はじめに
「言う」というときに、もちろん「意見を言う」は「言う」と漢字にしますが、「そういうこと?」は「いう」とひらがなにしますよね。きっと自然に書き分けていると思います。このように、「常用漢字内で書ける動詞は漢字にする」という原則がありながら、「いう」はひらがなにすることがとても多いんですね。
でも、何を基準に漢字にするかひらがなにするかを決めたらいいのでしょうか。今回は、「言う」と「いう」の使い分けについて探っていきたいと思います。
「言う」と漢字にするもの ①話す/述べる
まず、「言う」と漢字にする場合ですが、「言う」は「思うことを言葉にして話す/述べる」という意味ですから、そのままの意味であれば「言う」と漢字にします。
・言える範囲で結構です。
・私に非があったと言わざるを得ない。
・彼が言うには、夜中に雪が降ったそうだ。
・お母さんの言うことを聞きなさい
・言うは易く行うは難し。
・言うまでもないことだろう。
・逆に言うと楽観的な見方も成り立つ。
・誰が何と言おうが初志は貫く。
・言うに言われぬ事情があるんだろう。
・言わぬが花だ。黙っていよう。
・言わずと知れたことでしょう。
・それは偶然とも言える。
など
「言う」と漢字にするもの ②「言い+○○」
「述べる/話す」という意味の「言う」は、「言い+○○」の形で慣用的な表現として用いるものがあります。これらもやはり漢字で表記します。
・言い表す
・言い足りない
・言い争う
・言い伝え
・言い値
・言い逃れ
・言い張る
・言い古される
・言い回し
・言い残す
・言いよう
・言い切る
・言いがかり
・言い訳
・言い渡す
・言い得て妙
・言いふらす
など
「いう」とひらがなにするもの
一方で、「人が話す」という本来の意味が薄れているものはひらがなにするんですね。ひらがなにするものはとてもたくさんあって、漢字よりもひらがなのほうが多いと思いますが、代表的なものを順に見ていくことにしましょう。
「称する/呼ばれている」という意味
・社長という立場になっても貧乏性のままだ。
・日本という国に生まれてよかったと思います。
・橋本さんという方をご存じでしょうか。
・美魔女といわれる彼女だからできたことだ。
伝聞であることを示す「~だそうだ」
・その後、彼は幸せに暮らしたという。
・お風呂の温度はぬるめがいいというよ。
・猫が顔を洗うと雨が降るといわれます。
・昔はここにお寺があったといわれています。
そのさまであることを示す場合
・そういうことでしたか。
・こういう状況になっています。
・どういうことか理解できません、
・ああいうことがあって落ち込んでいる。
擬声語や擬態語にくつける場合
・ゴロゴロいってる猫がかわいい。
・頭がガンガンいってつらい。
・ガタンといったかと思うと落ちてきた。
・床がぎしぎしいうけど大丈夫かな。
その他、助詞の「と」にくっついて
・特にこれといった趣味もない。
・あっという間に時間が過ぎた。
・いざというときに備えましょう。
・くじ運というものに縁がない
・西高東低という気圧配置になっている。
・家族というのは面倒だがありがたい。
・中間管理職という立場はつらいものだ。
・ぬくもりというものを知らずに育った。
・賞味期限は3年ということだ。
・この野菜は健康にいいということです。
「物言う」と「ものをいう」の違いについて
最近、よく目にする「物言う株主」ですが、この場合の「物言う」は、その企業の株を保有するだけでなく、積極的に経営について自分の考えを表明して影響を及ぼそうとする投資家のことです。
一方、「経験がものをいう」というのは「大きく影響する」という意味ですね。これは「経験」という抽象的なものを擬人化した表現です。「学歴がものをいう」とか「お金の力がものをいう」など、さまざま用いられます。
前者の場合は実際に人間が発言するので「物言う」にしますが、後者は人が話しているわけではないので「ものをいう」とひらがなにします。
発音の「ゆう」と表記の「いう」について
「いう」というのは、実際の発音としては「ゆう」になることが多いですよね。それでも「ゆう」ではなく「いう」にするのはなぜなのでしょうか。
内閣告示の「現代仮名遣い」によると、「表記の慣習による特例」として動詞の「い(言)う」は「いう」と書くように示されています。
「現代仮名遣い」より 本文 第2(表記の慣習による特例)
4 動詞の「いう(言)」は,「いう」と書く。
例 ものをいう(言) いうまでもない 昔々あったという
どういうふうに 人というもの こういうわけ
これはどういうことかというと、発音と表記は一致させるのが原則ではあるけれども、特例として、発音が「ゆう」でも、表記は「いう」にしてくださいということなんですね。
どうして発音が「いう」ではなく「ゆう」になってしまうかというと、「i」も「u」もどちらも母音なのでつながってしまうんですね。これを母音融合といいます。
「ゆう」は、発音としては間違いではありませんが、表記としては誤りになってしまいます。SNSなどでわざと「ゆう」を用いることがあるかもしれませんが、癖がついてしまうと、レポートなどでも「ゆう」にしてしまいがちですので、そのあたりは気をつけてみてください。
まとめ
・思うことを言葉にして述べている場合は「言う」にします。
・「言い+○○」という慣用表現は「言う」にします。
・「言う」の意味が薄まった使い方の場合は「いう」にします。
・発音が「ゆう」になっても、表記は「いう」にします。
ここに挙げたものは原則ですので、あとはご自分の語感でチョイスしてみてくださいね。最後まで読んでくださってありがとうございました。