「参る」と「まいる」の使い分けはどうすればいいの?

表記の決まりごと

はじめに

「まいる」というのはいろいろな意味があって、「徒歩で参りました」のように用いるほかに、降参するという意味の「参りました」や、「不景気で参ったよ」などとも用います。一方、「暑くなってまいりました」や「努力してまいる所存です」などの場合はひらがなで「まいる」にします。

このように「まいる」の使い方には少し気をつけなければならない点がありますので、今回は「参る」と「まいる」の使い分けについて確かめていきたいと思います。

補助動詞の「まいる」はひらがなにします

まず最初に「まいる」とひらがなにするケースですが、補助動詞の場合は「まいる」とひらがなで書きます。「て」に続くことがほとんどで、動詞の連用形に続いて「~てまいります」というように用います。

・頑張ってまいります。
・私が見てまいりましょうか。
・努力してまいる所存です。
・風が強くなってまいりました。

「いく」の丁寧語を「まいる」とすることがあります

また、「物事が行われる」という意味の丁寧語の場合はひらがなで「まいる」にします。漢字で「行く」と書かずに「いく」とひらなにする場合の丁寧語というほうがわかりやすいでしょうか。これらは、何かが移動するわけではないので「まいる(いく)」とひらがなで表記するんですね。

・そうはまいりませんよ。(※そうはいきませんよ。)
・その考えでまいりましょう。(※その考えでいきましょう。)

「行く/来る」の謙譲語・丁寧語は「参る」にします

次に、「参る」と漢字で書く場合ですが、「行く/来る」の謙譲語・丁寧語としての「まいる」は漢字で「参る」と書きます。

・来週から出張で名古屋に参ります。
・駅まで一緒に参りましょう。
・お迎えの車が参ったようです。

「参拝する」の「まいる」は「参る」と書きます

社寺に参拝したりお墓参りをする場合の「まいる」は「参る」を用いてください。「詣る」とは書けませんので注意してくださいね。常用漢字表を見ると、「詣」に「まいる」の読みはなく、「もうでる」としか読みませんので、「参る」にします。

〔常用漢字表より〕
詣   |ケイ   |参詣
    |もうでる |詣でる,初詣

参   |サン   |参加,参万円,降参
    |まいる  |参る,寺参り

「参る」と「詣でる」の違いは

では、「参る」と「詣でる」はどのように違うのでしょうか。「参る」も「詣でる」も、どちらも同じく「参拝する」という意味がありますが、「詣」にはほかに「貴人などのご機嫌伺い」という意味があります。つまり「詣でる」は、対象が神仏ではなくても使えるんですね。

そのため、俗語として、「○○詣で」という形で「希望をかなえてもらうために何度も訪れる」という意味で用いられています。ほとんどが、「官公庁詣で」や「永田町詣で」などのように、権力者のもとに何かをお願いしに行くことを指しているようです。

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そのほかの動詞の「参る」も漢字で書きます

「まいる」にはそのほかに「降参する」「心を奪われる」「閉口する」などたくさんの意味がありますが、動詞としての「まいる」であれば「参る」と漢字で書きます。「常用漢字内で書ける動詞は漢字を用いる」という原則がありますのでね。でも、どうしても語感にそぐわない場合はひらがなでも大丈夫ですよ。

(降参する)
・参りました。もう勘弁してください。
(心を奪われる)
・一瞬で彼女に参ってしまった。
(閉口する)
・参ったな。あしたは雨だって。

「社長が参られました」が正しくない理由

敬語としての「参る」には注意しなければならないことがあります。それは、「参る」は謙譲語であって尊敬語としては用いないということです。ですから、「社長が参りました」や「社長が参られました」というのは好ましくないので、「社長がいらっしゃいました」としてくださいね。

これについては、はっきりと「誤り」としている辞書と、「避けたほうがよい」という立場の辞書とがありましたが、いずれにしても用いないほうがよさそうです。理由としては、「参る」には謙遜のニュアンスが含まれてしまうので、尊敬語としては似つかわしくないためです。

もちろん謙譲語として、例えば社外の人に対して「弊社からは社長が参ります」というように用いるのは問題ありませんし、それが正しい使い方です。

(尊敬語)
×社長が参られました。
○社長がいらっしゃいました。
(謙譲語)
○弊社からは社長が参ります。

まとめ

・「行く/来る」の謙譲語・丁寧語は「参る」と書きます
・動詞としての「参る」は漢字で書きます。
・補助動詞の「~てまいる」はひらがなで書きます。
・「参る」は尊敬語としては用いません。

ここまで「参る」と「まいる」の使い分けについて述べてきましたが、少しは参考になったでしょうか。「まいる」や「参る」は頻繁に用いますので、コツをつかんでそれぞれの文章にふさわしい表記を選んでくださいね。