語の構成用語としての数は漢数字にする
横書きの数字の書き方の(2)です。(1)において、基本的に横書きの場合、文章中でも算用数字を用いると述べましたが、語の構成用語として用いられる数は漢数字を使います。「構成用語」というのは、熟語、故事、成句、慣用句などのことで、例としては次のようなものがあります。

横書きであっても「五里霧中」を「5里霧中」とは書かないということだよね。
数を表す役割が失われている場合の表記
また、数を表す役割が薄れている場合も漢数字にします。数を示しているなら算用数字ですが、数を数えているわけではない場合には漢数字を用いるんですね。
例としては次のようなものがあります。
・一日中、ずっと飽きずに勉強していた。
・心を一つにして試合に臨もう。
・百八十度、考え方が変わった。
数を数えているのか、数えていないのかについては、数字を入れ替えてみても意味が通るかどうかで判断します。
「一人でも多くの人に来てもらいたい」の「一人でも」というのは、「少しでも」「できるかぎり」という意味で、「3人でも多くの人に来てもらいたい」という言い方はしませんよね。ですから、これは「一人でも」と漢数字にします。
「百八十度、考え方が変わった」という場合ですが、ここでの「百八十度」というのは具体的な角度のことではなく「真逆」「正反対」の意味です。角度そのものの数のことを表しているのであれば「120度考え方が変わった」という言い方も成立するはずですが、それでは意味が通りませんから「百八十度」と漢数字を用います。
同じように、「一日中」は「朝から晩まで」という意味ですし、「心を一つにして」は「心を2つにして」はありませんので、それぞれ漢数字で書きます。
もう少し考えてみましょう。同じ読みでも数字を入れ替えられる場合と入れ替えられない場合があります。
「二度と繰り返さないでほしい」や「二度あることは三度ある」は数字が入れ替えられないので漢字です。「これで2度目の失敗だ」は、失敗が「3度目」「4度目」の場合も想定できるので算用数字で書きます。もちろん「室内の気温が2度まで下がった」というときも、気温は上下しますので算用数字ですね。

なるほどね。漢数字と算用数字の使い分けが可視化できた気がする。
「○次」「第○」の扱い方について
「次」や「第」は数字に添えて順番を示すものですが、以前は公用文や議事録が縦書きだったこともあり漢数字のものがたくさんあります。ですから、ずっと伝統的に漢字で引き継いできたものは、今後もそのまま踏襲していくことになります。
ただ、横書きが圧倒的に増えている現在、これから用いていくにはどういう点に気をつけたらいいのでしょうか。これについては『NHK漢字表記辞典』の説明がとても明快なので引用させていただきます。
NHKでは「次」や「第」について、「原則は算用数字だが、歴史的な慣用がある場合や、特定のものを指す場合、数が増えないと考えられる場合は漢数字とする」として、漢字で書く例を次のように示しています。
第三国 第三者 第三極 第三世界
ポイントは「数が変わらない」ということです。もしも回数が増えていく場合は「第5次計画を作成した」というように用います。「6次計画」も「7次計画」もありますからね。これが「第二次産業革命」や「福島第一原子力発電所」のような固定的な用いられ方とは異なる点です。
ただ、この原則からすると漢数字がふさわしいのに、算用数字になっていることもありますよね。NHKのテロップを見ていても、「第1発見者」などとしているのはよく見かけます。これは、なるべく漢数字と算用数字の混在を避けたいということからそのようにしているのだと思います。
公用文や新聞表記でも原則としては同じですが、ネットメディアを含めて横書きの数字の表記はかなりばらつきがあるのも事実です。ただ、原則を知っていることはとても大事だと思いますよ。
「6次産業」はなぜ算用数字?
ついでに「6次産業」についても触れておきたいと思います。2011年あたりから「6次産業」や「6次化」という用語が非常に多く用いられるようになりました。小学校で学習したように、第一次産業、第二次産業、第三次産業と、産業の区分は漢数字で表記しているのに、6次産業だけ算用数字を用いています。これはなぜでしょう。
第一次産業とは、自然界から必要なものを採取したり生産したりする産業です。農林漁業や酪農畜産などがこれに当てはまります。
第二次産業とは、第一次産業が採取・生産してきた原材料を加工する産業で、主に製造業がこれに当てはまります。
第三次産業とは、第一次産業、第二次産業以外のもので、その多くがサービス業になります。
「6次産業」または「6次化」とは、主に農業分野において用いられる用語で、生産者みずからが製造・加工・販売まで手がけ、経営を多角化する形態のことを言います。
横書きの数字の書き方(3) に続きます。