人づきあいが苦手な人にこそおすすめしたい
アニメは日本が世界に誇るカルチャーです。シーズンごとにたくさんのアニメ作品が登場しているので、古いものから現在までとなると、どう頑張っても全部は見られません。それに、持てる時間には限りがありますから、どうせならすぐれた作品をまずは見ておきたいですよね。そんな思いから、特にこれだけは押さえておきたいという名作をお伝えするこのシリーズ、今回ご紹介するのは『ばらかもん』です。
アニメ『ばらかもん』は、ヨシノサツキさんによる漫画が原作で、書道をテーマにした日常系アニメです。舞台は長崎の五島列島で、不器用な若き書家と地元の人たちの交流を描いた作品なんですね。書道という切り口も新鮮ですし、五島列島というのも魅力的な場所で、この組み合わせのミスマッチ感がなんともいえません。
人づきあいがあまり得意ではない人にこそおすすめだと思う理由は、抱えている問題を解決できたり、苦手意識克服のヒントが見つかるという意味ではありません。実は私も対人関係が苦手ですし、濃密な関係は面倒くさいと思ってしまいますが、それでも心のどこかには、社交的な人をうらやましく思う気持ちや、みんなと親しく交流してみたいという願望も持っています。その願望を代理でかなえてくれるのが『ばらかもん』なんです。作品を見たらすっと気持ちがほぐれて、あとは、またいつもの自分に戻っていけると思いますよ。
『ばらかもん』の推しポイント① 物語がシンプルで尊い!
『ばらかもん』は、見終わったときに「出会えてよかった!」と必ず思える作品です。それに、何度でも繰り返し無限に見ていられます。どうしてずっと見ていたくなるのかというと、ストーリーがシンプルなことと、意地悪な人が誰も出てこないからなんです。ジャンクな食べ物ばかり食べていたけれど、実家に帰って久しぶりにみそ汁とキュウリのお漬物を食べたようなといいますか、たまに駄菓子もまじっていたりする、そんなしみじみとした味わいです。
都会から来た若者のことをさりげなく支える島の人たちや、迷惑な子どもたちがだんだんかけがえのない存在になっていく様子を見ていくうちに、見ている自分の心もほぐれていくのを実感します。押しつけがましくないのがまたいいんですね。
充実した内容なのに全12話とコンパクトなのもおすすめポイントです。気負わず気軽に鑑賞できますので、まだの方はぜひぜひごらんください。なお、ここでは、スピンオフ作品の『はんだくん』には触れません。別作品だという認識ですので、あしからずご了承ください。
『ばらかもん』の推しポイント② 当時9歳の声優さんがすごい!
『ばらかもん』は、2023年にテレビドラマ化されましたので、そちらをご覧になったかもしれませんが、とにかくアニメもすばらしいんです。特に「なる」という小学1年生の女の子の声を演じた声優さん(原涼子さん)がとってもお上手で、当時9歳だったというのですから驚きです。
具体的にどこがすごいかというと、舞台となるのが五島列島なので、ちょっと何を言ってるかわからない五島弁が特徴的なんですが、その方言の話し方が、まるで地元のお子さんかしらと思うほどに自然で、声も張りがあって、子ども特有のうるささとかわいらしさが見事に表現されているんですね。
五島弁の特徴はそれぞれの回のタイトルを見るだけでも十分に感じられると思いますので、参考までに掲載させていただきます。括弧内は標準語にしたものですが、なかなか独特な方言ですよね。ちなみに「ばらかもん」とは「元気者」という意味だそうですよ。
第1話 ばらかこどん (元気な子ども)
第2話 やかましか (うるさい)
第3話 ひとんもち (お祝いで投げるもち)
第4話 しまんおんつぁんどん (島の親父たち)
第5話 うんにおえぎいっ (海に泳ぎに行く)
第6話 よそんもん (東京から来たやつら)
第7話 ひさんいを (高級魚)
第8話 オンデ (念仏踊り)
第9話 おけがまくっちした (大けがしそうになった)
第10話 だっちいこで (みんなで行こう)
第11話 東京にいます (東京にいます)
第12話 かえってきてうりしか (帰ってきてうれしい)
『ばらかもん』の推しポイント③ 原雲涯先生の書が美しい!
そして、3つ目の推しポイントは、なんといっても芸術性の高さです。新進気鋭の書家のお話ですから、あちらこちらに書きなぐった半紙が散らばっていたり、ふすまに字を書いてみたり、船体に船の名前を書いたりする場面があるんですが、そのどれもが味わい深い見事な文字で、素人の私が見ても圧倒されます。特に印象深いのは「星」という字です。
クレジットを見ると、文字を提供されたのは「原雲涯」という書家の方のようでした。さすが本物の書家さんの作品の迫力は違いますね。アニメで書道の魅力を伝えるのにはいろいろご苦労もあったと思いますが、アニメでしか表現できないことも多かったのではないでしょうか。墨のかすれ具合から飛び散る墨汁、本当に躍動感あふれて気持ちがいい作品です。アニメなのに書道の魅力が味わえる作品というのは希有だと思いますので、そのあたりもぜひ見ていただきたいなと思います。
まとめ
ここまで『ばらかもん』の魅力をお伝えしてきました。原作の作者のヨシノサツキさんは五島列島のお生まれで、今も五島にお住まいだそうです。なるほど、それで伝統的な文化や地元の風習が盛りだくさんなんですね。
ふるさとが好きな人も嫌いな人も、人づきあいが得意な人も苦手な人も、都会に住んでいる人も田舎住まいの人も、『ばらかもん』を見ている間はみんな一緒の気持ちになれるような気がします。どれが正解というのはありませんから、しばらく余韻にひたったら、また、それぞれの道を歩んでいけばいいんですよね。『ばらかもん』は、そんなふうに素直な気持ちになれる作品です。
最後まで読んでくださってありがとうございました。
こちらは実写版です。