はじめに
『ちはやふる』を見ていたら、『小倉百人一首』を覚えたくなって、読みと意味と決まり字を一覧にしてみました。まとめるのにとても時間がかかりましたが、どうやら自分には覚えられそうにありません。でも、せっかくまとめたので誰かのお役に立てたらいいなと思います。暗記しなくても、百人一首に目を通してから『ちはやふる』をもう一度鑑賞すると、内容が深く理解できていいですよ!
歌意に間違いがないか参考書と突合して修正をかけていますが、コンパクトにしたので、あくまで暗記の補助としての歌意とお考えください。参考文献は西東社の『まんが百人一首大辞典』を用いています。同志社女子大の吉海直人先生が監修されていたので選びました。よい本でしたので、記事の最後でご紹介させていただきたいと思います。
番号/決まり字の数/決まり字―下の句冒頭
読み/書き/歌意/作者名(性別)
※凡例:♂男性 ♀女性 ∩坊主 X不明(蝉丸)
『小倉百人一首』決まり字/読み/歌意/作者一覧
001 3字(あきの――わがころもでは)
あきのたの かりおのいおの とまをあらみ わがころもでは つゆにぬれつつ
秋の田の かりほの庵の 苫をあらみ わが衣手は 露にぬれつつ
秋の田んぼの脇の小屋にいたら、屋根のむしろが粗いので、私の着物の袖は露にぬれてしまいました。(天智天皇♂)
002 3字(はるす――ころもほすちょう)
はるすぎて なつきにけらし しろたえの ころもほすちょう あまのかぐやま
春過ぎて 夏来にけらし 白妙の 衣ほすてふ 天の香具山
春が過ぎて夏が来たようですね。だって、天の香久山にあんなに真っ白い衣が干されているんですから。(持統天皇♀)
003 2字(あし――ながながしよを)
あしびきの やまどりのおの しだりおの ながながしよを ひとりかもねん
あしびきの 山鳥の尾の しだり尾の ながながし夜を ひとりかも寝む
山鳥の尾が長く垂れ下がった尾と同じくらい長い夜を、私はひとりぼっちで寂しく寝るんでしょうか。(柿本人麿♂)
004 2字(たご――ふじのたかねに)
たごのうらに うちいでてみれば しろたえの ふじのたかねに ゆきはふりつつ
田子の浦に うち出でてみれば 白妙の 富士の高嶺に 雪は降りつつ
田子の浦の浜辺に出て向こうを見ると、白い富士山の頂上に雪が降り続いていることですね。(山辺赤人♂)
005 2字(おく――こえきくときぞ)
おくやまに もみじふみわけ なくしかの こえきくときぞ あきはかなしき
奥山に 紅葉踏み分け 鳴く鹿の 声聞く時ぞ 秋は悲しき
奥深い山の中で、散った紅葉を踏み分けて鳴いている鹿の声を聞くと、秋は悲しい季節だなと思います。(猿丸大夫♂)
006 2字(かさ――しろきをみれば)
かささぎの わたせるはしに おくしもの しろきをみれば よぞふけにける
かささぎの 渡せる橋に おく霜の 白きを見れば 夜ぞふけにける
かささぎが天の川に渡すという橋に似ている宮中の階段の霜が白くなっています。すっかり夜が更けてしまったのですね。(中納言家持♂)
007 3字(あまの――みかさのやまに)
あまのはら ふりさけみれば かすがなる みかさのやまに いでしつきかも
天の原 ふりさけ見れば 春日なる 三笠の山に 出でし月かも
広々とした空を見渡すと月が出ていますが、あの月はふるさとの春日の三笠の山に出ていた月と同じなんですね。(阿倍仲麿♂)
008 3字(わがい――よをうじやまと)
わがいおは みやこのたつみ しかぞすむ よをうじやまと ひとはいうなり
わが庵は 都の辰巳 しかぞ住む 世をうぢ山と 人はいふなり
私の住む家は都から東南のほうにあって、心静かに暮らしています。それなのに、みんな私が世を憂いて宇治山で暮らしていると言っているようです。(喜撰法師∩)
009 3字(はなの――わがみよにふる)
はなのいろは うつりにけりな いたずらに わがみよにふる ながめせしまに
花の色は 移りにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせし間に
桜の花の色は長雨が続く間に色あせてしまいました。私の容姿ももの思いにふけっている間に衰えてしまいました。(小野小町♀)
010 2字(これ――しるもしらぬも)
これやこの ゆくもかえるも わかれては しるもしらぬも おうさかのせき
これやこの 行くも帰るも 別れては 知るも知らぬも 逢坂の関
これが、都から出ていく人も都へ帰る人も、知っている人も知らない人も、ここで別れてはまた会うという逢坂の関なのですね。(蝉丸X)
011 6字(わたのはらや――ひとにはつげよ)
わたのはら やそしまかけて こぎいでぬと ひとにはつげよ あまのつりぶね
わたの原 八十島かけて 漕ぎ出でぬと 人には告げよ 海人の釣り舟
