない
すべからくの用例
実際にどう使うのか、後ろに続く語のパターン別に見てみましょう。
「〜べし」で結ぶ場合
・教育者は、すべからく生徒の手本たるべし。
・リーダーたる者、すべからく謙虚たるべし。
「〜べきだ」で結ぶ場合
・経営者は、すべからく現場の声に耳を傾けるべきだ。
・文章を書く者は、すべからく読み手の立場を想像するべきだ。
「〜なければならない」で結ぶ場合
・公共の場に立つ者は、すべからく責任を自覚しなければならない。
・専門家は、すべからく最新の知見を学び続けなければならない。
なぜ「すべて」と誤解されてしまったのか
どうしてこれほどまでに誤用が広まってしまったのかというと、まず、「すべ」の発音が「全て」をイメージさせるということがあります。「須」は常用漢字表では「ス」としか読ませていないため、「すべからく」とひらがなで書きます。それで本来の意味が忘れられてしまったんですね。
それに、「必ず勉強しなさい」でも「みんな勉強しなさい」でも意味が通ってしまいますよね。それが誤用を生む原因だと考えられます。
例文:「学生は、すべからく学問に励むべし」
(○ 学生は、当然、学問に励むべきである)
(× 学生はみんな学問に励むべきである)
誤用が広まって意味が追加された例
言葉の意味は、時代とともに少しずつ変化していくものです。実は、もともとは誤用だったのに、使う人が増えたことで辞書にも新しい意味が追加された言葉は少なくありません。
【確信犯】
本来は「政治的・宗教的な信念に基づいて行われる犯罪」を意味します。しかし現在では、「悪いことだとわかっていて、わざと行う人」という意味で使われることが圧倒的に多いのが実情です。
【姑息(こそく)】
本来は、「一時しのぎ」や「その場しのぎ」という意味です。ところが、現在では「卑怯な」とか「ずるい」という意味で使われることがとても多くなりました。
【役不足】
本来、「その人の力量に対して役目が軽すぎること」を意味する言葉でした。しかし今では「本人の力量が役目に対して不足していること」という、正反対に近い意味で使われることが多くなっています。
でも、こうした例と比べると、「すべからく」は、正しい意味と誤った意味の理解がせめぎ合っている段階です。文化庁の調査では、平成22年度の41.2%から、令和2年度には54.8%へと、正しい意味を選ぶ人の割合はむしろ増えているんですね。
逆にいえば、半数の人が正しい意味を理解しているのですから、誤用を指摘されてしまうおそれもあります。その意味でも、「当然〜すべき」で使ってみてくださいね。
まとめ
「すべからく」は、「すべて」ではなく「当然〜すべきだ」という意味を持つ言葉です。「すべ」という響きが「全て」を連想させることや、誤って使っても文意が通じてしまうことが、誤用が広まった大きな理由と考えられます。
正しく使うコツは、「全」ではなく「須」をイメージするといいのではないかと思います。また、末尾の「べし/べきだ/なければならない」をセットで使ってくださいね。
言葉は生き物ですから、時代とともに意味が変わっていくこと自体は自然なことです。とはいえ、本来の意味を知るとやっぱり正しく使いたくなりますよね。ぜひ本来の意味の「すべからく」を使いこなしてみてくださいね。







