「おそれ」は「おそれ」「恐れ」「畏れ」のどれを使う?

もう迷わない 漢字のチョイス

はじめに

「おそれ」というときに、真っ先に思い浮かぶ漢字は「恐れ」かもしれませんが、ほかに「畏れ」もありますし、「おそれ」とひらがなで表記することもとても多いですよね。一方、「虞(おそれ)」は、常用漢字ではあるものの、ほとんど目にすることはありません。

そこで、今回は、「おそれ」をひらがなにする場合と漢字で表記する場合の使い分けについて確認していきたいと思います。

「恐れ」「畏れ」「虞」の意味を確認しましょう

まず、「恐れ」「畏れ」「虞(おそれ)」はそれぞれどんな意味なのか、用例で確認していきたいと思います。

「恐れ」とは、恐怖を感じることです。
(こわがる)
・若者は恐れを知らない。
・敵は恐れをなして逃げました。

「畏れ」とは、畏敬の念のことです。
(おそれおののく)
・神に畏れを抱くのは当然です。
・師匠に対しては畏れの気持ちしかない。

「虞(おそれ)」はひらがなで表記することになっていますので、一般には次のように書きます。

「虞(おそれ)」とは懸念があることです。
(心配される)
・土曜日は雨になるおそれがある。
・計画が打ち切りになるおそれが出てきた。

どうして「虞」は「おそれ」と書くの?

「虞」は常用漢字でありながら、公用文では用いない不思議な漢字です。どうして用いないのかというと、文化審議会の「公用文作成の考え方」において、「常用漢字表にあっても法令に倣い仮名で書く」ものの中に「虞→おそれ」を挙げているためです。

「法令に倣い仮名で書く」というのはどういうことかというと、「法令における漢字使用等について」という別の文書において、法令を作るときは「虞」は「おそれ」と書いてくださいと示しているので、公用文でもこれに倣ってくださいという意味です。

そのため、「懸念がある/心配される」という意味の「おそれ」はひらがなで表記するんですね。よくないことが起こるかもしれないと不安に思う場合の「おそれ」です。もう少し用例を考えてみましょう。

・運動会は延期になるおそれがある。
・野菜が値上がりするおそれがあります。
・地下資源が枯渇するおそれがあります。

公用文で「虞」は用いないのに、どうして常用漢字になっているのか謎ですが、新聞・マスコミ表記でも同じように「虞」は用いませんので、「虞」という漢字は日常においてほとんど目にしないというわけです。

「虞」って使ったことなかったけど常用漢字なんだね。

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「おそれる」はみんな「恐れる」でいいの?

「おそれる」と動詞になっても、名詞の場合と同じように意味によって書き分けますので「恐れる」も「畏れる」もあります。ただ、「畏れる」は意味が限定的ですので、ほとんどが「恐れる」です。ちなみに「虞」に活用はありません。

(恐れる:こわがる)
・人の目を恐れていては何もできない。
・失敗を恐れずにやってみよう。
・死ぬことを恐れる気持ちはみな同じです。

(畏れる:おそれおののく)
・人には神仏を畏れる気持ちが備わっている。
・地蔵菩薩を移動するのは畏れるべきことです。

「恐れ入る」「恐れ多い」の使い方は?

相手の行為に対して「申し訳ない」「ありがたい」という気持ちで「おそれいります」というのはよく用いますよね。これは「恐れ入ります」にします。また、感服した、感心したという意味で「恐れ入った」などといいますが、これも「恐」を用います。

・ご丁寧なお案内、恐れ入ります。
・恐れ入りますが、座っていただけますか。
・ライバル社ながら、あの技術力には恐れ入った。

一方、「おそれおおい」は、一般的には「恐れ多い」と書きますが、お相手の方が特に高貴な方であったり、へりくだる気持ちを強調する場合にのみ「畏れ多い」を用います。

・このような場にお招きにあずかり、恐れ多いことです。
・恐れ多いことですが、私のほうで決定させていただきます。
・陛下にお目にかかるなど、畏れ多いことでございます。

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「こわい」を漢字で書くなら「怖い」です

一方、「こわい」というのは漢字でどう書けばいいでしょうか。「こわい」の漢字は「怖い」しかありませんので「怖い」にします。「恐怖」というくらいですから「恐い」とも書けそうに思いますが、残念なことに「恐」に「こわい」という読みはありません。これについては後段で触れますが、いずれにしても、ホラー映画も、バンジージャンプも、テストの結果が返ってくるのも、みんな「怖い」にします。これは自分の気持ちとして「怖い」場合ですね。

・誰もいない教室は怖いな。
・怖いくらいうまく進みました。
・合否を確かめるのが怖い。

「恐怖」のうち、「恐」は「おそろしい」、「怖」は「こわい」の担当なのね。

「こわい顔」の「こわい」はひらがなです

でも、そうではない「こわい」もありますよね。心情を表す「こわい」ではなく、頑強であることや荒々しいという意味の「こわい」です。「こわい顔でにらまれた」などと使います。ニュアンスとしては「恐ろしい」という意味の「こわい」も含まれますが、これはどう書けばいいでしょうか。

この場合の漢字は「強(こわ)い」が当てはまりますが、常用漢字表では「強」を「こわい」と読ませていませんので、「こわい」とひらがなにします。

恐ろしい顔つきのことを「こわもて」といいますが、漢字で書けば「強面」です。でも、これも常用漢字表にない熟字訓になりますので「こわもて」とひらがなで書きます。同じように、「てごわい」も「手強い」ではなく「手ごわい」にします。

・こわい鬼の面を見て息子が泣きだした。
・彼はこわもてだけど、とっても優しいの。
・手ごわい相手だったけど、どうにか勝てたよ。

目立たせるために「コワモテ」とカタカナで書いてあるのをよく見るわ。

「おじけづく」の表記について

怖すぎて、やっぱりやめようかなという場合に「おじけづく」といいますよね。恐怖心が増して腰が引けてしまうことです。漢字で書くとすれば「怖じ気づく」ですが、「怖」には「フ」と「こわい」の読みしかありませんので、「おじけづく」とひらがなで表記します。「ず」ではなく「づ」ですので、そこだけ注意してくださいね。

・敵はおじけづいて引き返したようだ。
・この期に及んでおじけづくなんてどうしたの?
・おじけづいたと思われたくないんだよ。

まとめ

このように、「おそれ」や「こわい」にはちょっと注意しなければならない点がありますが、それぞれ内容に沿って適切な表記を選んでみてくださいね。