はじめに
現代文の試験問題によく登場する「コンテクスト」ですが、ほかにもビジネスシーンなど、いろいろなシチュエーションで用いられています。でも、「テクスト」ってなんだか聞き慣れませんが、「テキスト」ではだめなんでしょうか。
結論からいえば、「テキスト」も「テクスト」同じ「text」ですので、どちらでも間違いではありません。これは単なる読み方の違いです。「next」は「ネクスト」ですし、「EXPO」は「エキスポ」ですからね。
ただ、現代文の論説の問題などでは「テクスト」が多く用いられていますので、もしも学習者の立場であればそれに従ったほうが無難です。それは一定の思いがあってそう書かれているためです。
でも、それってどういう違いなんでしょうか。今回は、「コンテクスト」の意味を確認するとともに、「テキスト」と「テクスト」、「コンテキスト」と「コンテクスト」に違いがあるのかどうか探っていきたいと思います。

「テクスト」ってなってると、難しいことなのかなと思って構えちゃうよね。
教科書の「テキスト」と本来の「テキスト」は違います
「テキスト」というと、すぐに思い浮かぶのは「教科書」や「教本」という意味ですよね。これは英語の「テキストブック」が短くなったもので、本来の意味の「テキスト」のことではありません。教本を「テキスト」と呼ぶのは日本独自の使い方で、英語圏では「テキストブック」と略せずに用います。
このように、日本では「テキストブック」の略称としての「テキスト」が広く浸透しているため、本来の「テキスト」の意味で用いたい場合に、あえて「テクスト」という表記にすることがあります。
もちろん、「テキスト」と「テクスト」を必ず使い分けるということではありませんが、もしも「テクスト」という表記に遭遇したら、「テキストブックのテキストではないことを強調しているんだな」と解釈してください。
「テキスト(テクスト)」ってどんな意味?
「テキスト」の本来の意味は「文章」のこと、もっと言えば「文字のみの情報」のことです。序文や図表などに対して「本文」を指す場合もあります。文字は読まれることで初めて意味を持つものですが、書かれたままの状態の、まだ読まれる前の文字列のことですね。
「テキストファイル」や「テキストエディター」を日常的に扱っている人もいらっしゃると思いますが、テキストファイルの中に入っているのがまさに「テキスト」です。学校でも情報教育が浸透してきているので、「テキスト」といったときに、「文字だけのデータのこと」という理解は容易になってきているかもしれません。
例えば、MicrosoftのWordを使って、「白紙の文書」に何の設定もせずに文字を打っても、そこには、フォント(MS明朝など)、文字の大きさ(10.5ptなど)、文字色(ブラックなど)というように、文字に不随する情報が含まれてしまいます。それは後述する「コンテキスト」に含まれるわけですが、こうした文字情報以外のものを一切排除した、純粋に文字だけのものが「テキスト」です。テキストファイルを作成するテキストエディターは、Microsoftのパソコンにプリインストールされているものであれば「メモ帳」がそれに当たります。
テキストは、まるで流動体のように自由に形を変えられます。あるテキストは本という枠に流し込まれますし、あるテキストは新聞の枠に入ります。あるテキストはネット上に掲載され、また、あるテキストは電子掲示板の文字になります。このように具体的に用いられる前の、純粋なデータとしての文字列が「テキスト」なんですね。
「コンテキスト」なの? 「コンテクスト」なの?
前述したように、テキストの意味を、教科書のテキストと区別するために、あえて「テクスト」が用いられている場合もありますが、それは、その文章を書いた人の強い思いからそう表記されたものです。「コンテキスト」ではなく「コンテクスト」と書いてある場合も同じ理由ですが、情報系やビジネスでは「コンテキスト」、論説などでは「コンテクスト」が用いられることが多い印象があります。これはあくまで印象ですが、どちらも意味に違いはありません。
「コンテキスト/コンテクスト」ってどういう意味?
「コンテクスト」は「文脈」と訳されます。文脈というのは文章の前後関係のことです。また、単に文章の前後関係だけではなく、それを取り囲むものを指すこともあります。例えば、歴史的な背景だったり、社会的な状況だったり、書いた人の立場、あるいは発せられた媒体などです。このように、テキストが読まれて解釈される「場」や「状況」がコンテクストなんですね。
なぜコンテキストを考慮しなければならないのかというと、例えば、「太陽は地球のまわりを回っている」というテキストがあったとして、それはいつの時代のものなのか、著者は科学者なのか宗教家なのか、異論を唱えれば処刑される時代ではなかったのかなど、テキストを取り巻く要素が大きく関わってきます。また、読み手自身が同じ考えなのか反対の立場なのかで意味が異なって伝わることもあります。テキストにはいつもコンテキストがついてまわるんですね。
もう少し広く捉えると、目立たせるためにフォントや文字の大きさを工夫するのもコンテクストに含まれます。また、重要だとしてマークしたアンダーラインやページに貼った付箋など、あらゆる要素が文章の解釈に影響を及ぼすわけですが、これらも含めてコンテクストとする考え方もあります。
そもそも「コンテクスト(context)」の「con」は「~とともに」という意味の接頭辞ですから、「コンテクスト」とは「文字とともにあるもの」、つまり、文章を取り巻くものといったイメージですね。
このように、複数の意味合いを有しているため、純粋に「文脈」という場合は、「コンテクスト」を用いずに、そのまま「文脈」を用いることが多いようです。「その意味でいうと」や「その流れでいうと」の代わりに「その文脈でいうと~」などと用いると、なんだか賢そうな言い回しになりますよね。
斜め上をいく「コンテクスト」の用い方
ここまで述べてきたように、コンテクストとは「文脈」「状況」のような意味でしたが、それが転じて、ビジネスシーンでは「空気を読む」という意味で用いられることがあります。「コンテクスト」は文章を取り囲むものを指しているため、そこから派生したんですね。
ですから、空気を読む能力が高い人は「ハイコンテクスト」な人になります。「ハイコンテクスト」がビジネスにおいて重要かどうかは別として、時としてこのように用いられることがあるので注意してください。
「テキスト」は「織物」が語源です
「テキスト」には「織られたもの」という意味もあって、これが文章の「テキスト」の語源です。実際、織物のことは「テキスタイル/テクスタイル」といいますよね。
織物は、縦糸と横糸を組み合わせて規則的なパターンを作っていきますが、素材や織り方によって風合いや強度、模様が大きく異なります。これは文章を書くことととても似ています。文章もやはり、一定の文法にのっとりながら、必要な単語を選び、組み合わせを工夫することでさまざまな表現を生み出していきますので、まるで文字を織っていくかのような作業です。

織物と文章が同じテキストというのは興味深いわね。
まとめ
今回は「テキスト/テクスト」と「コンテキスト/コンテクスト」についてまとめてみましたが、こうやって調べながら書いていても、「コンテクスト」の守備範囲の広さに少し戸惑ってしまいます。
目の前の相手と同じ言葉を操っていても、気持ちが伝わらなかったり、考えていることが全く違っていて愕然(がくぜん)としたことはありませんか? それだけ言葉というものは、その人の歩んできた人生、まさにコンテクストに左右されてしまうのかもしれませんね。