スッキリ解説「押印」と「捺印」/「押」はプッシュ 「捺」はスタンプ

知りたかったモヤモヤ語

はじめに

ここのところ脱印鑑の流れが加速していますが、日本では本人確認のために「はんこを押す」文化がありますし、大事な契約の際には事前に登録した印影との照合が求められたりもします。こんなふうに、私たちに身近な「はんこ」ですが、「押印(おういん)」と「捺印(なついん)」はどう違うのか疑問に思ったことはないでしょうか。

いろいろな解釈があるかもしれませんが、この記事では純粋に「押」と「捺」の漢字の意味の違いと、国が示している取り扱いについて解説してみたいと思います。ついでに、「はんこ(判こ)」と「印鑑」の語源について調べてみましたので、最後までおつきあいくださいませ。

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「捺」は表外字なので「なつ印」にします

まず、「捺」という漢字ですが、これは常用漢字ではありません。常用漢字というのは、現代の国語を書き表すために選ばれた漢字のことで、中学校までに習う漢字がそれにあたります。基本的には漢字はこの範囲内のものを用いることになっているんですね。

それ以外はひらがなにするか、ほかの表現に言い換えることになりますので、「捺印」は「なつ印」、「押捺」であれば「押なつ」になります。広く情報を提供する立場であるならば、常用漢字はどうしても意識しなければならないんですね。

でも、私はどうも交ぜ書きは好きになれません。法律ではありませんから、誰でも読めそうな字だったら漢字で問題ないと個人的には思いますが、そのあたりはご自身で判断なさってくださいね。

公用文では「押印」に統一します

現在用いられている常用漢字は平成27年に告示されたものですが、その中に「捺」が含まれていないため「捺印」という表記が使えなくなりました。そこでどうしたのかというと、公用文においては「捺印」は「押印」に言い換えることにしました。このことは、「法令における漢字使用等について」でも、「新しい公用文作成の要領に向けて」でも示されています。

もちろん、この基準は公用文における定めですので、一般の文章であれば「捺印(なつ印)」を用いて問題ありません。では、次に「押印」と「捺印」はどのように違うのか、意味の違いを探っていくことにしましょう。

「押印」と「捺印」はどう違うの?

「押印」と「捺印」ではどう違うのか、念のため『大辞林』を引いてみたところ、「押印」は「印を押すこと。捺印」とあり、「捺印」は「印判を押すこと。押印」となっていましたので、どちらも同じ意味でした。ただ、「捺印」には「印判そのもの」という意味もあるようです。

では、「押」と「捺」の漢字の意味はどう違うのでしょうか。

「押」は「圧力を加えて移動させること」という意味で、広く一般的に「スイッチを押す」や「人を押しのける」、あるいは「押しが強い人」というように用います。ですから「押」は「プッシュ」の意味ですね。

一方の「捺」は「下にじりじりと押しつけること」という意味でした。単にプッシュするのではなく、ぐーっと押しつけると跡が残りますから、その意味では「スタンプ」が近いかもしれません。あるいは、「捺染(なっせん)」という染色の技法がありますが、これは型を使って染料を生地に転写するものですから、「プリント」という意味にもなります。

このようなことから、「押印」は「印鑑を押す行為」のことであり、「捺印」は「印の型を写しとる行為」(あるいは印判そのもの)だとわかります。確かに意味は違いますが、結果的に「判を押す」ということですから、ほぼ同じとして扱ってよいのではないかと思います。そのため、公用文のように「押印」に統一してしまうのも一案かもしれません。

ただ、最近はデジタル印鑑も普及してきています。デジタル印鑑の場合はプッシュよりもプリントが近いですし、しるしそのものという意味では「捺印」のほうがふさわしいと考えられます。どこまでこだわるかにもよりますが、このあたりは判断に迷うところですね。

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「はんこ」と「印鑑」に違いはあるの?

「はんこ」の語源と表記について

さて、「はんこ」というのはよく用いていますよね。「はんこ」の語源を調べてみると、もともとは「版行(はんこう)」、つまり、版木に彫って印刷することだったようです。ただ、同じように彫ったものを写しとるので「印章」の意味もありました。そのうち、特に「印章」の意味の「はんこう」から「はんこ」になったそうです。

ですから、「はんこ」とは「判」を押すもののことで、「こ」は当て字なんですね。それで、公用文や議事録表記では「はんこ」は「判こ」と書きます。この交ぜ書きが私はあまり好きにはなれませんが、新聞表記やNHKでは「はんこ」とひらがなを採用していますので、「判こ」でも「はんこ」でも、どちらでも大丈夫です。ただし「判子」は基本的に用いません。

「印鑑」の語源について

一方で印鑑ですが、「印」は「はんこ」のことで、「鑑」は「かがみ」、つまり手本や見本のことなんですね。本人確認をするために、あらかじめ届けておく印影の見本のことを「印鑑」と呼んでいたそうで、これは今の「印鑑登録」の「印鑑」そのものの意味になります。それがだんだんと「印」そのものも「印鑑」というようになりました。

このように、「はんこ」と「印鑑」は成り立ちは異なりますが、現在は同じものとして扱っています。「はんこ」をあらたまって呼ぶときには「印鑑」が好まれるようです。

印鑑から生体認証の時代へ

いくら「私は私本人です」といっても、それを証明するものがなければ私になり得ないというのはとても皮肉で難しいことだと思います。その不便さを解消するために、日本では「はんこ文化」が定着していたのだと思います。

このように「はんこ文化」があるのは東アジアの一部の国に限られていて、日本のほかに、中国や韓国、台湾では、やはり何らかの「判」を用いるそうです。一方、重要な契約や身分証明としてサインが用いられている国は非常に多く、アメリカやカナダ、イギリスやフランスなど、世界的に広く存在します。

運転免許証もマイナンバーカードもない時代、私が私であることの証明として印鑑が用いられてきたのは興味深いことですし、私などは印鑑に風情のようなものを感じてしまいますが、これからは生体認証の時代になっていくのでしょうね。

生体認証には、指紋認証のほかに、顔認証、静脈認証、目の虹彩認証、声紋認証、DNA認証などいろいろありますが、近い将来、科学技術の力によって、そこにただ存在するだけで自分が自分だと証明できるようになるのかもしれません。ただ、このことは、逃げも隠れもできないということでもありますけれどもね。

まとめ

・公用文では「捺印」は使わず、すべて「押印」にします。
・「捺」は表外字なので「なつ印」「押なつ」と表記します。
・「押印」は「印鑑を押す行為」のことです。
・「捺印」は「印の型を写しとる行為」のことです。
・「判子」の「子」は当て字なので「判こ」か「はんこ」にします。

今回は「なつ印」と「押印」の違いと、「はんこ」と「印鑑」の語源についてまとめてみました。最後まで読んでくださってありがとうございました!