はじめに
新聞やテレビでニュースを見ていると、「昨夜午前3時ごろ」や、「11時25分ごろ」というように「ごろ」がひらがなになっていますよね。どうして「3時頃」にしないのか疑問に思ったことはないでしょうか。かといって、みんなひらがなにするわけではなくて、「年頃」や「子どもの頃」などは漢字にしてあります。
そこで今回は、どのような場合に漢字にして、どのような場合にひらがなにするのか、そのあたりを探っていきたいと思います。ただし、公用文は特に使い分けない立場ですので、そのことは念頭に置いていただければと思います。詳細は記事内で触れますね。
「頃(ころ)」と「ごろ」の使い分けについて
まず、「頃(ころ)」と「ごろ」の違いを考えてみましょう。下の文章を一読してみてください。
・桜が咲く頃、決まって出かける場所があります。
(桜が咲く時期)
・5月ごろに種をまけば、夏には立派に実ります。
(5月ぐらいに)
お気づきのように、「桜が咲く頃」というのは「桜が咲く時期」という意味なのに対し、「5月ごろ」というのは「5月ぐらいに」という意味ですね。
このように、「時期」や「時分」そのものの意味なら「頃」にして、「○○ぐらい」という場合にはひらがなにするんですね。「○○ぐらい」というときには、必ず「○○」に入る具体的な日時や時期を示す語と一緒に用います。前者は「ころ」と読み、後者は「ごろ」と濁ります。
次の文章も確認してみましょう。
・この頃、私はちょうど小学生でした。
(この時分)
・このごろ体の調子がよくないんです。
(最近)
「この頃」というと、特定の時期や時分のことを指していますが、「このごろ」というと「最近」という意味になっています。このような場合もひらがなにしてください。
「ころ」は「頃」で「ごろ」はひらがな?
そうすると、主に「ころ」というのは漢字で書いて、「ごろ」と濁ればひらがなにするということになりそうですね。
(漢字で書く「頃(ころ)」の例)
・若い頃
・学生の頃
・子どもの頃
・木々が色づく頃
・役場に勤めていた頃
・結婚したばかりの頃
・インターネットがなかった頃
(ひらがなで書く「ごろ」の例)
・春ごろ
・秋ごろ
・1月ごろ
・12時34分ごろ
・午後5時7分ごろ
・1946年ごろ
・9月4日ごろ
「頃」の複合語は「ごろ」でも漢字で書きます
でも、「ごろ」濁るものはみんなひらがなにするかというと、そうではありません。ほかの語とくっついて複合語になる場合は漢字を用います。
・日頃:(日頃よりお世話になっております。)
・見頃:(ちょうど桜が見頃を迎えました。)
・年頃:(息子が年頃になって鏡ばかり見ている。)
・食べ頃:(頂き物のメロンがちょうど食べ頃だ。)
・頃合い:(頃合いを見計らって打ち明けよう。)
公用文は分けずにみんな「頃」にします
このように、名詞的な用法は「頃」を用い、接尾語的に用いる場合は「ごろ」にするのは新聞表記やNHK表記で、公用文は区別するように示していません。ですから、公用文の表記の立場をとる方は、特にこだわらず「1時頃」や「2000年頃」として大丈夫なんですね。
ただし、そうすると「このごろ」なのか「この頃(このころ)」なのか判断がつかなくなってしまいますが、文脈で判断ということでしょうか。
このように、立場によって表記が異なることが多いので、どちらかに統一できないものかともやもやしますが、それだけ選択肢が多いということで前向きに捉えることにいたしましょう。
「前身頃」を知らない?
「前身頃」や「後ろ身頃」というのはご存じでしょうか。衣服のうち、袖や襟などの部分を除いて、胴体の前の部分を「前身頃」、背中側を「後ろ身頃」といいます。
「身頃」というのは、「身衣(みごろも)」が本来だったようですが、なぜか「衣」に「頃」があてられたようです。時間に全く関係ありませんが、「身頃」は特別扱いしてくださいね。
◇
アパレル関連のお仕事をされていたり、趣味でお裁縫をされる方は「身頃」は当たり前のように使っていることと思いますが、「前身頃」や「後ろ身頃」を知らない人が増えているのは学校で履修する家庭科の内容と密接な関係があるようです。
大きく変わったのは、平成6年の学習指導要領の改訂で家庭科が男女共修になったことでしょうか。共修ではなかった時代には、男子は木工や電気など、女子は調理や裁縫などというように分かれて学習していたんですね。
男子も女子も一緒に学ぶようになったことで「技術家庭科」の範囲が広く浅くなり、お裁縫も縫い方の基本や簡単な小物の製作にとどまって、パジャマやスカートを縫わなくなりました。ですので「身頃」を知らないのも当然ですね。
自分で身に着けるものを自分で作るというのは、時間もお金もたくさんかかってしまい、今の時代には逆にぜいたくなことなのかもしれません。それでも、ボタン付けぐらいはできたほうがよさそうですね。
まとめ
・特定の時期や時分のことを指す場合は「頃」を用いる。
・範囲を大まかに指す「ぐらい」の意味なら「ごろ」にする。
・「ごろ」は主に具体的な時期を示す語とともに用いる。
・複合語の場合は「ごろ」と濁るものでも「頃」にする。
・公用文の場合はひらがなを用いず漢字にする。
今回は「頃(ころ/ごろ)」の使い分けについてまとめてみました。「ごろ」と濁る場合はひらがなを用いるけれども、複合語の場合は「ごろ」でも漢字にすると覚えておけばよさそうですね。
最後までお読みいただきありがとうございました!