はじめに
「うたう」というと、当然ながら「歌う」と書くことが多いですよね。でも、「美肌効果をうたう」といった場合は「歌う」わけではなくて、漢字で書けば「謳う」になります。ところが「謳」は常用漢字にはない表外字なんですね。
ほかにも「うたう」には「謡う」や「唄う」もありそうですが、どう使い分けたらいいのかも気になるところです。
そこで今回は、「謳う」の意味と表記を確認するとともに、あわせて「歌う」「謡う」「唄う」の使い方について確認していきたいと思います。
「謳(うた)う」とはどんな意味?
前述したように、「謳」は常用漢字表にない表外字ですので、ひらがなで「うたう」と書きます。もちろん常用漢字以外は使ってはいけないということではありませんが、広く情報を発信する立場であれば常用漢字内で書くのが原則なんですね。
「謳(うた)う」というのはどういう意味かというと、「はっきり主張する(明文化する)」「口をそろえてほめたてる」「謳歌する」などの意味があります。
それぞれ例文で確かめてみましょう。
①はっきり主張する(明文化する)
・憲法には基本的人権がうたわれています。
・この条約にうたわれてる内容をご存じですか?
・大げさなうたい文句にだまされてはいけないよ。
・彼は医療制度改革をうたって当選した議員です。
・この製品はダイエット効果があるとうたっている。
②口をそろえてほめたてる
・神童とうたわれた彼女も今はいいお母さんになった。
・天才少年とうたわれている彼のことを知っているか?
③謳歌する
・やっと訪れた人生の春をうたおうではないか。
・青春をうたうことなく年を重ねてしまった。
「歌う」と「謡う」の使い方について
次に「歌/謡/唄」ですが、このうち常用漢字表の中で「うたう」という読みがあるのは「歌う」と「謡う」です。
「歌う」というのは、「声に節をつけて歌詞を唱える」ことですから、これは問題ないですよね。きっといろいろなシーンで歌っていることと思いますし、擬人的に用いることもあります。
・卒業式で「旅立ちの日に」を歌った。
・妻のために心を込めて歌います。
・小鳥が楽しそうに歌っているね。
一方で「謡う」は「謡曲」の場合に限って用います。「謡曲」というのはあまりなじみがないかもしれませんが、能楽における謡の部分で、「♪高砂や この浦舟に帆を上げて」というフレーズならご存じかもしれません。
・披露宴で「高砂」を謡っていただきたい。
・観世流の謡曲の謡い方を習いたいものだ。
「唄う」はひらがなで「うたう」にします
そうすると、謡曲以外は「歌う」と書くことになりますが、邦楽も「歌う」でいいのでしょうか。
邦楽には「唄もの」といって長唄や地唄がありますよね。それに、日本民謡のタイトルには「盆唄」「牛追唄」「馬子唄」のように「唄」が使われているものがたくさんあります。ですから「民謡を唄う」にしたほうがよさそうです。
ところが、常用漢字表では、「唄」は「うた」とは読むものの、動詞としての「唄う」という読みを許容していないんですね。
(常用漢字表より)
唄 |うた |小唄,長唄
それでどうするかというと、「唄」との整合をとるために、「長唄をうたう」とか「馬子唄をうたう」などとひらがなにするんですね。
これは「唄」と「歌」が重ならないようにそうするということですので、邦楽曲はみんな「うたう」にするわけではなく、「わらべうたを歌う」などとしても問題ありません。ただ、「歌う」というと日本の伝統的な音楽の印象が薄れてしまうと感じるときには、「うたう」を用いてみてください。
(「唄」との整合性からひらがなにする)
・三味線に合わせて小唄をうたう。
・この部屋で母は長唄をうたっていた。
・五木の子守唄をうたっていただけませんか。
(どちらでも可)
・懐かしい民謡を歌ってください。
・懐かしい民謡をうたってください。
朗詠や吟詠も「歌う/うたう」にします
「朗詠」というのはご存じでしょうか。俳句や和歌や詩歌に節をつけて表現するもので、「歌会始の儀」の映像をご覧になったことがあればイメージしやすいかもしれません。「朗詠」のほかに「吟詠」や「詩吟」などの呼び方もあります。
宮内庁のホームページでは「歌会始」で節をつけて読み上げる場合に「歌う」を用いていました。ですから、「朗詠」や「吟詠」も「歌う」でよさそうです。
「詠」という文字の整合から「詠う」にしたくなるかもしれませんが、「詠」には「うたう」という読みがないんですね。ですので、「歌う」に抵抗がある場合はひらがなにしてくださいね。
(常用漢字表より)
詠 |エイ |詠嘆,詠草,朗詠
|よむ |詠む
終わりに(ボーカロイドが歌う時代に)
歌を歌うのは人間だけではなくて、いまやボーカロイドが大人気ですね。初音ミクが登場した当初は、一部のコアなユーザーたちのものという認識でしたので、これほどの巨大市場に成長するとは思いもしませんでした。
もちろん、もともとは人間の声を合成したものですので、機械が発していても「歌う」という表記に違和感はありません。人間では歌えない声域やリズムをかるがると歌いこなすボカロの世界は魅力がいっぱいです。
最後は余談になってしまいましたが、今回は「うたう」についてまとめてみました。最後まで読んでいただきありがとうございました。