「われわれ」は「我々」と「われわれ」の両方あります
「我々」というのは「我」の複数形で、「われら」や「わたしたち」のことですが、「我々」と「われわれ」の両方の表記を見かけることがありますよね。これはどっちが正しいのでしょうか。
結論からいえば、公用文では「我々」と書きますが、新聞表記では「われわれ」です。こんなふうに、どちらかに統一されていない場合は少し迷うことがありますよね。今回は、代名詞、特に迷いやすい人称代名詞について考えてみたいと思います。
「指示代名詞」と「人称代名詞」
代名詞とは人や物事を指し示すときに用いるものですが、大きく「指示代名詞」と「人称代名詞」に分けられます。このうち、「指示代名詞」というのは、事物・場所・方向を示すもので、「こそあどことば」がそうですね。これはひらなで表記します。これは問題ないと思います。
少し迷ってしまうのは人称代名詞の場合です。公用文と議事録表記においては、次のような人称代名詞は漢字で書くこととしています。
俺 僕 私 我々 彼 彼女 君 誰 自分 皆様 手前ども
「私」は「わたし」とも「わたくし」とも読みますので、どう読むかは読み手に委ねられているところがあります。一般的には「わたし」ですが、絶対に「わたくし」と読んでほしい場合には「わたくし」とひらがなにします。2010年の改訂以前は「私」は「わたくし」としか読ませていませんでしたので、「わたし」と「わたくし」の立場が逆転したんですね。
「我」と「わ」の扱いの違いについて
マスコミ表記においても基本的には同じですが、前述したように「我々」の扱いが異なります。新聞表記の『記者ハンドブック』においては「我々」は「われわれ」と書くことを基本としていますし、NHKでも同じです。
連体詞の「我」を「わ」とする場合の扱いも、やはり「我」と「わ」に分れます。それぞれの立場によって次のように表記します。いずれも「基本的に」ということであって、絶対にということではありません。
公用文 / 議事録:我々 我が国 我が家
新 聞 / NHK:われわれ わが国 わが家

どっちが正解じゃなくて、どっちでもいいってことね。
「おまえ」はどう表記するの?
「御前」と書けば「ごぜん」または「みまえ」と読みます。これは神仏や貴人の前であることを敬う言い方です。人称代名詞としての「お前」についても、もともとは目上の人に対して敬意をもって用いられていました。それが、だんだん同等もしくは下位の者に対しての用いられるようになったんですね。
したがって、人称代名詞の「おまえ」はひらがなで書きます。これは新聞表記でも議事録表記でもNHKでもそのようにすると示されています。敬意がなくなってしまいましたのでね。
公用文においては「おまえ」という人称代名詞についての言及は見当たりませんでしたが、漢字表記する代名詞に入っていないということは、かな書きにすると解釈できます。
・俺とおまえの仲じゃないか。
・おまえ、ずっと友達でいてくれよな。
・おまえのアドバイスのおかげだよ。
この場合の「おまえ」を「お前」としてあるものを多く見かけますし、それで違和感がなければ特に困るようなことではありませんが、原則としてはこうなるということは念頭に置いてくださいね。
「おたく」はどう書くの?
「お宅」というのは、相手や第三者のことを敬って、その人の家や住所のことをいいます。あるいは、その方のご家庭のことをいう場合もあります。「おうち」と同じですね。
・立派なお宅ですね。
・社長のお宅を訪問した。
・先生のお宅は5人家族だったはずだよ。

自分のうちは「拙宅」というんだよね。
それ以外に、「あなた」という意味で「おたく」を用いることもありますよね。この場合は「おたく」とひらがなにします。
・おたくはどうお考えになってるの?
・おたくさん、買い占めはやめましょう。
・おたくのご主人は出張中なのかしら。
名詞の「おたく」の由来と表記
「おたく」には、特定の事柄に詳しい人のことを指して「アニメおたく」や「映画おたく」などと用いることがありますが、この場合は「おたく」とひらがなにします。ただし、人称代名詞と区別するために「オタク」とカタカナで表記することも多いですし、ふざけたり自虐的に「ヲタク」を用いることもあります。
この「おたく」は、もともとは人称代名詞でした。相手のことを「おたくは~」などとやり取りしているうちに、「おたく」が別の意味を持つことになったんですね。当時は揶揄(やゆ)するような意味合いもありましたが、今ではすっかり市民権を得ています。
「君(きみ)」と「君(くん)」のこと
「君」というのは、名前と一緒に用いて「高木君」とか「渡辺君」などと用いますよね。そのほかに和語として「君はどこの出身だい?」などと用います。名前の下の「君(くん)」も、人称代名詞としての「君(きみ)」もどちらも漢字を用います。
源氏物語の「光る君」は印象的ですが、「君」というのは、もともとは貴人を敬って用いられていたんですね。それが、現在では敬称の意を伴いながら、同等か目下の人に対して用いられています。
名前の下につける「君」は男子に対して用いられることが多く、女子は「さん」付けで呼ばれますよね。「さん」は「様」が変化したものですから「君」と同様に敬称です。そして、社会人になると、男女の別なく、そして年齢の別なく「さん」になるんですね。ちなみに「ちゃん」は「さん」が変化したものです。
現在、学校現場においては、男子も女子も「さん」と呼びましょうという動きがあります。ジェンダーのことについてはここでは触れませんが、いずれそうなっていくものと思います。
まとめ
日本語は、目上の方に対する指示代名詞が使いにくいですよね。年長者に「あなた」というのはなんだか失礼な気がします。それで、自分の父でも祖父でもないのに「お父さん」とか「おじいさん」などと呼びかけたり、「おねえさん」と呼ばれたとか、「おばさん」といわれたとかで喜んだり悲しんだりするわけですが、それもこれも適切な人称代名詞がないためです。
「あなたさま」という言い方が広がったら少しは呼びかけやすいでしょうか。ほかに何かいいアイデアはあるでしょうか。「Youは何しに~」みたいに、失礼にならずに、しかもあらゆる対象に用いられる人称代名詞があるといいなと思っています。