大海原のたくさんの島々を目指して船をこぎ出していったと告げてください、漁師の釣り舟よ。(参議篁♂)
012 3字(あまつ――おとめのすがた)
あまつかぜ くものかよいじ ふきとじよ おとめのすがた しばしとどめん
天つ風 雲の通ひ路 吹き閉ぢよ をとめの姿 しばしとどめむ
天を吹く風よ、雲の通り道を閉ざしてちょうだい。美しい天女たちの姿をもう少しとどめておきたいから。(僧正遍昭∩)
013 2字(つく――こいぞつもりて)
つくばねの みねよりおつる みなのがわ こいぞつもりて ふちとなりぬる
筑波嶺の 峰より落つる 男女川 恋ぞつもりて 淵となりぬる
筑波山の頂上から流れ落ちる男女川の水かさが増して淵となるように、私の恋心もつもって淵のように深くなってしまいました。(陽成院♂)
014 2字(みち――みだれそめにし)
みちのくの しのぶもじずり たれゆえに みだれそめにし われならなくに
陸奥の しのぶもぢずり 誰ゆゑに 乱れそめにし 我ならなくに
陸奥で作られる「しのぶもじずり」の模様のように私の心は乱れています。それは誰のせいかというと、私ではなくて、みんなあなたのせいですよ。(河原左大臣♂)
015 6字(きみがためは――わがころもでに)
きみがため はるののにいでて わかなつむ わがころもでに ゆきはふりつつ
君がため 春の野に出でて 若菜つむ わが衣手に 雪は降りつつ
あなたのために春の野原に出かけて若菜を摘む私の着物の袖に、雪がしきりに降り続けています。(光孝天皇♂)
016 2字(たち――まつとしきかば)
たちわかれ いなばのやまの みねにおうる まつとしきかば いまかえりこん
立ち別れ いなばの山の 峰に生ふる まつとし聞かば 今帰り来む
私はあなたと別れて因幡の国へ行きますが、稲羽山の峰に生える松のように、私の帰りをあなたが待っていると聞いたなら、すぐに帰ってまいりましょう。(中納言行平♂)
017 2字(ちは――からくれないに)
ちはやぶる かみよもきかず たつたがわ からくれないに みずくくるとは
ちはやぶる 神代も聞かず 龍田川 からくれなゐに 水くくるとは
神代の昔にもこんな不思議なことがあったなんて聞いたことがありません。龍田川の水面に紅葉が散って水を真っ赤な絞り染めにするとは。(在原業平朝臣♂)
018 1字(す――ゆめのかよいじ)
すみのえの きしによるなみ よるさえや ゆめのかよいじ ひとめよくらん
住の江の 岸に寄る波 よるさへや 夢の通ひ路 人目よくらむ
住吉の海岸に寄せる波の「よる」ではないけれども、夜の夢の中で私に会う通い道でさえも、どうしてあなたは人目を避けるのですか。(藤原敏行朝臣♂)
019 4字(なにわが――あわでこのよを)
なにわがた みじかきあしの ふしのまも あわでこのよを すぐしてよとや
難波潟 短き葦の 節の間も 逢はでこの世を 過ぐしてよとや
難波潟に生えている葦の節と節の短い間ぐらいであってもいいので会いたいのに、このまま会うこともなくこの世を過ごせというのでしょうか。(伊勢♀)
020 2字(わび――みをつくしても)
わびぬれば いまはたおなじ なにわなる みをつくしても あわんとぞおもう
わびぬれば 今はた同じ 難波なる みをつくしても 逢はむとぞ思ふ
悩み苦しんでいるので、もうどうなっても同じことです。難波潟の「みをつくし」のように、この身を尽くしてもあなたにお逢いしたいと思っています。(元良親王♂)
021 3字(いまこ――ありあけのつきを)
いまこんと いいしばかりに ながつきの ありあけのつきを まちいでつるかな
今来むと いひしばかりに 長月の 有り明けの月を 待ち出でつるかな
「今すぐ行くよ」とあなたがおっしゃったばかりに、9月の秋の夜長を今か今かと待つうちに、とうとう明け方の月が出てしまいました。(素性法師∩)
022 1字(ふ――むべやまかぜを)
ふくからに あきのくさきの しおるれば むべやまかぜを あらしというらん
吹くからに 秋の草木の しをるれば むべ山風を 嵐といふらむ
山から秋風が吹くと、たちまち秋の草木がしおれはじめます。なるほど、だから山風のことを「嵐(荒らし)」と言うのでしょうね。(文屋康秀♂)
023 2字(つき――わがみひとつの)
つきみれば ちぢにものこそ かなしけれ わがみひとつの あきにはあらねど
月見れば ちぢに物こそ 悲しけれ わが身ひとつの 秋にはあらねど
月を見ると、あれこれいろいろなことが悲しくなってきます。秋は私ひとりに訪れたわけではないのだけれど。(大江千里♂)
024 2字(この――もみじのにしき)
このたびは ぬさもとりあえず たむけやま もみじのにしき かみのまにまに
このたびは 幣もとりあへず 手向山 紅葉の錦 神のまにまに
