これで納得! 「所」と「ところ」の使い分けについて

表記の決まりごと

はじめに

「所」というのはもちろん場所や位置の意味で、「所番地」とか「高い所」「低い所」などと用いますよね。でも、「ところ」はみんな「所」になるわけではなくて、「ここのところ」とか「落としどころ」「悩みどころ」などはひらがなにするんですね。

このように、なんとなく使い分けている「所」と「ところ」ですが、どっちなのか迷うことも多いのではないでしょうか。そこで今回は、「所」と「ところ」の使い分けのポイントをまとめてみたいと思います。

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漢字にする場合① 実質名詞としての「所」

まず、「所」と漢字にする場合ですが、特定の場所や位置、住所の意味そのものとして用いる場合は「所」と漢字を用います。これを実質名詞といいます。「所」を「場所」と言い換えてみて、意味が通るときには「所」を用いてください。

(「場所/位置」の意味の「所」)
・高い所に避難してください。
・狭い所は苦手なんです。
・日当たりのいい所に移動しよう。
・実家は不便な所にあるんだよ。
・ここは昔は学校があった所です。
 など

漢字にする場合②「所」を用いた熟語や慣用的な表現

また、熟語や慣用的な表現の場合は「所」を用います。決まった言い方の場合は読み間違える心配もありませんので漢字で書くんですね。例えば、「台所」のほか「所狭し」や「所構わず」などは漢字にします。

(「所」を用いた熟語や慣用句)
・台所
・居所
・所番地
・至る所
・所狭し
・所を得る:
・所構わず
・所嫌わず
 など

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ひらがなにする場合① 形式名詞としての「ところ」

「ところ」は、もともとの「場所」という意味が薄れてしまって、意味を添える役割にとどまっている用い方がたくさんあります。これを「形式名詞」といいます。「ところ」に「場所」を当てはめてみて、意味が通らなければ、それは形式名詞です。

例えば、「今のところは大丈夫です」の「ところ」に「場所」と入れてみると「今の場所は大丈夫です」になって意味が通りません。このように、本来の意味から離れてしまっている場合には「ところ」とひらがなにするんですね。

(形式名詞の「ところ」の例)
・今のところは大丈夫です。
・ちょうどいいところに来たね。
・そこが夫のいいところです。
・このところ悪天候が続いている。
・そこが腕の見せどころだ。
・望むところだ。受けて立とう。
・つかみどころのない事件だな。
・落としどころをみつけよう。
・ここが勝負のしどころだ。
・彼は非の打ちどころがない人間だ。
・私の知るところではありません。
・法律の定めるところによる。
 など

ひらがなにする場合② 誤読のおそれがあるもの

また、「所」は「ところ」とも「ショ」とも読みますので、誤読のおそれがある場合はひらがなにします。例えば、「食事所」というと、「しょくじどころ」とも「しょくじしょ」とも読めてしまいますので、そういう場合は「食事どころ」にするんですね。「甘味どころ」も同様です。

飲食店などでは「処」を用いることも多いですよね。「処」は「……するのにふさわしいところ」という意味があるようです。ただ、常用漢字表においては「処」は「ところ」という読みが示されていないため、基本的には「処」は「ところ/どころ」と書くことになります。

ほかには、「お休み所」のような場合も、誤読のおそれがありますので「お休みどころ」にしてくださいね。

・お食事どころ
・甘味どころ
・お休みどころ
 など

ひらがなにする場合③ 具体的な「場所/位置」を示さないもの

実質名詞の「所」であってもひらがなにしたほうがよいこともあります。

例えば、「姉のところに身を寄せています」というときに、確かに姉のいる場所に一緒に住まわせてもらっているのでしょうが、場所が問題なのではなく、姉にあれこれお世話になっていることを言っているわけですね。

また、「この道を曲がったところで待っていてください」という場合も、曲がった場所そのものというよりも、「曲がったあたりで」というような広い範囲を示しています。

「おなかの右の下のところが痛いです」というときも、「右のあたり」というような漠然とした位置のことを指しています。

このように、「所」と漢字で書くと「場所」や「位置」の意味が強く出てしまうため、そぐわないと思う場合にはひらがなにしてみてください。これは実質名詞ですが、表現の工夫の範疇(はんちゅう)になるのではないかと思います。

(ひらがなを検討すべき実質名詞の例)
・姉のところに身を寄せています。
・この道を曲がったところで待っていてください。
・おなかの右の下のところが痛いです。
 など

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その他(表記のゆれについて)

ここまで、「所」と「ところ」の使い分けをまとめてきましたが、実際のところ両者の使い分けは難しくて、各表記辞書でも対応が分かれているんですね。

例えば、新聞・マスコミ表記では「ある所」「至る所」「勘所」「居所」を採用していますが、議事録表記では「あるところ」「至るところ」「勘どころ」「居どころ」にするように示しています。

個人的には「ところ」とひらがなで開くほうが好きですが、そのあたりはそれぞれの語感に違いがあると思いますし、文脈にフィットするほうを選んでみてください。少なくても、「必ずこうしなければならない」というものではないということは言えそうです。

まとめ

・実質名詞の「所」は漢字にする。
・「所」を用いた熟語や慣用的な表現は漢字にする。
・形式名詞としての「ところ」はひらがなにする。
・誤読のおそれがある場合はひらがなにする。
・「位置/場所」を強調したくない場合は実質名詞でもひらがなにする。

今回は「所」と「ところ」の使い分けをまとめてきましたが、あまりはっきりとしたことをお伝えできなかったかもしれません。それだけ日本語の表記は複雑だということでご容赦くださいませ。

ここまでお読みくださってどうもありがとうございました。