「ある/有る/在る」、「ない/無い」の使い分けはどうすればいいの?

知りたかったモヤモヤ語

はじめに

「ある」という表現は本当に頻繁に用いられていて、ほとんどひらがなで「ある」と書きますが、たまに「有る」や「在る」と漢字になっていることがありますよね。結論からいえば、基本的にみんなひらがなで問題ありませんが、「在り方」や「有り金」など、特定の表現の場合には漢字を用いたほうがいいことがあるんですね。

そこで今回は、どういう場合に漢字にするのか、「ある」「有る」「在る」の使い分けを探っていきたいと思います。関連して「ない」と「無い」にも言及してみますね。

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「有る」と「在る」の使い分けは難しい

まず、「有る」と「在る」の意味の違いを確認してみたいと思います。あえて漢字表記にしていますが、通常はみんなひらがなで書きます。

【有る】
「有している」「出来事が起こる」などの意味

・お金も時間もたっぷり有ります。
・妻子の有る身ですので遠慮します。
・私には子どもを守る責任が有るんです。
・体力が有るうちはまだやっていけます。
・踏み切りで接触事故が有ったようだ。
(※通常はひらがなで表記します。)

【在る】
「存在する」「生存する」「ある状態に身を置く」などの意味

・県庁は自宅から目と鼻の先に在る。
・机の上に在る本を取ってくれないか。
・開発した商品はまだ試作段階に在る。
・病の床に在る彼女を見舞った。
・彼ほど恵まれた環境に在る人はいない。
(※通常はひらがなで表記します。)

意味の違いとしてはこのようになります。お気づきかと思いますが、「有るのか無いのか」を問題にする場合には「有」を用います。一方で、「在」の場合は反対語が「無」ではありません。

国が示す方針はどうなってるの?

例文では無理やり分けましたが、「有る」と「在る」はとても判別しにくいですよね。これについて国はどういう方針を示しているのかというと、内閣訓令第1号「公用文における漢字使用等について」という文書において次のように示しています。

内閣訓令第1号「公用文における漢字使用等について」より
次のような語句を(  )の中に示した例のように用いるときは原則として仮名で書く。
例  ある(その点に問題がある。)

説明はたったこれだけですが、何を言いたいのかというと、問題を「有して」いるのか、問題が「存在して」いるのか、どっちなのか判断しにく場合には「ある」とひらがなで書いてくださいということなんですね。これを受けて、どの表記辞書でも、ほとんど「ある」はひらがなで書くように示しています。

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「在る」と漢字にするのはどういう場合?

では、みんな「ある」にすればいいのかというと、次に示すような語は「在」がよく用いられます。新聞表記やNHKでは「“在”を用いてもよい」という緩やかな扱いですが、公用文や議事録表記では明確に「在」と書くように示していますので、数が少ないのでここで覚えてしまいましょう。

・在り方
・在りか
・在りし日

特に公用文においては「在り方」というのは非常に多く使われていて、省庁でも「発信者情報開示の在り方に関する研究会」や「義務教育の在り方ワーキンググループ」などと用いています。

もちろん「あり方」「ありか」「ありし日」と書いても間違いではありませんので、お好きなほうを使ってみてくださいね。

「有る」と漢字にするのはどういう場合?

一方で、「有る」と漢字にするのはどんな場合かというと、「無」との対比として、あえて「有」の意味を強調する場合です。代表的なものは次のような語ではないかと思いますが、ほかにも、「有無」の「有」や、「有事」の「有」を強調したい場合にも「有」にすることがあります。

・有り金
・有り明け
・有り難い(※注意)

「有り金」といのは手元にあるお金のことで、「有り金をはたいてゲーム機を買った」などと用います。「有り明け」というのは明け方のことで、「有り明けの月」などというのは確かに漢字が似合いますね。「有り難い」については、「ありがたい」と「有り難い」の両方ありますので、これについては次の項目で触れたいと思います。

「有り難い」と「ありがたい」の違いは?

感謝の気持ちの表明としての「ありがとうございます」はひらがなで書きますし、「親切にしてもらってありがたい」とか「ありがたいことに許可をもらった」などもやはりひらがなを用います。

ただ、漢字で「有り難い」と書くこともあるんですね。それは文字どおり「有ることが難しい」、つまり「めったにない」という意味の場合で、「彼は有り難い才能を有している」というように使います。「有り難い」より「あり得ない」のほうが好まれるので、実際はあまり出番はないかもしれませんが、漢字の「有り難い」の使い方も押さえておいてくださいね。

・親切にしてもらってありがたい。
・ありがたいことに許可をもらった。
・彼は有り難い才能を有している。

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動詞以外の「ある」は必ずひらがなにします

「有る」や「在る」は動詞のほかに補助動詞や助動詞になることもありますが、これらは必ず「ある」とひらがなにします。例えば「彼にはもう伝えてある(補助動詞)」や、「吾輩は猫である(助動詞)」などの場合ですね。使い方で特に困るようなことはないと思いますが、念のため補足しておきます。

(補助動詞)
・彼にはもう伝えてある。
・必要な分は保存してある。
(助動詞)
・我が輩は猫である。
・これは大人用である。

「○○あるある」という表現のこと

最近では、「ある」が名詞としても用いられるようになってきました。それが俗語の「○○あるある」です。これは、「そういうこと、よくある、よくある」という共感のことばが短くなったんですね。

「あるある」は、一定の属性を持った人が共通して体験したことや、多数の人の共感を得られるようなことに対して、「○○あるある」や「あるあるだよね」のように用います。

・新入社員あるある
・長男あるある
・地方出身者あるある
・それってあるあるだよね。

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「無い」と漢字にするのはどういう場合?

「ない」の扱いも「ある」と同様に国が次のように方針を示しています。

内閣訓令第1号「公用文における漢字使用等について」より
次のような語句を( )の中に示した例のように用いるときは,原則として仮名で書く。
例 ない(欠点がない。)

そのため、各表記辞書においても特別な場合を除いて「ない」と表記するように示しているんですね。

ただ、「無」を強調したい場合には漢字で表記してもよいことになっています。特に下のような語の場合は「無い」とすることで意味がはっきりしますよね。それで漢字が好んで用いられます。ほかにも、もしも特に強調したい場合は工夫して用いてみてください。

・無い袖は振れないよ。
・とうとう一文無しになった。

また、助動詞の「やむを得ない」や「行きたくない」などは必ずひらがなにします。

まとめ

ここまで「ある」「有る」「在る」と「ない」「無い」の使い分けについてまとめてみました。使い分けといっても、「ある」も「ない」もほとんどひらがなでよくて、限られた表現だけピンポイントで「有る」「在る」「無い」を用いればいいということになりますね。

一般的な文章においては下の7語は漢字で書くのが王道(必須ではありません)のようですので、あとはご自分の語感に従って選んでみてくださいね。

・在り方
・在りか
・在りし日

・有り金
・有り明け

・一文無し
・無い袖は振れない

少し長くなってしまいましたが、最後までお読みいただきありがとうございました!