今回の旅は急だったので、お供えの幣(ぬさ)も持ち合わせていません。そのかわり、手向山の美しい紅葉の錦を幣として、神よ、御心のままにお受け取りください。(菅家♂)
025 3字(なにし――ひとにしられで)
なにしおわば おうさかやまの さねかずら ひとにしられで くるよしもがな
名にし負はば 逢坂山の さねかづら 人に知られで くるよしもがな
逢坂山のさねかずらが「会って一緒に寝る」という意味を持っているなら、そのつるをたぐり寄せるように、誰にも知られずにあなたのもとへ行く方法があったらいいのに。(三条右大臣♂)
026 2字(おぐ――いまひとたびの)
をぐらやま みねのもみじば こころあらば いまひとたびの みゆきまたなん
小倉山 峰のもみぢ葉 心あらば 今一度の 行幸待たなむ
小倉山の峰の紅葉よ。もしもあなたに心があるのなら、もう一度、天皇のお出ましがあるまで、どうか散らずに待っていてください。(貞信公♂)
027 3字(みかの――いつみきとてか)
みかのはら わきてながるる いづみがわ いつみきとてか こいしかるらん
みかの原 わきて流るる 泉川 いつ見きとてか 恋しかるらむ
みかの原を分けるように湧き出て流れる泉川ではないけれど、いつ見たというわけでもないのに、どうしてこんなにあなたが恋しいのでしょう。(中納言兼輔♂)
028 3字(やまざ――ひとめもくさも)
やまざとは ふゆぞさびしさ まさりける ひとめもくさも かれぬとおもえば
山里は 冬ぞ寂しさ まさりける 人目も草も かれぬと思へば
山里はとりわけ寂しさが身にしみて感じられます。人の行き来も途絶え、草も木もすっかり枯れ果ててしまうことを思うと。(源宗于朝臣♂)
029 4字(こころあ――おきまどわせる)
こころあてに おらばやおらん はつしもの おきまどわせる しらぎくのはな
心あてに 折らばや折らむ 初霜の 置きまどはせる 白菊の花
当てずっぽうに折るのなら折ってみましょうか。真っ白な初霜が一面に降りて、見分けがつかなくなっている白菊の花を。(凡河内躬恒♂)
030 3字(ありあ――あかつきばかり)
ありあけの つれなくみえし わかれより あかつきばかり うきものはなし
有り明けの つれなく見えし 別れより 暁ばかり 憂きものはなし
明け方の月がそっけなく見えたほど冷ややかにあなたとの別れから、私にとって夜明けほどつらく思えるものはありません。(壬生忠岑♂)
031 6字(あさぼらけあ――よしののさとに)
あさぼらけ ありあけのつきと みるまでに よしののさとに ふれるしらゆき
朝ぼらけ 有り明けの月と 見るまでに 吉野の里に 降れる白雪
夜がほのぼのと明けるころ、明け方の月が照らしているのかと思うほど、吉野の里に白く雪が降り積もっていることですね。(坂上是則♂)
032 3字(やまが――ながれもあえぬ)
やまがわに かぜのかけたる しがらみは ながれもあえぬ もみじなりけり
山川に 風のかけたる 柵は 流れもあへぬ 紅葉なりけり
山あいを流れる川に風が架けたしがらみ(柵)は、流れようにも流れることができずにたまった紅葉の葉であったのですね。(春道列樹♂)
033 2字(ひさ――しずごころなく)
ひさかたの ひかりのどけき はるのひに しずごころなく はなのちるらん
ひさかたの 光のどけき 春の日に しづ心なく 花の散るらむ
日の光がこんなにのどかな春の日なのに、どうして桜の花は慌ただしく散ってしまうのでしょうか。(紀友則♂)
034 2字(たれ――まつもむかしの)
たれをかも しるひとにせん たかさごの まつもむかしの ともならなくに
誰をかも 知る人にせむ 高砂の 松も昔の 友ならなくに
年老いた私は誰を友にしたらよいのでしょうか。長生きで知られている高砂の松の木でさえ昔からの友ではないのに。(藤原興風♂)
035 3字(ひとは――はなぞむかしの)
ひとはいさ こころもしらず ふるさとは はなぞむかしの かににおいける
人はいさ 心も知らず ふるさとは 花ぞ昔の 香ににほひける
あなたの心は心変わりしているかもしれませんが、なじみのこの土地では梅の花は昔と変わらない香りで咲いています。(紀貫之♂)
036 2字(なつ――くものいづこに)
なつのよは まだよいながら あけぬるを くものいづこに つきやどるらん
夏の夜は まだ宵ながら 明けぬるを 雲のいづこに 月宿るらむ
夏の夜はとても短いので、まだ宵の口だと思っているうちに夜が明けてしまいました。月はいったい雲のどのあたりにとどまっているのでしょうか(清原深養父♂)
037 2字(しら――つらぬきとめぬ)
しらつゆに かぜのふきしく あきののは つらぬきとめぬ たまぞちりける
白露に 風の吹きしく 秋の野は 貫き止めぬ 玉ぞ散りける
秋の野原にしきりに風が吹きつけるので、白露が風で散って、まるで糸で留めていない真珠をちりばめたようです。(文屋朝康♂)
