「者」「物」「もの」「モノ」の使い分けはどうすればいいの?

表記の決まりごと

「もの」にはいろいろなものがあります

「もの」というときに、「者」「物」「もの」「モノ」があって、「者」は人のこと、「物」は物体のことだから簡単だと思っていても、いざ書こうとすると迷ってしまうことってありますよね。特に、「物悲しい」なのか「もの悲しい」なのか、「物忘れ」なのか「もの忘れ」なのか、「物」の扱いがやっかいです。また、最近では「モノ」とカタカナで表記してある文章も多く見かけるようになりました。

そこで今回は、「者」「物」「もの」「モノ」の使い分けの原則について探っていきたいと思います。

「者」は人格を有する対象に用います

まず、「者」は当然、対象が「人」である場合に用いますが、公用文では組織や団体などの法人に対して「者」を用いることがあります。

組織や団体に「者」を使うのはおかしいと感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、「法人格」といって、「○○法人」を名乗っている団体は、その団体自体に人格があるとして扱うんですね。ですから、ある事業を請け負っているのが個人であっても法人であっても「この事業を請け負う者」ということになります。

「者」を用いる用例
・宿題を忘れた者は手を挙げなさい。
・後ろから走ってきた者に背中を押された。
・成人に達している者が対象となります。
・運転免許を有する者だけが運転できます。
・事業を請け負う者は仕様書に従ってください。

上記の用例を読んで感じられたかもしれませんが、「者」というのはなんだか偉そうな響きがありますので、法令では頻出しますが、一般的には用いられる機会が減ってきているように思います。実際、「宿題を忘れた者」ではなく「宿題を忘れた人」というように、「者」ではなく「人」を用いることが圧倒的に多いのではないでしょうか。

「物」は物体や物質に対して用います

「物」というのは目で見ることができたり手で触れることができる「物体」や「物質」のことです。「物の価値」などと単独で用いられるほか、熟語や慣用句がとても多いのが特徴です。しかも、「青物」「物置」「物音」「物語」など、「もの」と訓読みにする熟語がとても多くなっています。

(「物」を用いる用例)
・物の価値
・物の値段
・大物(おおもの)
・青物(あおもの)
・物置(ものおき)
・物事(ものごと)
・物音(ものおと)
・置物(おきもの)
・物種(ものだね)
・物売り(ものうり)
・編み物(あみもの)
・縁起物(えんぎもの)
・贈り物(おくりもの)
・年代物(ねんだいもの)
・拾い物(ひろいもの)
・物持ち(ものもち)
・物差し(ものさし) など

ただし、「輸入もの」「国産もの」「天然もの」のように、「熟語+もの」の場合には「もの」とひらがなにすることがよくあります。「輸入物」「国産物」「天然物」と書くと「ブツ」と読み違えてしまいかねないので、それを防ぐためにひらがなにするんですね。これは特定のルールというよりも、表記の工夫の範疇なのではないかと思います。

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形式名詞の「もの」はひらがなにします

一方で、必ずひらがなにしなければならないのは形式名詞の「もの」です。これは公用文をはじめ、すべての表記おいてひらがなにすることになっています。形式名詞というのは、「もの」が「物」や「者」という意味を失い、語調を整えるなどの役割にとどまっている場合です。また、「ものの道理」などもひらがなにします。

(必ず「もの」とひらがなにする例)
・人生とはそういうものだよ。
・理想的なものになりました。
・昔はよく手紙を書いたものだ。
・僕もぜひ見習いたいものだな。
・これで失敗したら冷や汗ものだ。
・遅刻したら棄権したものとみなします。
・ものの道理をわきまえなさい。 など

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新聞表記では「接頭語」はひらがなにします

加えて、新聞表記において「もの」をひらがなにするのは、ほかに接頭語があります。接頭語とは、下の語にくっついて意味を添える役割を果たす語のことで、「もの悲しい」「もの寂しい」「もの珍しい」などはひらがなで表記します。私は接頭語を「もの」にするのはとても使いやすいと思っていますが、公用文や議事録表記では接頭語であっても「物」にするところは注意が必要かもしれません。

(「もの」が接頭語の例)
・ものすごい
・もの悲しい
・もの寂しい
・もの珍しい
・もの憂い
・もの静か など

また、新聞表記においては「ものおじ」「ものまね」「ものものしい」などもひらがなにします。

・ものおじ
・ものまね
・ものぐさ
・ものものしい など

漢字が基本でも、ひらがなにしたくなる「もの」たち

接頭語でなくてもひらがなにしたくなる「もの」は多いですよね。私は「物」と漢字で表記することに抵抗がある語がたくさんあります。なぜ抵抗があるのかというと、「もの」が「物質」や「物体」の意味ではない場合に違和感を抱いてしまうのです。

実際、下の用例のような場合はひらがなにしてある表記も多く目にしますし、ご自分の語感にそぐわなければ無理に「物」にしなくてもいいのではないかと個人的には思います。

ただし、公用文でも新聞表記でも下記のような場合は基本的には漢字にしていますので、表記に厳格なお立場の方は漢字を用いるようにしてください。

(判断が分れる「もの」の例)
・物笑い/もの笑い
・物好き/もの好き
・物知り/もの知り
・物覚え/もの覚え
・物思い/もの思い
・物心/ものごころ
・物忘れ/もの忘れ など

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「モノ」とカタカナにするもの

「もの」を「モノ」としている表記もよくありますが、これは表現の工夫としてカタカナを用いているのであって、「こういう場合にはカタカナにする」というような決まりはありません。漢字一文字だとインパクトに欠けてしまうことから、あえてカタカナにしているんですね。

あまり「物」という漢字が好まれないのは、「物」はどこか物質的なよそよそしさをまとっているからではないかと思います。でも、「もの」とひらがなにすると、今度は周囲に埋もれてしまって目立たなくなってしまいます。そこでカタカナの出番というわけです。

多く用いられているのは「ヒト・モノ・カネ」でしょうか。経営において大事な「人・物・金」を強調してカタカナにしているんですね。最近ではこれに「情報」が加わって、「ヒト・モノ・カネ・情報」が四大資源だとされています。また、「モノの豊かさだけが幸せではない」とか、「モノ消費よりコト消費のほうが魅力的だね」などと用いたりもします。

こうした用い方は本則からは外れるかもしれませんが、目的を持って用いることでカタカナで表記する効果を最大限に発揮できますので、上手に使ってみてください。こうしたバラエティー豊かな表記が日本語の魅力でもありますしね。

・経営には「ヒト・モノ・カネ」が必要だ。
・モノの豊かさだけが幸せではない
・モノ消費よりコト消費のほうが魅力的だね。

まとめ

ここまで「者」「物」「もの」「モノ」の使い分けについて述べてきました。原則を知って、その上でそれぞれふさわしい表記を選んでみてください。長くなってしまいましたが、最後までお読みくださりありがとうございました。