「方」と「ほう」の表記は悩ましい
「~のほう」というときに、「方」と漢字で書くのか、それともひらがなで「ほう」にするのか、迷うことってありますよね。ふだん目にする文章でも実にさまざまに用いられていて判断に困ってしまいます。
そこで今回は、それぞれの表記辞書ではどのように定めているのか、そもそも「方」と「ほう」は使い分けるべきなのかどうかについて探っていきたいと思います。
表記が一定していない「方」と「ほう」
「方」と「ほう」の使われ方が一定していないのは、それぞれの表記辞書によって立場が異なるためです。そもそも公用文においてはこのことについて特に定めていないんですね。ただし、公用文には「形式名詞はひらがなにする」という原則がありますから、これに従えば、「方」と「ほう」を書き分けたほうがよさそうです。使い分けのポイントは後述しますね。
新聞表記の『記者ハンドブック』ではどうかというと、用例として「その方がいい」を挙げて、「ほう」はみんな「方」と漢字で表記するように示しています。
一方で、議事録表記の『標準用字用例辞典』では「ほう」はひらがなにしていて、「我がほう」「北のほう」を例示しています。
では、NHKではどうかというと、『NHK漢字表記辞典』では、「ほう」を優先するものの、「方」も用いてもよいという中間の立ち位置です。こんなふうにそれぞればらばらなんですね。
「方」と「ほう」の3つの表記方法
このようなことから、どう表記するかはご自分の判断になると思いますが、考えられるのは次の3つの立場になります。
1.「方」と「ほう」を書き分ける
2.「方」と漢字に統一する
3.「ほう」とひらがなで統一する
どれも一長一短ですので、次にお示しする用例を見ながら、納得のいく表記を選んでみてください。もちろん、どれが正しくてどれが間違いということではありません。
「方」と「ほう」を書き分ける立場
まず、「方」と「ほう」を書き分ける立場についてですが、「方」という漢字には、もともと「方角」や「方向」という意味があります。ですから、「方角」や「方向」という場合には「方」とし、そうでない場合には「ほう」とひらがなにします。前者が実質名詞、後者が形式名詞になります。
「方」にするもの
・左の方に進んでください。
・東の方で火災が発生しているようです。
・暖かい空気は上の方にたまります。
「ほう」にするもの
・スポーツは得意なほうです。
・私のほうでやっておきます。
・無理はしないほうがいいと思います。
これが多くの方が納得できる表記かもしれません。ただし、「方」は「かた」とも読めてしまいますので、例えば「前の方」といった場合に、方角のことなのか人のことなのか判別しにくい場合もあります。
「方」と漢字に統一する立場
「ほう」を「方」に統一するのは『記者ハンドブック』が採用している表記になります。みんな「方」にすればいいので迷いがありませんし、字数も節約できてすっきりした印象になります。
ただし、前述したように「方」は「かた」と読めてしまいますので、書くのは容易でも読みで迷いが生じやすいのが難点です。下の文例でいうと、「スポーツは得意なかたです」と「スポーツは得意なほうです」とでは意味が異なってしまうところは注意しなければなりません。誤解を招きかねない場合はひらがなを用います。
すべて「方」にする
・左の方に進んでください。
・東の方で火災が発生しているようです。
・暖かい空気は上の方にたまります。
・スポーツは得意な方です。
・私の方でやっておきます。
・無理はしない方がいいと思います。
「ほう」とひらがなで統一する立場
「ほう」を「ほう」に統一するのは議事録表記の立場です。みんな「ほう」にすればいいので、こちらも迷いがありません。それに、「かた」なのか「ほう」なのか、読み方で困ることもないことが最大の利点ですね。議事録は「言った言わない」が問題になりますから、誤読を防ぐためにこのようにします。
ただ、実質名詞と形式名詞の区別がなくなってしまいますので、少し冗長な印象になってしまうのが難点といえば難点でしょうか。議事録を作成されている方は慣れている表記だと思いますし、私は好きな表記ですが、逆に違和感がある方もいらっしゃるかもしれません。
すべて「ほう」にする
・左のほうに進んでください。
・東のほうで火災が発生しているようです。
・暖かい空気は上のほうにたまります。
・スポーツは得意なほうです。
・私のほうでやっておきます。
・無理はしないほうがいいと思います。
まとめ
ここまで「方」と「ほう」の表記についてまとめてみました。結局、どちらでもいいという結論でしたが、そのことを知っているのと迷いながら表記するのでは明らかに違うと思います。どうぞご自分の考えに合った表記を選んでみてくださいね。最後まで読んでくださってありがとうございました。