はじめに
「たとえば~」という言い方はよく使いますよね。この場合、「例えば」という漢字が用いられていることが多いかと思います。なぜなら、公用文においても新聞表記においても、議事録表記やNHK表記においても、「たとえば」を漢字で書く場合は「例」を用いるように示しているためです。
ただ、「たとえば」以外にも「たとえ」や「たとえる」などもあります。その場合、みんな「例」を用いればいいのかというと、そうではなくて、ひらがなのほうがいい場合もあるんですね。
今回は「たとえ/たとえる/たとえば」の表記についてまとめていきたいと思います。
名詞の「たとえ」はひらがなにします
「たとえ」を名詞で用いることがあって、「たとえ話」や「たとえが多用された文章」「一般的なたとえを用いれば…」などと用います。この場合の「たとえ」は「なぞらえられたもの」という意味になります。

「たとえ」という漢字には「喩」「譬」「例」があって、どれも似た意味ですが、「なぞらえる」という意味があるのは「喩」と「譬」です。「例」はなぞらえるのではなく、似ているものを例示することをいいます。
喩:かみくだいてわからせるためになぞらえる
譬:なぞらえるものを引き合いに出してわからせる
例:類似したものを示して理解させる
でも、「喩」や「譬」は常用漢字表にない表外字ですので、ひらがなで「たとえ」と書くんですね。
(名詞の「たとえ」の用例)
・たとえ話は聞き飽きた。
・たとえが多用された文章
・一般的なたとえを用いれば…
・これはたとえとしては適切ではありません。
ただし、名詞であっても「例え」を代用字として用いることができるようで、各表記辞書には「例え」も例示されています。個人的には、名詞や動詞に「例」を用いるのは違和感がありますが、「例え」と書いても間違いではないようです。
動詞の「たとえる」は基本的にひらがなで書きます
動詞として「たとえる」という用い方もあります。これも、やはり「なぞらえる」ことで、「花のような笑顔」とか、「雪のような白さ」というように、表情を花に、色を雪にたとえたりしますよね。この場合はやはり「喩」や「譬」があてはまりますので、ひらがなが好ましいと考えられます。
ただ、公用文においても新聞表記においても、代用字として「例える」を認めていますので、漢字で「例える」としても間違いではありません。このようなことを念頭に表記を選んでみてくださいね。
(動詞の「たとえる」の用例)
・たとえていえば、夜空に太陽が出現したような輝きでした。
・避難警報は、戦争にたとえると空襲警報のようなものでした。
・学校での集団生活を社会生活にたとえることもできます。
・あの恐怖は、ほかのものにたとえることなどできません。
副詞の「例えば」は基本的に漢字です(ひらがなも可)
一方、副詞の「例えば」は、公用文でも新聞表記でも「例えば」を採用しています。「例えば」というのは「一例として」という意味ですから「例えば」にするんですね。
(副詞の「例えば」の用例)
・これは「例えば」の話ですが……
・例えばカレーを作るなんてどう?
・例えば、それは試験前夜の緊張のようなものです。
・楽しい場所、例えば遊園地にいると思ってみてください。
ただし、副詞はひらがなも好まれますし、実際に「たとえば」になっている文章も多く目にします。ひらがなの副詞は使いやすいですので、表記に自由度があるならひらがなでもよいのではないでしょうか。ただし、公用文や新聞表記では「例えば」を用いるのが基本だということだけお伝えしておきたいと思います。
「たとえ……でも」は必ずひらがなにします
「たとえ」は、「…でも」や「…とも」「…にせよ」などを伴って決まった形で用ることがあります。これは「もし…だとしても」という意味ですね。この場合は必ずひらがなにします。
なぜひらがなかというと、漢字で書くと「仮令(たとえ)」になるためです。「仮令」は「偶然」に近い意味があって、「もしも…だとしても」という意味になります。これは「例」の漢字があてはまらないため「たとえ」にするんですね。
(「たとえ…でも」の形の用例)
・たとえ恨まれようとも、忠告せずにいられません。
・たとえ世界中の人があなたを疑っても、私は信じています。
・たとえ失敗しようとも、悔いが残るまねはしたくない。
・たとえ可能性が10%でも、チャレンジしようと思う。
まとめ
・名詞の「たとえ」はひらがなにします。
・動詞の「たとえる」は基本的にひらがなで書きます。
・副詞の「例えば」は基本的に漢字にします。
・「たとえ……でも」はひらがなにします。
今回は、「たとえ(名詞)/たとえる(動詞)/たとえば(副詞)」の漢字の使い方についてまとめてみました。最後まで読んでくださってありがとうございました。


