はじめに
「~にすぎない」というときに、「~にすぎない」とひらがなで書いてあるものと「~に過ぎない」漢字表記にしてあるものの両方見かけますが、これはどちらが正解なのか気になりますよね。
それに、「過ぎる」というときに、最近では「美人すぎる」「かわいすぎる」など、プラスの意味で用いられることも多くなってきました。これは明らかに「食べ過ぎる」とは違いますので、「過ぎる」にするか「すぎる」にするか迷ってしまいます。
そこで今回は、「~にすぎない」の表記についてまとめるとともに、「過ぎる」と「すぎる」の扱いの違いについて調べてみたいと思います。
「~にすぎない」とはどういう意味
まず、「~にすぎない」とはどういう意味なのか確認しておきたいと思います。
【すぎない】
それ以上のものではない。ただ……だけだ。(三省堂国語辞典)
このような意味です。用例を考えてみたいと思います。
・彼はたまたま不調だったにすぎません。
・彼女は強がって笑っていたにすぎない。
・その心配は取り越し苦労にすぎないよ。
・ここにあるのはほんの一部にすぎません。
「~にすぎない」は一般的にはひらがなにします
「~にすぎない」という表記は「過ぎない」ではなく「すぎない」とひらがなで書きます。理由は、国が出している「公用文における漢字使用等について」という文書にそう書いてあるから、ということになってしまいますが、当然ながら公用文では「すぎない」にしています。また、NHKの『漢字表記辞典』でも、議事録表記の『標準用字用例辞典』においても、「~にすぎない」はひらがなを採用しています。
ただ、異なる立場をとるのが新聞表記の『記者ハンドブック』です。新聞表記では「過ぎる」であっても「~に過ぎない」であっても、みんな「過」を用いるように示しているんですね。ですから、一概に「“~に過ぎない”は間違いだ」とは言えませんので注意が必要です。
つまり、納得して用いていればどちらでもよいということですが、では、どういう理由で「~にすぎない」はひらがなが採用されているか調べてみたいと思います。
どうして「~にすぎない」はひらがなにするの?
本来、「過ぎる」という動詞は、「通過」「超過」「経過」の意味で下のように用いられます。
・駅を過ぎたところで停止した。
・桜の季節も過ぎてしまいましたね。
・何でも度が過ぎるのはよくないよ。
一方、「~にすぎない」は、「過ぎる」という動詞だけで成り立っているわけではありません。分解してみると、格助詞の「に」に、「過ぎる」の未然形と打ち消しの助動詞の「ない」がくっついた連語になっています。そして、「通過」「超過」「経過」の意味を含んでいないんですね。
・ 彼の功績のほんの一部にすぎません。(=彼の功績のほんの一部であるだけだ。)
このように、「すぎない」は、「過ぎる」という本来の意味を失って補助的な役割の用言になっているために「すぎない」とひらがなにするというわけです。
複合語の「~すぎる」は多様すぎる?
また、「すぎる」は、動詞の連用形や形容詞・形容動詞にくっついて複合語になることがあります。そしてその複合語は、「程度を超える」という本来の悪い意味ばかりではなく、ほめたり感嘆したりする場合にも用いられるようになっています。では、これらをどう扱ったらいいのでしょうか。
調べてみたところ、複合語について言及があったのはNHKの表記辞典で、動詞の場合には「過ぎる」を用い、形容詞・形容動詞には「なるべくかな書き」と示してありました。つまり、「食べ過ぎ」「働き過ぎ」などは漢字にするけれども、「甘すぎ」「高すぎ」はひらがなを優先するということですね。
これは確かに合理的だと思います。これなら、最近多くなっているよい意味、つまり「非常に~だ」という意味の場合にも柔軟に対応できます。記載はありませんでしたが、名詞に続く場合もひらがなのほうが漢字が連続しないので違和感がないように思います。ただ、「なるべく」ですから、必ずそうしなければならないという文法上のルールではありません。
公用文や議事録表記、そして新聞表記においては、複合語についての記述はありませんでしたので、表記に厳格なお立場であれば「過ぎる」になるんでしょうか。ただ、「~すぎない」をひらがなで書く理由を考えれば、少なくても本来の意味とは異なる使い方の場合にはひらがながふさわしいのではないかと思います。そのあたりはご自分の語感に従って選んでみてくださいね。
(動詞の連用形+すぎる)
・働きすぎる/働き過ぎる
・食べすぎる/食べ過ぎる
・飲みすぎる/飲み過ぎる
(形容詞/形容動詞+すぎる)
・甘すぎる
・強すぎる
・高すぎる
・くだらなさすぎる
・かわいすぎる
・おいしすぎる
(名詞+すぎる)
・美人すぎる
・無敵すぎる
・残念すぎる
まとめ
今回は「~すぎない」の表記と、複合語の「○○すぎる」についてまとめてみました。特に「○○すぎる」はいろいろな言葉に合体して用いられていますよね。いい意味でも用いられるようになってからかなりたちますし、定着しているのではないでしょうか。私自身、「うれしすぎる」などはよく用いてしまいます。
いずれにせよ、言葉は変化していきますので、原則を頭に入れながら気に入った表記を選んで用いてみてください。今回はここまでとさせていただきます。最後までお読みくださってありがとうございました。