「ないしょ」はもともと「内証」だった
「内緒(ないしょ)」というのは「表向きにしないで秘密にしておくこと」という意味でよく使いますよね。「ないしょにしてね」とか「内緒話をする」などと用います。これはもともとは「内証」だったものが変化して「内緒」になったんですね。
「内証」というと、なんだか秘密文書のように思いますが、そうではなくて仏教用語で、各自の心の中における悟りを意味する言葉だったそうです。その人がどのように悟っているかなど他人には知るよしもありません。それで「内証」は「秘密の事柄」という意味になり、それからだんだん「他人には知られたくないこと」の意味になったそうです。
「ないしょ」と書くか、「内緒」と書くのか
現代では、どの辞書にも「ないしょ」の欄に「内緒」と「内証」と「内所」が併記されています。「内処」というものもあります。もともとは「ないしょう」だったけれども、実際には「ないしょ」と発音されたため、表記もいろいろ生まれたんですね。
このようないきさつからでしょうか、公用文では「内証」「内緒」「内所」のいずれも当て字として、付表にも載せていません。つまり、「ないしょ」はひらがなで書いてくださいというわけです。これを受けて、議事録表記もNHKも「ないしょ」は「ないしょ」とひらがなで書くようにしています。

「内緒」が当て字だったなんて、逆にびっくり。
でも、私たちは「内緒」という表記を非常に多く見かけますよね。それは、新聞表記が「内緒」という表記を採用しているためです。国が定めた基準はあくまで基準ですから、必要に応じて別の判断になることもありますよね。
「内緒」に関しては、広く一般に浸透していますから、「内緒」と漢字で書いて問題ないと思います。ただし、公用文を作成したり議事録をまとめる立場の方は「ないしょ」とひらがなで書いてください。また、「内緒」と漢字にする場合でも、正式な表記ではないことは少し認識しておいたほうがよいかもしれません。「ないしょ」と書いている人は、漢字を知らないのではなく、あえてひらがなにしていると理解するということですね。
公用文 議事録 NHK → 「ないしょ」
新聞 → 「内緒」
当て字だからひらがなにしたい場合でも、「ないしょ」とひらがなで書くと周囲に埋もれて読みにくいことから、「ナイショ」とカタカナで表記した文章も多く見かけます。表記に自由度がある場合にはカタカナもよい選択ですよね。

「内緒」だとちょっと深刻で、「ナイショ」だといたずらっぽい雰囲気になるね。
発音が優先されて新しい言葉になる
「内証」がどうして「ないしょ」になったかというのはなんとなく想像がつきますよね。「ないしょう」よりも「ないしょ」のほうが発音しやすいからです。それに「ないしょ」のほうが秘密っぽい響きですしね。
「内証」が「内緒/ないしょ」になって、これから「内緒」が市民権を得るのか、それとも「ないしょ」に収束するのか、とても興味深いところです。