「あずかる」には「預かる」と「与る」があるんです

もう迷わない 漢字のチョイス

「あずかる」の表記について考えてみましょう

「あずかる」というときに、真っ先に思い浮かぶのは「預かる」ですよね。「お金を預かる」や「荷物を預かる」などと用います。

では、「おほめにあずかり光栄です」というような場合にはどうでしょうか。この「あずかる」は、漢字で書けば「与る」です。ただし、常用漢字表を見ると「与」には「ヨ」と「あたえる」の読みしかありませんので、「あずかる」とひらがなで表記するんですね。

それぞれ、もう少し詳しく見ていくことにしましょう。

「預かる」と「与る(あずかる)」の意味の違い

「預かる」には大きく次のような意味があります。

①頼まれて、返すまで責任を持って守る
・手荷物はこちらでお預かりしますね。
②責任を持って物事を取りしきる
・患者さんの命を預かっているんです。
③結末のつけにくい物事の結末を任せられる
・その辞表はとりあえず僕が預かるよ。

一方、「与る(あずかる)」には次のような意味があります。繰り返しになりますが、「与」に「あずかる」という読みは示されていないため、ひがなで表記します。

①物事に関係する
・政策の立案にあずかった立場で申し上げます。
②評価や志を受ける
・お招きにあずかりうれしゅうございます。

このように、「預かる」なら漢字で書いて、「与る」の意味であれば「あずかる」とひがなで表記するんですね。

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「あずかり知らぬ」とは?

「あずかり知らぬ」とは、漢字で書けば「与り知らぬ」になりますが、これも同じようにひらがなで「あずかり知らぬ」と書きます。「あずかり知る」で「関与する」「関知する」という意味ですが、否定形で「あずかり知らぬ」という形になるのがほとんどで、関係していない、関知していないことを強調する場合に用いられます。

・夫の行動など私のあずかり知らぬことです。

「与する(くみする)」とは?

「与する」という表記を見かけたことがあると思いますが、これは「よする」ではなく「くみする」と読みます。

ただ、前述したように、常用漢字表では、「与」という漢字は「ヨ」と「あたえる」という読みしかありませんので、「くみする」という場合にも原則としてひらがなで表記します。

「くみする」というのは、「仲間になる」とか「味方になる」ということですが、「くみしやすい」という形で用いると、「相手にしやすい」「扱いやすい」という意味になります。

・私はどの意見にもくみするつもりはありません。
・初戦はくみしやすいチームで助かったよ。

「組」を代用字として用いている例も見かけますが、「組する」というのは意味が異なってしまいますので、やはり「くみする」とひらがなで表記するのがよいと思います。漢字の「与」を用いたい場合には、初出にルビやふりがなを用いるなど、工夫してみてくださいね。

「預かる」に関連する慣用句を確認しましょう

最後に「預かる」に関連する慣用句をいくつか確認しておきましょう。

「げた(下駄)を預ける」とは?

げたを預けると、自分は出かけられなくなってしまうことから、ある問題について、その処理や方法などの責任を誰かに任せることです。

・最後の判断はあなたを信じてげたを預けます。

「盗人(ぬすびと)に鍵を預く」とは?

泥棒に鍵を預ければ、当然、家に入ってものを盗まれてしまうことから、悪人と知らずに便宜を図って被害を大きくすること、または、意図せずに災いのもとになるものを助長してしまうことです。

・貸したお金で怪しい商品を売っていたとは、盗人に鍵を預けたようなものじゃないか。

まとめ

 いかがでしたでしょうか。「あずかる(与)」という表現は「預かる」に比べて出番が少ないかもしれませんが、「おほめにあずかり光栄です」を「おほめに預かり」と書かないように注意したいところです。日本語の表記はややこしいですからね。

「ご紹介にあずかりました○○です」とか、今度、自分でも使ってみようっと。