038 3字(わすら――ひとのいのちの)
わすらるる みをばおもわず ちかいてし ひとのいのちの おしくもあるかな
忘らるる 身をば思はず 誓ひてし 人の命の 惜しくもあるかな
あなたに忘れられる私の身はどうなろうともかまいません。ただ、神に誓った私との愛を破ったことで神罰が下り、あなたの命が失われることが悔しいのです。(右近♀)
039 3字(あさじ――あまりてなどか)
あさじうの おののしのはら しのぶれど あまりてなどか ひとのこいしき
浅茅生の 小野の篠原 忍れど あまりてなどか 人の恋しき
浅い茅(ちがや)が生えている小野の篠原のように忍んできたけれど、もう耐えられません。どうしてこんなにあなたのことが恋しくてたまらないのでしょうか。(参議等♂)
040 2字(しの――ものやおもうと)
しのぶれど いろにいでにけり わがこいは ものやおもうと ひとのとうまで
忍れど 色に出でにけり わが恋は ものや思ふと 人の問ふまで
人に知られないように隠してきたつもりですが、私の恋心は顔に出てしまったみたいです。「恋に悩んでいるのですか」と人に尋ねられるほどに。(平兼盛♂)
041 2字(こい――ひとしれずこそ)
こいすちょう わがなはまだき たちにけり ひとしれずこそ おもいそめしか
恋すてふ わが名はまだき 立ちにけり 人知れずこそ 思ひ初めしか
私が恋をしてしまったといううわさはこんなにも早く世間に広まってしまいました。誰にも知られないよう、心の中だけで思いはじめたばかりなのに。(壬生忠見♂)
042 4字(ちぎりき――すえのまつやま)
ちぎりきな かたみにそでを しぼりつつ すえのまつやま なみこさじとは
契りきな かたみに袖を しぼりつつ 末の松山 波越さじとは
約束しましたよね、お互いに涙にぬれた袖を絞りながら。末の松山を波が越すことはあり得ないように、私たち二人の愛も変わることはあり得ないと。(清原元輔♂)
043 2字(あい――むかしはものを)
あいみての のちのこころに くらぶれば むかしはものを おもわざりけり
逢ひ見ての 後の心に くらぶれば 昔はものを 思はざりけり
あなたと一夜を過ごしたあとのせつない心に比べれば、昔の悩みなど悩みのうちに入らないものだったのだな。(権中納言敦忠♂)
044 3字(おうこ――ひとをもみをも)
あうことの たえてしなくば なかなかに ひとをもみをも うらみざらまし
逢ふことの 絶えてしなくは なかなかに 人をも身をも 恨みざらまし
もしもあの人と会うことが絶対にないのなら、かえって、あの人の冷たさも自分のつらさも、こんなに恨むことはなかったろうに。(中納言朝忠♂)
045 3字(あはれ――みのいたずらに)
あわれとも いうべきひとは おもおえで みのいたずらに なりぬべきかな
あはれとも いふべき人は 思ほえで 身のいたづらに なりぬべきかな
私のことをかわいそうだといってくれる人がいるとも思えないので、きっと私は一人で恋焦がれて、むなしく死んでいくんだろうな。(謙徳公♂)
046 2字(ゆら――ゆくえもしらぬ)
ゆらのとを わたるふなびと かじをたえ ゆくえもしらぬ こいのみちかな
由良の門を 渡る舟人 かぢを絶え ゆくへも知らぬ 恋の道かな
由良の海峡を渡って行く舟人が、櫂(かい)をなくして、行く先もわからずに漂っているように、私の恋の行く末もわからないのです。(曾禰好忠♂)
047 2字(やえ――ひとこそみえね)
やえむぐら しげれるやどの さびしきに ひとこそみえね あきはきにけり
八重葎 茂れる宿の さびしきに 人こそ見えね 秋は来にけり
つるが幾重にも生い茂る寂しい家には、人は誰も訪ねてこないけれども、秋だけはいつものようにやってくるものですね。(恵慶法師∩)
048 3字(かぜを――くだけてものを)
かぜをいたみ いわうつなみの おのれのみ くだけてものを おもうころかな
風をいたみ 岩打つ波の おのれのみ くだけてものを 思ふ頃かな
風が激しいために岩を打つ波が砕け散るように、あなたの冷たさに私の心も砕けるくらいに思い悩む今日このごろです。(源重之♂)
049 3字(みかき――ひるはきえつつ)
みかきもり えじのたくひの よるはもえ ひるはきえつつ ものをこそおもえ
みかき守 衛士のたく火の 夜は燃え 昼は消えつつ ものをこそ思へ
宮中の門を守る衛士がたくかがり火が、夜は燃え、昼になると消えるように、私の恋心も夜は燃えて、昼は消えんばかりに思い悩んでいます。(大中臣能宣♂)
050 6字(きみがためお――ながくもがなと)
きみがため おしからざりし いのちさえ ながくもがなと おもいけるかな
君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひけるかな
