はじめに
NHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」がおもしろいですよね。なかでも、横浜流星さん演じる蔦屋重三郎が無駄口をたたく場面が多くあって、そのテンポのよさに感心してしまいます。
「無駄口」は「付け足しことば」ともいうそうで、語呂合わせのほかにも、韻を踏んだり、有名なことばをもじったりして楽しむものです。
『べらぼう』に出てくる「ありがた山の鳶烏」は印象的ですが、私がすぐに思い浮かんだのは『呪術廻戦』の五条悟先生の「おつかれサマンサ」です。これは「おつかれさま」の「さま」に「サマンサ」を重ねているんですね。
ことばをもじっているものとしては、例えば「そんなバナナ」があります。「そんなばかな」の「ばかな」を「バナナ」に置き換えているというわけです。「貸してちょんまげ」は「貸してちょうだい」を「ちょんまげ」にしておどけて表現しています。
こうしたことば遊びは古くからあって、文化となって現代にも引き継がれているんですね。今ではあまり使われなくなったものも多いので、今回はこうした無駄口を集めてみることにしました。
無駄口/付け足しことばの読みと意味
(ああうまかったうしまけた)
・ああうまかった牛負けた
「おいしかった」の「うまかった」は「馬勝った」とも書けることから、そこに「牛負けた」を加えたもの。
(あいはこうやにございます)
・あいは紺屋にございます
相手が「あい」と返事をすると、それを受けて、「あい」と「藍」を掛けて紺屋(染め物屋)につなげて、ことばじりをとらえてからかっている言い方。
(あがったりだいみょうじん)
・上がったり大明神
「上がったり」は「商売が上がったり」の意。商売に失敗して相手にされなくなったことを、「大明神」を付けて滑稽に表現したもの。
(あきれかえるのほうかぶり)
・あきれ蛙のほおかぶり
蛙は目が横についているのでほうかぶりをすると見えなくなるため、「蛙のほおかぶり」は先を見通す力がないこと。それに「あきれかえる」の「かえる」を掛けている。
(あたりきしゃりき)
・あたりき車力
「あたりき」は「あたりまえ」のしゃれことばで、「りき」つながりで「車力」を添えて語呂をよくしたもの。「あたりき車力 車ひき」などとつなげることもある。
(あたりまえだのくらっかー)
・当たり前田のクラッカー
「当たり前」に「前田のクラッカー」をつなげたもの。昭和の時代にテレビコマーシャルでも用いられたフレーズ。
(ありがじっぴきさるごひき)
・ありが十匹猿五匹
「ありがとう」を「蟻が十」に置き換え、「猿五匹」を付け足したもの。
(ありがたいならいもむしゃくじら)
・ありがたいなら芋虫ゃ鯨
「ありがたい」を「蟻が鯛」に置き換え、蟻が鯛の大きさなら、芋虫は鯨ぐらいの大きさになるという比較を冗談めかして言ったもの。
(ありがたやまのとんびがらす)
・ありがた山の鳶烏
「ありがたい」を「有難山」に置き換え、山にいる鳶烏を無意味に付け足したもの。
(ありがとうならいもむしゃはたち)
・ありがとうなら芋虫ゃ二十歳
「ありがとう」を「蟻が十」に置き換え、蟻が十歳なら芋虫は二十歳だと、大きさを年齢にたとえて付け足したもの。
(うそをつきじのごもんぜき)
・嘘を築地のご門跡
「うそをつく」の「つく」から地名の「築地」になり、築地には本願寺があるので「ご門跡」をつなげたもの。
(うらやましいのきさんしょのき)
・うらやま椎の木山椒の木
「うらやましい」の「しい」から「椎の木」になり、続けて「山椒の木」を足したもの。
(おそかりしゆらのすけ)
・おそかりし由良之助
『仮名手本忠臣蔵』で、判官が腹に刀を突き刺した直後に由良之助が到着したことから、待ちかねていた場合や、もう間に合わないという場合にしゃれて言うフレーズ。
(おそれいりやのきしぼじん)
・恐れ入谷の鬼子母神
「恐れ入りやす」の「いりや」に「入谷」を掛けて、入谷にある鬼子母神をつなげたもの。
(おちゃのこさいさいかっぱのへ)
・お茶の子さいさい河童の屁
「のんこさいさい」というはやしことばをもじって、「のんこ」が「お茶の子」になり、さらに「河童の屁」をつなげて、ものごとが簡単にできることを言い表すもの。
(おっとがってんしょうちのすけ)
・おっと合点承知之助
「がってん」は「承知する」ことで、それを人名風におもしろく表現したもの。
(おどろきもものきさんしょのき)
・驚き桃の木山椒の木
「驚き」を「おどろ木」と置き換え、「木」つながりで「桃の木」と「山椒の木」を付け足して驚いたことを強調している言葉遊び。
(おもしろたぬきのはらつづみ)
・面白狸の腹鼓
「おもしろい」に「狸」を付け足し、狸といえば腹鼓であることから「狸の腹鼓」をつなげたもの。
