はじめに
「かけはし」というときに、「懸け橋」なのか「架け橋」なのか迷ったことはありませんか。これはどちらもあって、比喩的な表現なら「虹の懸け橋」などと用いますし、実際の橋の場合は「架け橋」にします。
それがどうしてなのか理解しておくと使い分けに迷わなくなると思いますので、今回は「架け橋」と「懸け橋」についてまとめてみたいと思います。
「懸け橋」と「架け橋」の違いは?
繰り返しになりますが、実際の橋の場合は「架け橋」ですが、比喩的な表現として用いる場合は「懸け橋」にします。これは、公用文でも新聞・マスコミ表記でも同じです。「懸け橋」は「かけ橋」や「かけはし」とひらがなにしてももちろん大丈夫です。
(抽象的な橋)
・虹の懸け橋
・夢の懸け橋
・平和の懸け橋
・明日への懸け橋
・未来への懸け橋
(実際の橋)
・離島を渡る架け橋が完成しました。
・峡谷の架け橋の写真を撮りたい。
・この架け橋のおかげで行き来が楽だ。
では、どうして抽象的な表現や比喩の場合には「懸」で、実際の橋は「架」なのか気になりますよね。そこで、「架」と「懸」の漢字の意味をそれぞれ確認してみたいと思います。
「架」の意味は?
「架」というのは、もともと「棚」や「台」という意味です。棚を渡すには柱が必要ですから地面に接していなければなりません。そのため、空には設置できませんから「虹の架け橋」は架けられません。それで「架」ではなく「懸け橋」にするんですね。
もしも、無理やり空に設置したらどうなるでしょうか。それは「架空」のもの、つまり、実際にはない想像上のものという意味になります。
このように、実際に接地したところに渡す場合に「架」を用います。「架」は土木や建設の分野によく登場します。
・架橋(かきょう):橋をかけ渡すこと
・架設(かせつ) :電線、橋、線路などをかけ渡すこと
・架台(かだい) :足場としての台/施設を支える構造物
・架空(かくう) :想像上のこと
「懸」の意味は?
一方、「懸」は、引っかけたりぶら下げたりすることです。「懸垂」するときは鉄棒などにぶら下がりますよね。ぶら下がるので空中でも大丈夫です。そのため、「虹の懸け橋」や「夢の懸け橋」など抽象的なものに用いられます。
この場合の「懸」は、空に引っかかっているというよりも「思いをかけている」、つまり「心に引っかかっている」ということなんですね。そのため、「懸」の字は「懸念」や「懸案」など、気になっていることにも用いられます。
・懸垂(けんすい):ぶら下がること
・懸念(けねん) :気にかかって不安に思うこと
・懸案(けんあん):いまだに解決されていない事柄
・懸命(けんめい):必死に頑張るさま
「一生懸命」と「一所懸命」はどっちが正しいの?
「懸命」というのは「全力で頑張ること」のことをいいますが、四字熟語にして「一生懸命」もよく用います。
でも、「一生」ではなく「一所懸命」という表記も目にしたことがあるかもしれません。「一生懸命」と「一所懸命」はどちらが正しいのでしょうか。それとも、何か意味によって使い分ける必要があるのでしょうか。
実は「一生懸命」は、もともとは「一所懸命」だったようです。「一所懸命」が転じて「一生懸命」になったということなんですね。「一所懸命」の「一所」とは、武士が命懸けで守る領地のことで、「一つ所に命を懸ける」という意味から生まれました。
それが、だんだんと「一所」ではなく「一生」に変わっていきました。なぜなら、領地を守る必要がなくなったからです。「いっしょ」と「いっしょう」は音が似ているため、変化させるには都合がよかったんですね。
ですから、現代的な意味であれば「一生懸命」になります。特に新聞表記では「一所懸命」は「歴史的な表記」としていますので、特にこだわりがなければ「一生懸命」にしてください。

「一所懸命」って初めて知ったけど、普通に「一生懸命」でいいんだね。
命は「懸ける」? 命を「賭ける」?
「一生懸命」とは命懸けで頑張ることですが、「命をかける」というときは「懸ける」でいいのでしょうか。それとも「賭ける」でしょうか。
「いのちがけ」という言い回しの場合は「命懸け」にして「命賭け」にはしません。ですから、「命をかける」というときも、「命を懸ける」にするのが順当な判断です。
ただ、「懸ける」も「賭ける」も、どちらも「投入する」という意味があって、代償として命を差し出すことを決意した言い方ですので、あえて「賭」を用いることもあります。
「身命を賭する(しんめいをとする)」という言い方があるように、「賭ける」のほうが、失敗したら失うことをより強く覚悟している印象を与えます。これは個人によって語感が異なるかもしれませんが、「命を懸ける」が一般的ではあるものの、「命を賭ける」とすることもできますので、文脈によって工夫して使ってくださいね。

「身命を賭する」は、命をなげうつという意味なのね。
まとめ
・抽象的なものは「懸け橋」、実際の橋は「架け橋」を使います。
・「架」には棚の意味が、「懸」にはぶら下がるという意味があります。
・「一生懸命」と「一所懸命」は、一般的には「一生懸命」を用います。
・「命をかける」は、一般的には「命を懸ける」を用います。
「懸ける」も「賭ける」も、文字から受ける印象はそれぞれ少し異なっているかもしれませんが、くれぐれも、ご自分の命を実際の賭け事に用いないようにしてくださいね。
最後まで読んでくださってありがとうございました。