「たとえば」と「たとえる」の漢字表記について

ダンスをするウサギのイラスト 知りたかったモヤモヤ語

「たとえ~でも」は「たとえ」と書きます

今回は「たとえる」と「たとえば」について考えていきたいと思います。

その前に、まず前提として、「たとえ~でも」「たとえ~とも」のような場合についての確認ですが、これはひらがなで書きます。「もし、そうであったとしても」の意味ですね。これは「例え」とはしません。「たとえ」とひらがなで書いてください。

・たとえ世界中の人があなたを疑っても、私は信じています。
・たとえ失敗しようとも、悔いが残るまねはしたくない。

「たとえ」は「たとい」ともいうよね。

また、名詞の「たとえ」もひらがなにします。
・これはたとえとしては適切ではない。
・たとえや比喩を用いて理解を促しましょう。

「たとえる」の漢字は「例」だけではないんです

「たとえる」の表記には上記の3種類ありますが、常用漢字での音訓があるのは「例」だけです。「喩」も常用漢字ですが「ユ」としか読ませていませんし、「譬」はそもそも表外字です。

表記辞書を見ると、公用文でも、マスコミ表記辞典でも、NHKの表記辞典でも、「たとえば」や「たとえる」の表記として「例えば」「例える」を掲載しています。漢字で書くなら「例」を使ってくださいということですね。

では、「たとえる」のそれぞれの漢字の意味はどういうものなのでしょうか。

①たとえれば、まるで夜空に太陽が出現したような輝きだったんです。
②この衝撃は、たとえばアリがゾウにぶつかるのと同じほどです。
③たとえば、A県の事業がその先行事例ということになります。
①は「なぞらえる」の意味の「たとえる」です。
②はほかの事柄を示して理解を促しています。
③は同類の例を挙げています。
これらを意味によって厳密に書き分けるのもなかなか難しいですよね。そこで、「たとえば」や「たとえる」を漢字で書く場合には「例えば」を採用することになっているんです。
ただ、「例えば」はいいとして、「例える」という表記に違和感がある方も多いのではないかと思います。でも、表記辞書にそのように掲載されているので誤用ではありません。私も最初は誤りではないかと思いましたが、調べてみたらきちんと用例として載っていました。

代用字の考え方について

常用漢字にない漢字を含む熟語を表記する場合、常用漢字表内にある別の漢字で表記する文字のことを「代用字(だいようじ)」といいます。代用字をずっと用いていくと、まるで最初からその漢字だったように思えてきます。ですから、いずれは「例える」という表記で統一されることになるのかもしれません。

しかし、「常用漢字にない場合はひらがなで表記する」という原則に従うなら、無理に代用字を用いないという選択もあります。大事なのは、同一の文章の中で異なる表記を混在させないことですので、どちらかに統一するようにすれば大丈夫です。

実際、「例えば」は「例えば」、「たとえる」は「たとえる」とひらがなで書くという区別はよく用いられていますし、これが納得のいく表記ではないかと思います。また、「例えば」は副詞ですので、副詞はひらがなという方針であれば「たとえば」もいいですね。

話すときに、いちいち漢字を頭に思い浮かべてなかった。