(かたじけなすび)
・かたじけ茄子
「かたじけない」の「ない」を「茄子」に置き換えたもの。
(かんにしなののぜんこうじ)
・かんに信濃の善光寺
「堪忍しな」の「しな」から「信濃」になり、信濃といえば善光寺が有名であることから。
(きたかちょうさんまってたほい)
・来たか長さん待ってたほい
「とうとういらっしゃいましたね」という意味の軽口。「長さん」には特に意味はないとのこと。
(きたがなければにっぽんさんかく)
・北がなければ日本三角
きれい好きな人が何でも「きたない、きたない」ということをあざけって、「北がない」なら困ってしまうという軽口。
(けっこうけだらけねこはいだらけ)
・結構毛だらけ猫灰だらけ
「結構なことでございます」の意味。「結構」の「け」から「毛」になって、「毛」が生えているものとして「猫」になり、「だらけ」つながりで「灰だらけ」になり、ことばを重ねて楽しんでいる言い方。
(こっちへきなこもち)
・こっちへきな粉餅
「こっちへ来な」に、「きな」つながりで「きな粉餅」をつなげた言い方。
(さよならさんかくまたきてしかく)
・さよなら三角また来て四角
別れのあいさつのことば遊び。「さよなら」の「さ」つながりで「三角」、そして「四角」となる。「四角は豆腐、豆腐は白い、白いはうさぎ、うさぎは跳ねる、跳ねるは……」と連想ゲームのようにつげて遊ぶ。
(しょうがなければみょうがある)
・しょうがなければ茗荷ある
「しょうが」を「生姜」に置き換えて、「生姜がないけれども茗荷はある」とふざけて言ったことば。
(しらぬかおのはんべえ)
・知らぬ顔の半兵衛
「しらん顔をする」ことを名前のようにして表現したことば。
(じょうだんはさておきしんばしえき)
・冗談はさておき新橋駅
「冗談はさておき」に語呂のいい言葉を付け足したもの。
(そうでありまのすいてんぐう)
・そうで有馬の水天宮
「そうであります」に「有馬」を掛けて、有馬にある水天宮を付け足したもの。
(そうはいかのきんたま)
・そうは烏賊の金玉
「そうはいかない」の「いか」を「烏賊」に掛けて、無駄口を付け加えたもの。
(そうはとんやがおろさない)
そうは問屋が卸さない
「そう簡単にはいかない」という意味を、「安い値段では問屋は卸してくれない」という意味になぞらえたもの。
(そのてはくわなのやきはまぐり)
・その手は桑名の焼き蛤
「その手はくわない」を「桑名」という地名に掛けて、桑名の名産品の焼き蛤を付け足したもの。
(どうぞかなえてくれのかね)
・どうぞかなえて暮れの鐘
「どうぞかなえてくれ」の「くれ」を「暮れ」に掛けて、暮れといえば除夜の鐘であることから。
(どうしたひょうしのひょうたんじゃ)
・どうした拍子の瓢箪じゃ
「どうした拍子か」という意味に、「ひょうし」と「ひょうたん」を掛けて付け足したもの。「どうした風の吹き回しだろうか」の意。
(てきもさるものひっかくもの)
・敵もさるものひっかくもの
「敵もさるもの」の「さる」を「猿」に置き換え、猿といえばひっかくものであることから。
(なにがなんきんとうなすかぼちゃ)
・何がなんきん唐茄子かぼちゃ
「何がなんだか」の「なん」を「南京(かぼちゃの異名)」に掛けて、さらに「唐茄子(これもかぼちゃの異名)、そして「かぼちゃ」と、同じ意味のことばを重ねているもの。
(なにかようかここのかとおか)
・何か用か九日十日
「何かようか?」の「用か」を「八日」に置き換えて、それに「九日」と「十日」と続けたしゃれことば。
(なんだかんだはなかんだ)
・なんだかんだ洟かんだ
「なんだかんだ」に、「かんだ」つながりで「洟かんだ」を付け加えたことば遊び。
(はらがきたやま)
・腹が北山
「腹がすいてきた」という意味。「すいて」省略して、「きた」を「北」に掛けて「山」を付け足している。
(びっくりしもやのこうとくじ)
・びっくり下谷の広徳寺
「びっくりした」の「した」に「下谷」を掛けて、下谷にある広徳寺をつなげたもの。広徳寺は関東大震災によって焼失したため、現在は練馬区の桜台にある。
(へいきのへいざえもん)
・平気の平左衛門
「平気」の「へい」つながりで、名前のようにして楽しむことば遊び。動じないことをいう。
(みあげたもんだよやねやのふんどし)
・見上げたもんだよ屋根屋の褌
感心するときの「見上げたものだ」という言い回しに、高い所にあるものとして「屋根屋の褌」を付け足しておもしろく表現したもの。
まとめ
もっともっとあると思いますが、現時点で収集できたのはここまでです。これからも気に留めてことば集めをしてみたいと思います。
なお、ここで取り上げたもののうち、半分以上は『日本語便利辞典』(小学館)を参考にさせていただいています。とてもためになりました。ありがとうございました。