動植物の名前は伝えたい内容で表記が異なります
文章を書く場合、常用漢字表にある漢字ならそれを用い、なければひらがなで表記しますよね。動植物の名前も基本的には同じですが、ただし、「一般語」と「学術的な名称」とで異なっていて、一般語であれば原則どおりで大丈夫ですが、学術的な名称であればカタカナにします。
「一般語」なのか「学術的な名称」として用いるのかは文章の内容によって異なります。私たち人間は、一般的には「人」ですから「人は一人では生きていけない」などと書きますが、「ヒト科」の動物でもありますので、「ヒトの進化を調べる」や「遺跡からヒトの骨が見つかった」などとカタカナで書くこともあります。どちらを使うかの判断は書き手に委ねられていますので、適切に表記してくださいね。

「人」と「ヒト」でかなり印象が違うね。「ヒト」だといきなり動物っぽくなるよ。
動物や植物名の漢字・かなとカタカナ表記の使い分け
繰り返しになりますが、動植物の名前の場合、漢字かなにするか、カタカナを用いるかは文章の内容によりますので、「鈴虫」でも「スズムシ」でも、「月見草」でも「ツキミソウ」でも、「八重桜」でも「ヤエザクラ」でも、どちらでも大丈夫です。叙情的なものなら「鈴虫が鳴いて秋の訪れを感じます」がいいでしょうし、科学的な内容なら「スズムシの飼い方を説明します」がふさわしいですよね。このように文章表現として適切な表記を選んでください。ただ、一応の決まりはありますので、以下に基本的な使い方の例を示してみたいと思います。
・「桜を見に行こう」の「桜」は一般語ですから漢字で大丈夫ですが、「ソメイヨシノが開花した」の「ソメイヨシノ」は学術的な花の名前なのでカタカナにします。「サクラの苗木を販売する」もカタカナですね。
・「鼠」は表外字なので、ひらがなで「ねずみ」ですが、「ネズミ」はカタカナを多く用います。ペットや家畜ではないですからね。「ねずみ一匹見逃さない」や「ねずみ小僧」などというときはひらがなですが、「ネズミ駆除はどうすればいいだろう」とか「ハツカネズミの繁殖力はすごい」などいうときはカタカナにします。
・「牛」「馬」「猫」「犬」「猿」などは、身近な動物としての一般用語として表現するときは漢字で書きますが、「イリオモテヤマネコ」や「ニホンザル」のような場合にはカタカナです。「イヌ」「ネコ」「サル」とも書けますが、親近感は失われます。「サルによる獣害」や「ネコ科の動物」などはカタカナです。
・「米(こめ)」は一般用語の場合には「米」で、「私、とにかくお米が大好きなんです」などと使いますが、作物や生産物の意味合いでは「コメ」にします。「コメの生産量」「コメの値段」などですね。「稲」も同じです。「稲作が盛んな地域」なら「稲」、「イネの生育の記録」などは「イネ」にします。
・「ほうれんそう」は「ほうれん草」としたくなりますが、「ほうれんそう」または「ホウレンソウ」にします。また、「にんじん」の「人参」は当て字ですので「にんじん」か「ニンジン」にします。「大根」や「白菜」など常用漢字表の中の漢字のものはそのまま使用できますが、「ダイコン」「ハクサイ」でももちろん大丈夫です。
・外来語はカタカナ表記ですので、キャベツ、トマト、キュウリはカタカナですから、野菜や果物の表記は統一感をもたせるのが難しいですね。「ほうれんそうとキャベツを炒める」にするか「ホウレンソウとキャベツを炒める」にするかは、一般語として扱うか野菜の種類を重視したかの違いですので、どちらでも大丈夫です。

「ほうれんそうのソテー」のほうが「ホウレンソウのソテー」よりおいしそうに感じるのは気のせいかしら。
動植物の名称にはカタカナと漢字の組み合わせもあります
表外字の場合、蝶は「ちょう」、「蟹」は「かに」になりますので、「ちょう飛んでいる」や「おいしいかにが食べたい」などというのが本則です。でもそうするとひらがなが周囲に埋もれて読みにくくなってしまうんですね。
それを避けるために、一般語であってもカタカナを用いて「チョウが飛んでいる」「おいしいカニが食べたい」などとすることが多くあります。これは表記の本則からは外れますが、読みやすさに配慮して認めている表記です。そのため、「ホッキ貝」や「車エビ」などの漢字・カタカナ表記も許容されます。
慣用句やことわざの場合はカタカナではなく漢字・かなを用います。でも、例えば「海老で鯛を釣る」というときはにどう書くでしょうか。「海老」も「鯛」も表外字ですから「えびでたいを釣る」が本則です。実際に漁に出てエビを餌にしてタイを釣っているわけではないですからね。でも、「えびでたいを釣る」ってなんだかとっても読みにくいですよね。
そこで、新聞表記では慣用句であっても「エビでタイを釣る」という表記を認めています。これだと読みやすいですが、本来のこじゃれた雰囲気は失われてしまいます。ルビを用いればいいでしょうが、必ずしもそれができるともかぎりません。長ったらしくなりますが、「海老(えび)で鯛(たい)を釣る」とふりがなを用いるのも手ですね。どれも一長一短でどれが正解というのはありませんので、文章にあわせて納得のいくものにしてください。表記の指針は目安ですからね。
もちろん、「ごぼう抜き」や「猫かわいがり」など、常用漢字内であれば慣用句は漢字・かな表記を用いてくださいね。

「うなぎのぼり」ではなく「ウナギのぼり」にすると、比喩ではなくて、実際のウナギが泳いでいる雰囲気になるからおもしろいね。