はじめに
昔話は誰もが小さい頃に触れていて、ぼんやりと覚えているものですが、時がたつにつれて内容があやふやになっていたりしますよね。大人になってから改めて読み返してみると、思っていたのとは全く違う感想になったりするものです。それは、いつのまにか自分が聴き手から語り手の立場になったからでしょうか。それとも、少しばかりは人生の機微を味わってきたからでしょうか。
流行の小説や役に立つ実用書ばかりでなく、たまには昔話に触れてみると、新たな発見がありそうです。ここでは、そんな大人のみなさんに、改めて昔話を楽しんでいただくための昔話のエッセンスをお伝えしてみたいと思います。今回は『桃太郎』です。
「日本一」なのは「きびだんご」だった?
「桃太郎」は日本の昔話を代表する物語で、日本の昔話といえば、真っ先に思い浮かぶのが「桃太郎」ですよね。昔話は子ども向けにわかりやすく書き直されますので、再話者によって少しずつ異なっていることがあります。もちろん、どれが正解ということはないのだと思いますが、複数のお話を読み直してみたところ、おざわとしお(小澤俊夫)さんが再話されたお話がとってもおもしろく印象に残りました。
私はずっと、桃太郎が背負っている「日本一」の旗は、自分の存在をアピールする、いわば戦国武将の旗印のようなものだと思っていたのですが、おざわさんの再話によると、どうやらそうではなかったようなんです。
犬と猿とキジに「お腰のものは何ですか?」と問われて、桃太郎は、「これは日本一のきびだんご。一つ食えばうまいもの、二つ食えばにがいもの、三つ食えばからいもの、四つ食えば頭の鉢がざるになる」と答えます。日本一なのは「きびだんご」だったんですね。そして、「一つしか分けてやらないぞ」という強い気持ちが込められていて少し笑ってしまいます。自分の分がなくなってしまいますからね。
それにしても、きびだんごのおかげで家来を得て見事に鬼退治できたストーリーにしたのはなぜでしょうか。一人でできることは限られていて、みんなと協力することが大事だというのはもちろんですが、もしかすると、きびだんごを持たせることで親の存在をさりげなくアピールしたかったのではないでしょうか。
現代においても、活躍するスポーツ選手は必ず親御さんが紹介されます。自慢のお子さんですから当然ですよね。「桃太郎」も同じように、「私がこの子を育てました」というような証しとしてきびだんごを登場させたのかなと思いましたが、皆さんはどうお感じになられるでしょうか。
さて、そんな親たちがわが子に託した「願い」の切実さは、物語に登場する「鬼」の姿にも表れているように思います。
「桃太郎」に登場する「鬼」の正体とは?
「桃太郎」には「鬼」が登場しますが、この鬼というのは生活をおびやかす存在を象徴しているものと考えられます。そしてその鬼は、時代によって変化していったにちがいありません。あるときは厳しく年貢を取り立てる村役人であり、あるときは村外からやってくる盗賊であり、また、あるときは初めて見た異国の人が、驚きのあまり鬼に見えてしまったかもしれません。
不遇な生活の中で、せめて子どもにはたくましく育ってほしい、できれば都で一旗揚げて故郷に錦を飾ってほしい、そう願うのは親として自然な気持ちであったことでしょう。そんな親の願いが「桃太郎」というヒーローを生んだのではないかと思います。
昔話は、子どもをしつけたり教育するためだけのものではなく、それを語ることで親自身のカタルシスにもなるものです。いつかわが子が立派に成長して村のみんなに尊敬されるようになったら、今の苦しい立場も逆転するかもしれない、そんなあてどのない夢をみながら「桃太郎」を語り聞かせる母親たちの姿が目に浮かぶような気がします。いつの時代においても、わが子にかける期待は変わらないのかもしれません。
『桃太郎』のあらすじをまとめました
最後に、「『桃太郎』ってどんなお話だったっけ?」と筋書きが気になった方のために、内容を短くまとめておきました。よかったらご一読くださいね。
(あらすじ)
昔、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。ある日、おばあさんが川で洗濯をしていると、川上から大きな桃が流れてきました。おばあさんがこの桃を持ち帰りおじいさんと一緒に食べようとしたところ、中から男の子が出てきたので、ふたりはその男の子を「桃太郎」と名づけ、大切に育てたのでした。
桃太郎がすくすくと大きくなったある日のことです。このころ村には鬼がやってきて村人たちを襲っていたため、それを見かねた桃太郎は鬼ヶ島へ鬼退治に行くことを決意します。それを聞いたおじいさんとおばあさんは驚きながらも、きびだんごを持たせて桃太郎を送り出します。
鬼ヶ島に向かう途中で犬に出会いました。桃太郎はきびだんごを渡して犬を家来にしました。少し行くと猿に出会いました。この猿もまた同様に家来になりました。さらにキジもやってきて、やはりきびだんごと引きかえに家来になりました。
鬼ヶ島に到着すると、鬼たちは宴会の最中でした。「われこそは桃太郎。村を襲う鬼を成敗してやろう!」、桃太郎はそう口にすると鬼に飛びかかりました。犬はかみつき、猿はひっかき、キジはつついて一緒に戦いました。とうとう鬼たちは降参し、持っていた宝物を差し出して、もう二度と村を襲わないと約束しました。桃太郎は、その宝物を村に持ち帰ってみんなに感謝されたのだでした。めでたしめでたし。
まとめ
昔話は、時代や語り手によってその姿を変えていきますが、『桃太郎』に登場する「鬼」もまた、時代が変わった今も、さまざまに形を変えて私たちの生活を脅かしているのかもしれませんね。
桃太郎については以上になります。最後まで読んでくださってありがとうございました。
ちなみに、おざわとしおさんが再話された「桃太郎」はこの本に収録されています。ご興味がおありでしたらご覧くださいね。


