横書きの数字の書き方(3)

漢字かな以外の表記

和語の数の表記のこと

これまで、「横書きの数字の書き方(1)」と「横書きの数字の書き方(2)」において、基本的な数字の表記について述べてきましたが、ここでは和語の数詞について考えていきたいと思います。

日本語には「漢語」と「和語」があって、「和語」というのはもともと日本に存在したことばです。訓読みのものがそうですね。そして、「ひとつ、ふたつ」「ひとり、ふたり」「ついたち、ふつか」などは和語です。

常用漢字表を見ると、「和語の数詞は漢数字で書く」ように示してあります。一方で、「横書きの数詞は算用数字を用いる」という原則もあります。ただ、これを両方とも守ろうとすると不都合が生じてしまうことがあります。

次の用例を見てください。

・5個のうち一つだけ選んでください。
・5人のうち一人だけ選出してください。
・5月一日は学校が休みになります。

このように漢数字と算用数字が混在して統一感が欠けてしまいますよね。それで、公用文においては、和語であっても「明確に数を数えているような場合などに限って」算用数字を用いてもよいことにしています。

・5個のうち1つだけ選んでください。
・5人のうち1人だけ選出してください。
・5月1日は学校が休みになります。

これであれば統一感が生まれますよね。

まず、このことを基本にしながら、算用数字にしてはいけないケースや、ひらがなにしなければならない場合などについて確認していくことにしましょう。

 

漢数字より算用数字のほうが、なんとなく親しみがあるよね。

「一つ」 「1つ」「ひとつ」どれにする?

まず、「一つ」と「1つ」について考えてみましょう。前述したように、横書きの文章においては、数を数えているものは算用数字を用いてもよいことになっていますが、熟語やことわざを構成している場合や漢字で書く習慣が強いものは漢数字で書きます。

(数を数えている)
・お菓子が1つ、そこに落ちていました。
・1つだけ違う種類のものが入っていた。
・最後に1つ残ったものをどうしましょうか。

(慣用句や成句になっている)
・一つ釜の飯を食った仲じゃないか。
・一つ穴のむじなになりかねないよ。
・文化祭では一つ目小僧の仮装をしようと思う。

このように使い分けます。ただし、数を数えているからといって、必ず「1つ、2つ」にするということではなくて、「算用数字を用いてもよいですよ」という意味ですので、もちろん漢数字を用いても大丈夫です。

(公用文ではどちらも許容されています)
・5個のうち一つだけ選んでください。
・5個のうち1つだけ選んでください。

一方、新聞表記(『記者ハンドブック』)は、数詞の場合も「一つ、二つ」と書くように示しているんですね。新聞は縦組みが基本ですので、そのことも影響しているものと思います。長年、そのような表記に触れていると、「ひとつ、ふたつ」という場合には「一つ、二つ」にするべきだと感じていらっしゃる方も多いのではないかと思います。

調査によると、「ひとつ、ふたつ」を「一つ、二つ」にするのがよいと感じている方も一定数いらっしゃるようでしたが、若い世代を中心に「1つ、2つ」のほうが親近感があると感じている割合が高いこともわかっています。現在は、「どちらを用いてもよい」ということですので、これは書き手に委ねられているということになりますね。実際のところ、ウェブ発信が多くなっている現在では、数詞の場合は「1つ、2つ」にしている割合が高くなっているようです。

副詞的な用法では「ひとつ」にします

ただし、「ひとつ」とひらがなにしなければならないこともあるんです。それは副詞的な用法の場合で、具体的には次のようなものです。

・そこのところ、ひとつよろしくお願いします。
・思い切って、ひとつ、やってみるとするか。
・いまひとつ納得がいかないな。

この場合の「ひとつ」は数詞ではなくて、「ちょっと」のような意味ですね。「ひとつ頼むよ」は「ちょっと頼むよ」というようなニュアンスです。このような表現は、社会経験を積んだ大人が用いるイメージがありますが、「いまひとつ」というのは若い人でも用いますよね。「いまいち」ともいいますが、いずれにしてもひらがなで表記します。

「ひとつよろしく」って偉い人の挨拶なんかで聞くことがあるわね。

「ひとつひとつ」は「一つ一つ」と書きます

次に「一つ一つ」についてですが、公用文においては、「2字以上の繰り返しはそのまま書く」としていて、その例として「一つ一つ」「一人一人」「一歩一歩」などを挙げています。

ですので、「ひとつひとつ」は「一つ一つ」と書くのが基本で、これは新聞表記でも議事録表記でも同じです。「一つ一つ」は和語であるばかりでなく、「順を追って丁寧に」という慣用表現でもあります。数を数えているのであれば「2つ2つ」という表現も成り立つはずですが、それでは意味が通りませんので、「一つ一つ」がふさわしいんですね。

また、表現に自由度がある場合であれば「ひとつひとつ」も可能です。

序数詞は「1つ目」と書くことができます

「1つ、2つ、3つ」というのは数を数える数詞で、これを基数詞といいます。一方で、「1つめ、2つめ、3つめ」というように順序を示すことがありますよね。英語であれば「ファースト、セカンド、サード」ですが、これを序数詞といいます。

