はじめに
「訳」というのは、音読みでは「ヤク」と読んで「翻訳(ホンヤク)」や「通訳(ツウヤク)」などと用いますし、訓で読めば「わけ」になって、「内訳(うちわけ)」や「言い訳(いいわけ)」などと用いますよね。
訳(ヤク)
翻訳 通訳 訳文
訳(わけ)
申し訳 内訳 言い訳
ただ、「わけ」というときに、「訳」と漢字で書かずにひらがなにしなければならない場合もあるんですね。「そういうわけではない」「承知するわけにはいかない」などの場合です。
(わけ)
・そういうわけだ。
・そういうわけではない。
・そういうわけにはいかない。
そこで今回は、漢字の「訳」とひらがなの「わけ」をどういうポイントで書き分ければいいのかについてまとめていきたいと思います。
実質名詞の「訳(わけ)」は漢字にします
「訳」と「わけ」では、圧倒的にひらがなにするほうが多いので、まずは「訳」と漢字で書くものを押さえておいたほうが早いですね。
「訳(わけ)」には「理由」や「事情」という意味があって、この意味をそのまま示す場合は漢字で表記します。つまり、「訳」の部分に「理由」や「事情」を当てはめてみて、意味が通る場合は漢字にするんですね。
・どうやら深い訳がありそうだね。
(どうやら深い理由がありそうだね。)
・急に欠席した訳を話してくれないか。
(急に欠席した理由を話してくれないか。)
・訳もなく涙が出てきてしまいます。
(理由もなく涙が出てきてしまいます。)
・訳ありげな顔で男が入ってきた。
(理由ありげな顔で男が入ってきた。)
・どうなっているのか訳がわからない。
(どうなっているのか理由がわからない。)
このように意味が通りますね。このように本来の「訳」が持つ意味のままで用いられるものを実質名詞といいます。
熟語や慣用的な表現は漢字を用いる
また、「申し訳」や「言い訳」「内訳」のような決まった言い方の場合にも漢字にします。数としてはあまり多くありませんが、以下のようなものがあります。
・申し訳:申し訳ありませんでした。
・言い訳:言い訳ばかりじゃないか。
・訳知り:男は訳知り顔でにやりと笑った。
・内訳:支出の内訳はどうなっている?
・仕訳:会計帳簿の仕訳作業が面倒くさい。

「内訳」や「仕訳」は会計用語なのに、「分」じゃなくて「訳」を用いるのは何か深い訳があるのかも。
形式名詞の「わけ」はひらがなにします
一方で、「わけ」とひらがなにするのは、もともとの「理由」の意味が薄れてしまっている「わけ」で、これを形式名詞といいます。形式名詞は、それ自体では名詞になれず、必ず前の語を受けて用いられます。
例えば、「あんなに食べたら胃が痛くなるわけだ」というときに、「わけ」を「理由」に置き換えてみると、「あんなに食べたら胃が痛くなる理由だ」となってしまい意味が通りません。そのあたりを判断のポイントにしてみてください。
具体的にどのように用いるのか、形式名詞の「わけ」を用例で確かめてみましょう。
【わけだ・わけです(当然そうなるはずだ)】
・あんなに食べたら胃が痛くなるわけだ。
・渋滞してるって? どうりで来ないわけだ。
・ずっと外にいたら日に焼けてしまうわけですよ。
【わけではない・わけでもない(やんわり否定する)】
・乳製品は好きというわけではない。
・あなたのせいというわけでもない。
・適任者がいないわけではない。
・私にも非がなかったわけではない。
【わけがない・わけはない(はずがない)】
・彼女がそんなことを言うわけがない。
・この季節に雪が降るわけはありません。
・1年やそこらで結果が出せるわけもない。
【わけにはいかない(そうすることができない)】
・おめおめと引き下がるわけにはいかない。
・彼女一人を行かせるわけにはいかない。
・困っていてもお金を借りるわけにはいかない。

確かに、「訳」という漢字表記よりも、「わけ」とひらがなにするほうがずっと多いわね。
「簡単だ」という意味の「わけない」はどう書くの?
「わけない」というのは「手間がかからないさま」「容易にできるさま」を示す形容詞になって、「僕にはわけないことさ」などと用いますよね。この場合も「理由」という意味から離れていますので「わけ」とひらがなにします。
(「簡単だ」の意味の「わけない」の例)
・僕にはわけないことさ。
・プロ選手ならわけないだろう。
・師匠の手にかかればわけもない。
・驚くことに彼はわけなくやってのけた。
まとめ
今回は「訳」と「わけ」の使い分けについてまとめてみました。
・実質名詞の「訳」は漢字で書く/「深い訳がある」など
・慣用的な表現や熟語は漢字で書く/「言い訳・申し訳」など
・形式名詞の「わけ」はひらがなにする/「できるわけがない」など
・「簡単だ」という「わけない」はひらがなにする
ここまで、「訳」と「わけ」の使い分けについてまとめてみました。何か少しでも役に立つことがあったら幸いです。ここまで読んでいただきありがとうございました!