あなたに会うためなら命を捨てても惜しくはないと思っていたけれど、あなたに会った今となっては長く生きたいと思うようになってしまいました。(藤原義孝♂)
051 2字(かく――さしもしらじな)
かくとだに えやはいぶきの さしもぐさ さしもしらじな もゆるおもいを
かくとだに えやはいぶきの さしも草 さしも知らじな 燃ゆる思ひを
私がこんなに恋い慕っているなんてとても言えませんから、あなたは知らないでしょうね、伊吹山のさしも草のように燃え上がる私の思いを。(藤原実方朝臣♂)
052 2字(あけ――なおうらめしき)
あけぬれば くるるものとは しりながら なおうらめしき あさぼらけかな
明けぬれば 暮るるものとは 知りながら なほ恨めしき 朝ぼらけかな
夜が明ければ、いずれ日が暮れてまたあなたと会えるとわかっていても、やはり、別れなければならない夜明けはうらめしいことです。(藤原道信朝臣♂)
053 3字(なげき――いかにひさしき)
なげきつつ ひとりぬるよの あくるまは いかにひさしき ものとかはしる
嘆きつつ ひとり寝る夜の 明くる間は いかに久しき ものとかは知る
あなたが来ないことを嘆きながらひとりで寝る夜明けまでの時間がどんなに長いか、あなたはご存じでしょうか。きっとご存じではないでしょうね。(右大将道綱母♀)
054 3字(わすれ――きょうをかぎりの)
わすれじの ゆくすえまでは かたければ きょうをかぎりの いのちともがな
忘れじの 行く末までは 難ければ 今日を限りの 命ともがな
「いつまでも忘れません」とおっしゃるあなたのお言葉が、将来まで変わらないというのは難しいでしょうから、それを聞いた今日を最期に死んでしまいたいものです。(儀同三司母♀)
055 2字(たき――なこそながれて)
たきのおとは たえてひさしく なりぬれど なこそながれて なおきこえけれ
滝の音は 絶えて久しく なりぬれど 名こそ流れて なほ聞こえけれ
滝の音が聞こえなくなってずいぶん長い年月がたちましたが、名声は世の中に伝わって、今でもそのうさわが聞えてきますよ。(大納言公任♂)
056 3字(あらざ――いまひとたびの)
あらざらん このよのほかの おもいでに いまひとたびの あうこともがな
あらざらむ この世の外の 思ひ出に 今一度の 逢ふこともがな
私の命はもうすぐ尽きてしまうでしょうから、あの世への思い出として、せめてもう一度、あなたにお会いしたいものです。(和泉式部♀)
057 1字(め――くもがくれにし)
めぐりあいて みしやそれとも わかぬまに くもがくれにし よわのつきかな
めぐり逢ひて 見しやそれとも わかぬ間に 雲隠れにし 夜半の月かな
久しぶりにめぐりあったのに、見たのが確かであるかどうかわからないうちにあなたは帰ってしまいました。雲に隠れてしまった月のように。(紫式部♀)
058 3字(ありま――いでそよひとを)
ありまやま いなのささはら かぜふけば いでそよひとを わすれやはする
有馬山 猪名の笹原 風吹けば いでそよ人を 忘れやはする
有馬山から猪名の笹原に風が吹くと、そよそよと葉が音を立てます。そうよそうよ、どうして私があなたを忘れることがありましょうか。(大弐三位♀)
059 2字(やす――かたぶくまでの)
やすらわで ねなましものを さよふけて かたぶくまでの つきをみしかな
やすらはで 寝なましものを さ夜更けて 傾くまでの 月を見しかな
あなたがおいでにならないとわかっていたら、ためらわずに寝てしまいましたのに、あなたをお待ちしていたばかりに、西の空に沈んでいく月までも見てしまいました。(赤染衛門♀)
060 3字(おおえ――まだふみもみず)
おおえやま いくののみちの とおければ まだふみもみず あまのはしだて
大江山 いく野の道の 遠ければ まだふみも見ず 天の橋立
大江山を越えて生野の道のりが遠いので、まだ天の橋立へ行ったこともありませんし、ましてや母からの手紙も見ておりませんよ。(小式部内侍♀)
061 2字(いに――きょうここのえに)
いにしえの ならのみやこの やえざくら きょうここのえに においぬるかな
いにしへの 奈良の都の 八重桜 けふ九重に にほいぬるかな
かつて栄えた奈良の都の八重桜が、今日はこの九重の宮中で美しく咲き誇っていますよ。(伊勢大輔♀)
062 2字(よを――よにおうさかの)
よをこめて とりのそらねは はかるとも よにおうさかの せきはゆるさじ
夜をこめて 鳥の空音は はかるとも よに逢坂の 関は許さじ
夜が明けないうちに鶏の鳴きまねをして、だまして通ろうとしても、私と会う逢坂の関だけは決して通しはしませんからね。(清少納言♀)
063 3字(いまは――ひとづてならで)
いまはただ おもいたえなん とばかりを ひとづてならで いうよしもがな