序数詞の「1つめ、2つめ」というのは「1つ目、2つ目」と表記できます。序数詞に限って「目(め)」を用いてもよいことになっているんですね。漢数字で「一つ目、二つ目」と書く場合も同様です。

ただし、序数詞ではない「め」はひらがなです。「濃いめの味ですね」とか、「もう少し高めにしましょう」「厳しめに評価しました」などの場合の「め」です。

序数詞でも、もちろん「1つめ」や「一つめ」にしても大丈夫ですが、議事録の場合は「目」を用いてくださいね。

「ひとつ」についての考察

ここまで「一つ」「1つ」「ひとつ」の使い分けについて基本的なところを述べてきました。

ここからは考察になります。皆さんは、下のような場合、どちらが望ましいと感じるでしょうか。

・あなたの気持ち一つだ。
・あなたの気持ちひとつだ。
_
・病気一つせずに健康そのものです。
・病気ひとつせずに健康そのものだ。

私は「ひとつ」のほうがしっくりするように思います。なぜなら、「あなたの気持ちひとつだ」は「あなたの気持ち次第だ」という意味ですし、「病気ひとつせずに」は「病気を一切しないで」ということですから、これらは数詞ではないと捉えられますよね。

数詞ではない場合には漢数字を用いればいいかもしれませんが、「一つ」と漢字で書いたとしても数詞としての意味合いは残ったままです。ですから、数詞から自由になるためには「ひとつ」とひらがなにしたほうが意味がすっきりするように思いますが、いかがでしょうか。

実際に、このような場合に「ひとつ」とひらがなで表記してある文章も多く見受けられますが、これについては、そうしてよいという根拠をお示しできませんので、表記に厳格な縛りがあるお立場の方は「一つ」にしてくださいね。

 

「ひとつ」をひとつとっても難しいものだね。

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「一人」「1人」「独り」「ひとり」どれにする?

続いて「ひとり」について確認していきたいと思います。これも基本的に「ひとつ」と同じです。和語である「一人」は基本的に漢数字ですが、横書きの場合、数を数えていれば算用数字で書いて統一感をもたせます。

・30人クラスのうち二人が欠席しました。
___
・30人クラスのうち2人が欠席しました。
_
・7人に課題を出して、正答したのは一人だけです。
___
・7人に課題を出して、正答したのは1人だけです。

これは問題ないと思います。

「ひとり」を「一人」と漢字で書く場合

横書きの場合でも、漢字で「一人、二人」としなければならないこともあります。漢字で書くのは、成語や熟語、または漢字で書く習慣が強いものです。

・一人娘
・一人旅
・一人残らず
・二人といない人材

このように、決まった言い方になっているものや、数を数えているわけではないときには「一人、二人」と漢数字にしてくださいね。

「ひとりひとり」は「一人一人」と書きます

「一つ一つ」で触れましたが、公用文においては、「2字以上の繰り返しはそのまま書く」として、その例として「一つ一つ」「一人一人」「一歩一歩」などを挙げています。ですから、「ひとりひとり」は「一人一人」と書くのが一般的です。

ただ、議事録表記においては「一人一人」の欄に「1人1人」という表記も掲載されていて、「1人1人」を許容しています。これは、「1人」という数詞の連続として「1人1人」にするという考え方ですので、この表記も間違いではありません。

また、表現の工夫として「一人ひとり」と書くことも可能ですが、「1人ひとり」とは書けませんので注意してください。

「一人」と「独り」の使い分けのこと

重要なのは「一人」と「独り」の使い分けです。まず「独り」について確認していきましょう。

「独り」を用いる代表的なものは次のとおりです。

・独り占め
・独り合点
・独り言
・独りぼっち
・独り舞台
・独り相撲
・独り身
・独り善がり など

お気づきかもしれませんが、「単独」「孤独」という熟語があるように、「独」はどちらかというとマイナスなイメージがつきまといますので、用いる場合には少し気をつけたいところです。もちろん「独立」というように前向きな意味として用いることもできますが、解釈が一定ではないのが難しいですね。場合によっては「ひとり」とひらがなで逃げてもいいかもしれません。

・独り歩き:数字だけが独り歩きしてしまった格好です。_
・独り暮らし:独り暮らしの高齢者の孤独死が問題となっています。
(一人暮らし)親元を離れて念願の一人暮らしを始めました。

なるほどね。「独」を用いるときは気をつけなくちゃ。

「ひとり」を「ひとり」とひらがなで書く場合

次のようなものは算用数字や漢数字を用いずにひらがなで書きます。

・ひとり親
・ひとりでに

「ひとり親」は父親か母親、どちらか一方で子育てをしている親御さんのことですが、国の政策においても「ひとり親家庭等支援」など、この表記で統一しています。

「ひとりでに」は、「自動的に」「何もしていないのに」という意味ですが、人の数からは意味が離れているので「ひとりでに」とひらがなにします。

まとめ

ここまで「ひとつ」や「ひとり」などの和語の数詞について、注意したい点を述べてきました。

・和語の数詞は基本的に漢数字にする
・数を数えている場合は和語の数詞でも算用数字にしてよい。
・「ひとつ」や「ひとり」はあえてひらがなで表記する場合もある
・「一人」と「独り」の使い分けに注意する。

上記のようなことに気をつけて、わかりやすく数字を表記してみてくださいね。