国語辞典の選び方/「明鏡・岩波・例解・三省堂・新明解」を比較してみた

日本語そもそも

はじめに

ことばの意味を調べるときに、ネット検索でほとんど解決してしまうことも多いですよね。でも、「言語化」がはやっているようだし、学生時代に使った国語辞典は古くなったので、1冊ぐらい新しい紙の国語辞書が欲しいとお考えの方もいらっしゃるのではないでしょうか。あるいは、お子さんのために使いやすいものを準備したいとお考えの方も多いことでしょう。

でも、たくさん種類があるのでどれを選べばいいか判断がつきません。そんなときにお薦めなのがサンキュータツオさんの『学校では教えてくれない!国語辞典の遊び方』です。これを読むと、それぞれの国語辞典の特徴をざっくりつかむことができますし、辞書を擬人化していて楽しい本です。

ただし、少し古くて、現在出版されいてる辞書の前の版の解説になっていることと、文体は平易でも内容は辞書オタク向けです。それに、私が愛用している辞書のひとつの『現代国語例解辞典』が取り上げられていないなど、少し偏りもあるようです。学んだ大学によって、学問としての「系列」や「派閥」のような大人の事情もあるのかもしれません。

そこで、私がふだんから使っている『明鏡国語辞典』『岩波国語辞典』『現代国語例解辞典』『三省堂国語辞典』『新明解国語辞典』を実際に見比べていただき、辞書選びの参考にしていただけたらと思います。手持ちの辞書が5冊しかないので網羅しているわけではありませんが、この5冊は多くの人が手にされている辞書かと思いますので、少しでもお役に立てれば幸いです。

外観を確認しよう

ケースに入れた状態で並べるとこんな感じになります。向かって左から紹介します。

『明鏡国語辞典(第三版)』大修館書店 3,300円
『岩波国語辞典(第八版)』岩波書店  3,520円
『現代国語例解辞典(第五版)』小学館 3,190円
『三省堂国語辞典(第八版)』三省堂  3,300円
『新明解国語辞典(第八版)』三省堂  3,410円

右端の『新明解国語辞典』は、私は青を使っていますが、「赤・白・青」から選べます。ですので、書棚に置いてフィットする色合いをチョイスできるんですね。辞書をファッションのように色違いでそろえるという発想にはやられた感がありますが、このことが奏功してか、「日本で一番売れている」といううたい文句が帯に記載されていました。

逆向きにして入れるとこんな感じになります。「あ・か・さ・た・な」と添えてあるのが『明鏡』『岩波』『三省堂』で、入っていないのが『例解』と『新明解』です。このあたりは、あったほうがよい人と、なくても問題ない方とに分かれるかと思います。

真ん中の『現代国語例解辞典』は、最後のところに見出しが黒く目立つ部分があるかと思いますが、これは付録の部分で、「助詞・助動詞解説」や「擬音語・擬態語集成」など、付録が充実しているのが『現代国語例解辞典』の特徴のひとつで、これがかなり役に立ちます。もちろん、ほかの辞書もそれぞれ付録がありますが、ここまで大胆にページ数を割いてはいません。

ケースから出して平置きしてみるとこんな感じになります。わかりづらいかもしれませんが、それぞれ透明のビニール製のカバーがかけられているものの、『岩波国語辞典』だけかけられていません。気をつけないと汚してしまいそうですが、『岩波国語辞典』はビニールカバーがないことによって圧倒的な高級感を感じます。手ざわりがとてもいいんですね。また、『岩波国語辞典』だけ横幅がわずなながら小さくなっていて、8ミリ前後の差ですが、これだけで持ったときにかなりコンパクトに感じます。

辞典ごとの特徴を解説します

それぞれの辞書の中身をご覧いただきたいと思います。辞書選びはパートナー選び、あるいは家庭教師選びのようなもので、当然、相性もありますし、目的に応じて使い分けるという考え方も重要だと思います。

サンキュータツオさんは、それぞれの辞書をキャラクター化させていましたが、私もならって、これらの辞書を「先生」にたとえたらどんな先生なのか、使ってみた印象から紹介してみたいと思います。ただ、これは個人によって感覚が違うかもしれません。あくまで私個人としての感想になりますので、その点はご了承ください。なお、ぱっと開いたページを掲載しているので、内容の比較ではなく見た目の比較としてお使いください。

『明鏡国語辞典(第三版)』大修館書店

二色刷りでフォントも工夫されていて、とっても見やすい辞書です。項目を分けて丁寧に解説してくれているので、「それを知りたかった!」というように、モヤモヤしていたことがすっきりすることも多いです。「意味を調べるため」に使いたいけれども、どれか一冊といわれたら、個人的にはこれをお薦めするかもしれません。広く一般向けにどなたにも使いやすい辞書なのではないかと思います。先生にたとえれば、いまひとつ理解できないで苦戦している生徒にとことんつきあってくれる熱血タイプの先生でしょうか。生徒が使っている言葉で語りかけてくれるので距離が非常に近く感じられます。

『岩波国語辞典(第八版)』岩波書店

「教養」や「知性」というワードに敏感で、「選ばれた人」になりたいと思っている方にお薦めです。辞典自体に品格があって、厳かな気持ちにさえなります。ただ、説明は少なめで、いかに端的に語るかに力を注がれているような印象を受けます。語源のような情報やなるほどと思わされる説明にうならされることも多く、国語好きな人にとっては必携ですが、特にそこまで興味がない場合は、クールすぎてそっけなく思われるかもしれません。先生にたとえると、偏差値が高い大学を出たけれど、大学教授ではなく高校の先生をやっているような、教えることより研究熱心な先生でしょうか。