今はただ 思ひ絶えなむ とばかりを 人づてならで いふよしもがな
今となっては、「あなたのことはきっぱりあきらめます」ということを、人づてではなく、直接あなたに会って言いたいのです。(左京大夫道雅♂)
064 6字(あさぼらけう――あらわれわたる)
あさぼらけ うじのかわぎり たえだえに あらわれわたる せぜのあじろぎ
朝ぼらけ 宇治の川霧 たえだえに あらはれ渡る 瀬々の網代木
朝、だんだんと明るくなって、宇治川に立ち込めた川霧がとぎれとぎれになってきて、その霧の間から現れたのは川の浅瀬にある網代木でした。(権中納言定頼♂)
065 2字(うら――こいにくちなん)
うらみわび ほさぬそでだに あるものを こいにくちなん なこそおしけれ
恨みわび ほさぬ袖だに あるものを 恋に朽ちなむ 名こそ惜しけれ
つれないあなたを恨み悲しんで流す涙で乾くひまもない着物の袖が朽ちるのだけでもくやしいのに、恋のうわさのために私の評判が朽ちてしまうのがくやしくてたまりません。(相模♀)
066 2字(もろ――はなよりほかに)
もろともに あわれとおもえ やまざくら はなよりほかに しるひともなし
もろともに あはれと思へ 山桜 花より外に 知る人もなし
山桜よ、私がおまえを懐かしく思っているように、おまえも私のことを懐かしく思っておくれ。おまえ以外に私の心を知ってくれる人はいないのだから。(前大僧正行尊∩)
067 3字(はるの――かいなくたたん)
はるのよの ゆめばかりなる たまくらに かいなくたたん なこそおしけれ
春の夜の 夢ばかりなる 手枕に かひなく立たむ 名こそ惜しけれ
春の夜の夢のように短くはかない間であっても、あなたの腕枕を借りたらつまらないうわさが立つじゃないですか。それがくやしいのです。(周防内侍♀)
068 4字(こころに――こいしかるべき)
こころにも あらでうきよに ながらえば こいしかるべき よわのつきかな
心にも あらで憂き世に ながらへば 恋しかるべき 夜半の月かな
心ならずも、このはかない世の中で生きながらえてしまったなら、そのときはきっと恋しく思い出すのでしょうね、この美しい月のことを。(三条院♂)
069 3字(あらし――たつたのかわの)
あらしふく みむろのやまの もみじばは たつたのかわの にしきなりけり
嵐吹く 三室の山の もみぢ葉は 龍田の川の 錦なりけり
嵐が吹いて散った三室の山のもみじ葉が龍田の川を覆って、水面を錦織の布のように鮮やかに彩っています。(能因法師∩)
070 1字(さ――いづこもおなじ)
さびしさに やどをたちいでて ながむれば いづこもおなじ あきのゆうぐれ
さびしさに 宿を立ち出でて 眺むれば いづこも同じ 秋の夕暮れ
あまりにさびしいので家の外に出てあたりを眺めていると、どこも同じようにさびしい秋の夕暮れが広がっています。(良暹法師∩)
071 2字(ゆう――あしのまろやに)
ゆうされば かどたのいなば おとずれて あしのまろやに あきかぜぞふく
夕されば 門田の稲葉 おとづれて 葦のまろやに 秋風ぞ吹く
夕方になると、家の前の田んぼに秋の風が吹いて稲葉がさやさやとよい音を立てます。その心地よい風が葦ぶきの小屋にも吹いてきて、気持ちのいいことです。(大納言経信♂)
072 2字(おと――かけじやそでの)
おとにきく たかしのはまの あだなみは かけじやそでの ぬれもこそすれ
音に聞く 高師の浜の あだ波は かけじや袖の 濡れもこそすれ
うわさに聞く高師の浜の波は身にかけますまい。袖が濡れては大変ですから。同じように、浮気で名高いあなたのお言葉は心にかけますまい。袖を涙でぬらすのは嫌ですから。(祐子内親王家紀伊♀)
073 2字(たか――とやまのかすみ)
たかさごの おのえのさくら さきにけり とやまのかすみ たたずもあらなん
高砂の 尾の上の桜 咲きにけり 外山の霞 たたずもあらなむ
高い山の頂に桜が咲きました。里山の霞よ、どうかかからないでください。あの美しい桜が見えなくなってしまうから。(前中納言匡房♂)
074 2字(うか――はげしかれとは)
うかりける ひとをはつせの やまおろし(よ) はげしかれとは いのらぬものを
うかりける 人を初瀬の 山おろし(よ) はげしかれとは 祈らぬものを
つれないあの人が振り向いてくれるように観音様にお祈りしたのよ。初瀬の山おろしよ、おまえのように冷たくしなさいとは祈らなかったのに。(源俊頼朝臣♂)
075 4字(ちぎりお――あわれことしの)
ちぎりおきし させもがつゆを いのちにて あわれことしの あきもいぬめり
契りおきし させもが露を 命にて あはれ今年の 秋もいぬめり
あなたが約束してくださったはかない言葉を命のように大事にしていたのに、ああ、今年の秋も過ぎてしまうようですね。(藤原基俊♂)
076 6字(わたのはらこ――くもいにまごう)
