「ねらい」を「狙い」と書く場合と「ねらい」にする場合

ベンチに座るカバのイラスト 表記の決まりごと

「ねらう」と「ねらい」は少し違います

「狙」という漢字は常用漢字ですので、動詞の「ねらう」はもちろん「狙う」ですよね。でも、名詞で「ねらい」となると少し違っていて、複数の意味があります。

「ねらい」とは?
①銃などで目標を定めてねらうこと。
②めあててとするところ。意図。

①については「狙い撃ち」「狙い澄ます」「狙い目」などの慣用句もありますし、弓道や射撃で的を狙うばかりでなく、「狙っていたチケット」「狙うべき銘柄」などと使います。

②は「めあて」や「目標」の意味ですが、この場合は「ねらい」とひらがなで表記することがあります。特に教育の分野ではほとんど「ねらい」にしていて、「学習のねらい」や「単元のねらい」などと用いていますし、文部科学省でも「新しい学習指導要領のねらいの実現に向けて」などと使用しています。

「狙う」という動詞は漢字だけど、名詞なら「ねらい」にしていいんだね。

「ねらい」の表記辞書による扱いの違い

「ねらい」は各表記辞書でどのように扱われているのか調べてみましたが、使い分けについて言及があったのは『NHK漢字表記辞典』で、めあてや目標の場合は「なるべくかな書き」としています。しかし、新聞表記などではそのような明確な記載はありませんでしたし、公用文でも「狙う」や「狙い」を用いることとしてきました。

ただし、2024年に出された文化審議会の「公用文作成の考え方」によると、「常用漢字表の字種・音訓を用いた語であっても、必要に応じて振り仮名等を用いたり仮名で書いたりするなどの工夫をする」ものの例として「狙い→ねらい」を挙げています。つまり、目的や対象に応じて「ねらい」を使ってくださいということを示してくれているんですね。

どちらを用いても間違いということではないと思いますが、意味によって使い分けたほうが内容が伝わりやすいですので、「めあて」という意味の「ねらい」は、ぜひひらがな表記を用いてみてくださいね。

「狙い」と「ねらい」で文例を考えて見ましょう。

ためしに文例を考えてみましょう。「めあて」という意味なのか、そうでないかで考えてみるといいですね。

・決定的瞬間を狙ってカメラを準備しているんだ。
・食品の買い出しは、閉店前の値下げ商品だけを狙っている。
・この企画のねらいとするところは交流を深めることです。
・活動のねらいの設定が甘いと十分な効果が得られない。

「めあて」の表記方法のこと

このように、ひらがなの「めあて」は目標のことですが、みんなの共通のめあてはきちんと書いて目の届くところに掲示したりしますよね。小中学校などではクラスの目標を黒板の上に掲げているところも多いのではないかと思います。「めあて」は短く箇条書きにして覚えやすいようにしますよね。

大会宣言などでよく用いられるのは「一つ書き」という手法です。「一、」や「一つ、」で始まりますので「一つ書き」というんですね。項目がいくつあっても「一(ひとつ)」で始まります。

「一つ書き」の例として、福島県の会津地方に伝わる「什(じゅう)の掟」を挙げたいと思います。「什」とは数字の10のことではなくて、グループのことを「什」と呼んでいたそうですよ。

〔一つ書きの例:「什の掟」〕
一、年長者の言ふことに背いてはなりませぬ
一、年長者にはお辞儀をしなければなりませぬ
一、卑怯な振舞をしてはなりませぬ
一、弱い者をいぢめてはなりませぬ
一、戸外で物を食べてはなりませぬ
一、戸外で婦人と言葉を交へてはなりませぬ
ならぬことはならぬものです