『現代国語例解辞典(第五版)』小学館

この辞書は「例解」とあるように、意味を調べるだけでなく、どう書くのか、どう用いるかという場合に威力を発します。表記の例を示してくれていますので、国語の先生に人気が高いというのもうなずけます。前述した付録も充実していますし、学習者だけではなく教える立場の方の力強い味方です。ただ、辞書本来の使い方をしたい場合は、これ一冊ではなく複数持ちがよいかもしれません。この辞典を先生にたとえるなら、ライターとしての社会人経験を積んでから先生になったような、どういう場面で使われるのか、現場のニーズを熟知しているタイプの先生です。

『三省堂国語辞典(第八版)』三省堂

三省堂さんは、こちらの『三省堂国語辞典』と、後述する『新明解』と2種類の辞書を出されていて、どちらも長く愛されているのはすごいことだと思います。オレンジが印象的なこちらの辞書は、新しい語句に強く、時代の変化に敏感な辞書といえます。具体的な表記を示してくれていますし、言葉遣いも優しくて、「あなたの困り事を一緒に解決しましょう」という愛が伝わってきます。それに、ほかの辞書は無難に同じような説明を踏襲している部分がありますが、『三省堂国語辞典』は自力で積み上げたものを貫く心意気がかっこいいと思います。先生にたとえると、休日は外に出かけて情報収集に余念がない、バイタリティーあふれる先生です。

『新明解国語辞典(第八版)』三省堂

三省堂さんのもう一冊の辞書が、こちらの『新明解国語辞典』です。さきに触れたように色違いで用意されているのが特徴ですが、白と青は限定で赤がスタンダードのようです。三省堂さんから2冊ということは、それぞれの特徴を出さなければなりません。そのためなのか、かなり攻めた例文を多く用いていて、読み物としてもかなり面白いです。でも、厳格というほど基本に忠実な姿勢なので、安心して頼っていい辞書だと思います。先生のタイプとしては、生徒になんとか興味を持ってもらおうと、わざと大げさな切り口で驚かせるような教材研究に熱心な先生です。

どうして複数持ちがおすすめなのか

人生のパートナーは、浮気せずに一人とずっと寄り添っていくのが理想でしょうが、辞書の場合はビジネスパートナー選びのようなものです。つまり、それぞれの強みを理解して使い分けたほうがいいんですね。

試しに「出会う/出合う」を引いてみました。時代劇などで「者ども、であえ!」という場合に「出合え」なのか「出会え」なのかというと、『明鏡』と『岩波』は特に指定せずに「――」にしていて、表記については言及していません。一方で『例解』と『三省堂』は「出合え」にすると示してくれています。ところが、同じ三省堂の辞書でも『新明解』は「出会え」にしているんですね。

参考までに、表記辞典の立場からすれば、運命的なものとのであいは人であってもモノであっても「出会う」にし、あらかじめ決まっているものは「出合う」とするのが公用文やNHK、議事録表記の立場で、人には「出会う」、モノは「出合う」とするのが新聞表記の立場です。日本語の表記はかなりゆらぎもありますから、こんなところも使い分けのポイントになるのではないでしょうか。

これはほんの一例で、別の用語でしたらまた別の立場になるかもしれません。このように、辞書によって解釈が異なっていることがあるので、複数の辞書で比べてみるということも有効なんですね。

それぞれの辞書で強みがあって、割いているスペースも用語によってそれぞれです。たまたまこの見出しにしましたが、もっといい見出しがあったかもしれません。あしからずご容赦ください。特に『新明解』さんは、ちょうど改ページになってしまい、見づらくて申し訳ありません。

最後に(紙の辞書は必要なの?)

ここまで、「国語辞典の選び方」について、私がふだん使っているパートナーたちをご紹介しました。

ほかにも漢和辞典や類義語辞典、カタカナ辞典や表現辞典まで、たくさんの辞書が出版されています。みんな取りそろえたくなりますが、辞書にばかりお金をかけるわけにもいきませんので、できるだけ最初からいいパートナーにめぐりあいたいですよね。

電子版の辞書がたくさん登場していますし、私自身もアプリも使っていますが、紙の辞書のいい点は開いたままにできるということだと思っています。アプリだと閉じないと別の操作ができませんが、物理的に開いたままにできるというのはかなり便利で、あとで確認したり、複数の辞書を見比べたり、付箋を何枚貼っておいても五十音順ですからめちゃくちゃなことにはなりません。

それに、画面の情報と紙に落としたものとでは、使う脳の部位が違うのかもしれないと感じることがあります。よく確認したつもりでも、プリントアウトして見直してみると小さな誤りや文脈の不整合に気づいたりすることがあるためです。ですから、当分は紙の辞書もまだまだ使われていくのではないかなと思いますし、そうであってほしいなと思います。

補足ですが、辞書に用いられている紙は非常に薄くデリケートなので、付箋を使う場合は粘着力の弱いものや接着面積が小さいものにするか、もしくは「しおり」を用いたほうがよさそうです。私はこれで悲しい失敗をしたことがありますので、くれぐれもご注意くださいね。

最後まで読んでくださってありがとうございました!