わたのはら こぎいでてみれば ひさかたの くもいにまごう おきつしらなみ
わたの原 漕ぎ出でて見れば 久方の 雲居にまがふ 沖つ白波
大海原に舟をこぎ出してあたりを見回すと、沖のほうには白い雲に見間違えるほどの大きな白波が立っていたのです。(法性寺入道前関白太政大臣♂)
077 1字(せ――われてもすえに)
せをはやみ いわにせかるる たきがわの われてもすえに あわんとぞおもう
瀬を早み 岩にせかるる 滝川の われても末に あはむとぞ思ふ
川の流れが速いので、岩にせき止められた水の流れが、一度は分れても、またひとつになるように、今は別れた私たちも、また一緒になろうと思います。(崇徳院♂)
078 3字(あわじ――いくよねざめぬ)
あわじしま かようちどりの なくこえに いくよねざめぬ すまのせきもり
淡路島 通ふ千鳥の 鳴く声に いく夜寝覚めぬ 須磨の関守
淡路島から海を渡ってくる千鳥の鳴き声に、夜寝ていて何度目を覚ましたことでしょう、須間の関所の番人は。(源兼昌♂)
079 3字(あきか――もれいづるつきの)
あきかぜに たなびくくもの たえまより もれいづるつきの かげのさやけさ
秋風に たなびく雲の 絶え間より もれ出づる月の 影のさやけさ
秋風に吹かれてたなびく雲のすき間から、漏れて姿を現す月の光の、なんと清らかで美しいことでしょう。(左京大夫顕輔♂)
080 3字(ながか――みだれてけさは)
ながからん こころもしらず くろかみの みだれてけさは ものをこそおもえ
長からむ 心も知らず 黒髪の 乱れてけさは ものをこそ思へ
末永く愛してくれると誓ったあなたの気持ちが本当かどうかわからないので、別れた今朝は、この寝乱れした黒髪のように乱れて、もの思いにふけっているのです。(待賢門院堀河♀)
081 1字(ほ――ただありあけの)
ほととぎす なきつるかたを ながむれば ただありあけの つきぞのこれる
ほととぎす 鳴きつる方を 眺むれば ただ有り明けの 月ぞ残れる
ほととぎすが鳴いた思った方向を見てみると、ただ、夜明けの月が空に残っているだけです。(後徳大寺左大臣♂)
082 2字(おも――うきにたえぬは)
おもいわび さてもいのちは あるものを うきにたえぬは なみだなりけり
思ひわび さても命は あるものを 憂きにたへぬは 涙なりけり
つれない恋のことを思い悩んで、こうして死にもせず命はあるものの、つらさに耐えられなくて涙ばかりがこぼれてきます。(道因法師∩)
083 5字(よのなかよ――やまのおくにも)
よのなかよ みちこそなけれ おもいいる やまのおくにも しかぞなくなる
世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る 山の奥にも 鹿ぞ鳴くなる
この世の中にはつらさから逃れられる道はないのだろうか。思いあまって山奥に入ったものの、鹿でさえも悲しげに鳴いているのだから。(皇太后宮大夫俊成♂)
084 3字(ながら――うしとみしよぞ)
ながらえば またこのごろや しのばれん うしとみしよぞ いまはこいしき
ながらへば またこの頃や 忍ばれむ 憂しと見し世ぞ 今は恋しき
長く生きていれば、つらい今のことも懐かしく思い出されることもあるのでしょう。かつてつらかったあのときも、今思い返すと恋しく思われるのですから(藤原清輔朝臣♂)
085 2字(よも――ねやのひまさえ)
よもすがら ものおもうころは あけやらで ねやのひまさえ つれなかりけり
夜もすがら 物思ふ頃は 明けやらで 閏のひまさへ つれなかりけり
一晩中、お慕いするあの人のことを思い悩むときは、夜はなかなか明けてくれず、寝室の戸のすきまさえ、なんだか冷たく思われます。(俊恵法師∩)
086 2字(なげけ――かこちがおなる)
なげけとて つきやはものを おもわする かこちがおなる わがなみだかな
嘆けとて 月やは物を 思はする かこち顔なる わが涙かな
月が私を悲しませようとしているのでしょうか。いいえ、そうではなくて、本当は恋で苦しいのです。月のせいにしていますが涙がこぼれます。(西行法師∩)
087 1字(む――きりたちのぼる)
むらさめの つゆもまだひぬ まきのはに きりたちのぼる あきのゆうぐれ
村雨の 露もまだ干ぬ 槇の葉に 霧立ちのぼる 秋の夕暮れ
にわか雨のしずくがまだ乾かない槇(まき)の葉っぱに、霧が立ちのぼっていく秋の夕暮れの光景のなんと美しいことでしょう。(寂蓮法師∩)
088 4字(なにわえ――みをつくしてや)
なにわえの あしのかりねの ひとよゆえ みをつくしてや こいわたるべき
難波江の 葦のかりねの ひとよゆゑ みをつくしてや 恋ひわたるべき
難波の入り江の葦を刈ったあとの一節の根のように、短い仮寝の一夜だけのためにこの身をささげて、私は一生、あなたに恋することになるのでしょうか。(皇嘉門院別当♀)
089 2字(たま――しのぶることの)
たまのおよ たえなばたえね ながらえば しのぶることの よわりもぞする
玉の緒よ 絶えなば絶えね ながらへば 忍ぶることの 弱りもぞする
私の命よ、絶えるなら絶えてしまうがいい。このまま生きながらえていると、この恋心を隠すこともできなくなって、人に知られてしまうかもしれないから。(式子内親王♀)
090 2字(みせ――ぬれにぞぬれし)
みせばやな おじまのあまの そでだにも ぬれにぞぬれし いろはかわらず
見せばやな 雄島の海人の 袖だにも 濡れにぞ濡れし 色は変はらず
あの人にお見せしたいものです、涙で色が変わってしまった私の袖を。雄島の漁師の袖でさえ、どれほどぬれても色が変わらないというのに。(殷富門院大輔♀)
091 2字(きり――ころもかたしき)
きりぎりす なくやしもよの さむしろに ころもかたしき ひとりかもねん
きりぎりす 鳴くや霜夜の さむしろに 衣かたしき ひとりかも寝む
秋の虫(こおろぎ)が鳴いている霜の降りた肌寒い夜、私は粗末なむしろの上に着物の片袖を敷いて、ひとりぼっちで寝るのだろうか。(後京極摂政前太政大臣♂)
092 3字(わがそ――ひとこそしらね)
わがそでは しおひにみえぬ おきのいしの ひとこそしらね かわくまもなし
わが袖は 潮干に見えぬ 沖の石の 人こそ知らね 乾く間もなし
私の着物の袖は、潮が引いたときでさえ姿を現さない沖の石のようです。あの人は知らないでしょうけれども、涙で乾く間もないのです。(二条院讃岐♀)
093 5字(よのなかは――あまのおぶねの)
よのなかは つねにもがもな なぎさこぐ あまのおぶねの つなでかなしも
世の中は 常にもがもな 渚漕ぐ 海人の小舟の 綱手かなしも
世の中はいつまでも変わらず平和であってほしいものです。波打ち際をこいでいく小舟が引き綱を引いている光景が、しみじみとのどかで心にしみますね。(鎌倉右大臣♂)
094 2字(みよ――ふるさとさむく)
みよしのの やまのあきかぜ さよふけて ふるさとさむく ころもうつなり
み吉野の 山の秋風 さ夜更けて ふるさと寒く 衣打つなり
吉野の山に秋風が吹き、夜も更けました。昔、都だったこの里では寒さもいっそう身にしみて、着物を打つ音がさむざむと聞こえてきます。(参議雅経♂)
095 3字(おおけ――わがたつそまに)
おおけなく うきよのたみに おおうかな わがたつそまに すみぞめのそで
おほけなく うき世の民に 覆ふかな わが立つ杣に 墨染の袖
身のほどをわきまえないことですが、このつらい世の中を生きる人々におおいをかけましょう。比叡山に住み始めた私の墨染の僧衣の袖を。(前大僧正慈円∩)
096 3字(はなさ――ふりゆくものは)
はなさそう あらしのにわの ゆきならで ふりゆくものは わがみなりけり
花さそふ 嵐の庭の 雪ならで ふりゆくものは わが身なりけり
嵐がやってきて庭の桜の花びらが雪のようにふっています。でも、本当にふるのは花ではなくて、ふるびていくて私自身なんでしょうね。(権中納言定家♂)
097 2字(こぬ――やくやもしおの)
こぬひとを まつほのうらの ゆうなぎに やくやもしおの みもこがれつつ
来ぬ人を 松帆の浦の 夕凪に 焼くや藻塩の 身もこがれつつ
いくら待っても来ない人を待つ私は、松帆の浦の夕なぎの頃に焼いている藻塩のように焦がれていく、そんな気持ちなのです。(権中納言定家♂)
098 3字(かぜそ――みそぎぞなつの)
かぜそよぐ ならのおがわの ゆうぐれは みそぎぞなつの しるしなりける
風そよぐ ならの小川の 夕暮れは みそぎぞ夏の しるしなりける
風がそよぐならの小川の夕暮れはすっかり秋の気配となっていて、みそぎの行事だけがまだ夏であることのしるしです。(従二位家隆♂)
099 3字(ひとも――よをおもうゆえに)
ひともおし ひともうらめし あじきなく よをおもうゆえに ものおもうみは
人も惜し 人も恨めし あぢきなく 世を思ふ故に もの思ふ身は
ある時は人々を愛しく思い、また、ある時は恨めしいとも思います。つまらない世の中だなと思って思い悩んでしまう私にとっては。(後鳥羽院♂)
100 2字(もも――なおあまりある)
ももしきや ふるきのきばの しのぶにも なおあまりある むかしなりけり
ももしきや 古き軒端の しのぶにも なほあまりある 昔なりけり
宮中の古びてしまった建物の軒の端に生えているしのぶ草を見るにつけ、昔の栄えたよき時代がしのばれて懐かしく思われることです。(順徳院♂)
参考文献
この記事は、西東社の『まんが百人一首大辞典』を参考にさせていただきました。また、競技かるたに必要な項目は、アニメ『ちはやふる』の内容から選んでいます。