はじめに
「切」というのはとても身近な語で、「髪を切る」「縁を切る」「木を切る」など、いろいろなものを切る場合に用いますし、「切れ味」を確かめたり「切り株」に腰掛けたりもします。
少し迷うのは「きり」という場合です。複合語のうち、「打ち切り」や「読み切り」などは漢字で「切り」と書きますが、「寝たきり」や「着たきり」はひらがなを用いますよね。これってどういう違いなのか疑問に思ったことはないでしょうか。
特に迷うのが「食べ切りサイズ」と「食べきれないほど」のような場合で、同じ言い方でも意味によって使い分ける必要があるんですよね。
今回は、そのあたりをはっきりさせるために、「切り」と「きり」の使い分けについてまとめてみたいと思います。関連して「ピンからキリまで」の語源も調べてみましたので、最後までおつきあいいただけたら幸いです。
「切り」と漢字にする場合① 切れ目や区切り
まずは、名詞の「切り」に着目してみると、「切り」というのは、物事が終わりになる切れ目や区切りのことをいいます。
・仕事に切りがついた
・切りがいいところで休もう。
・欲を言えば切りがない。
「切り」と漢字にする場合② 複合語や慣用句
また、「切り」には複合語や慣用句もたくさんあって、「切り口」や「切り抜き」のほかに「打ち切り」や「読み切り」などと用いますし、「とかげのしっぽ切り」というのもあります。
・切り抜き
・切り口
・切り捨て
・打ち切り
・読み切り
・とかげのしっぽ切り
「きり」とひらがなにする場合①「っきり」の形で用いるもの
一方で、「きり」とひらがなにする場合ですが、「っきり」の形で用いる場合はひらがなにします。
・まるっきり違っていた。
・ひっきりなしに通る
・まるっきり違っていた。
・これっきりにしてください。
「きり」とひらがなにする場合②「…だけ」の意味のもの
また、「きり」は、範囲を限定し、それ以上に及ばないことを表すことがあります。「…だけ」の意味の場合ですね。この意味で用いるときも「きり」とひらがなにします。
・2人きりで話したい。
(2人だけで話したい。)
・あの人には一度会ったきりです。
(あの人には一度会っただけです。)
・1回きりのチャンスなんだよ。
(1回だけのチャンスなんだよ。)
「きり」とひらがなにする場合③「ずっと…のまま」の意味のもの
「きり」には、「ずっと…のまま」の意味で用いることがあって、この場合も「きり」とひらがなにします。
・着替えがないので着たきりで生活している。
(着替えがないのでずっと着たままで生活している。)
・付きっきりで母を看病しています。
(ずっと付いたままで母を看病しています。)
・とうとう祖父は寝たきりになってしまった。
(とうとう祖父はずっと寝たままになってしまった。)
・息子は外国に行ったきり帰ってきません。
(息子は外国にずっと行ったまま帰ってきません。)
「切り」と「きり」の両方あるもの/「完遂」と「限界」
ただ、同じ言い方でも「切り」と「きり」の両方を意味によって使い分けることがあるんですね。冒頭で触れた「食べ切りサイズ」と「食べきれない」のような場合です。
どういうことかというと、「きり」には「切」と「限」の意味があって、「切」の意味、つまり「終わりまで」という意味なら漢字にします。
・やり切ってみせる。
(やり遂げてみせる。)
・食べ切るなんてすごい。
(完食するなんてすごい。)
・思い切ってやってみよう。
(決心してやってみよう。)
・書き切るまで寝ないつもりです。
(書き終えるまで寝ないつもりです。)
一方で「限」の意味、つまり「限りがある」という意味なら「きり」にするんですね。
・やりきれない。
(がまんできない。)
・食べきれないほどの料理が並ぶ。
(食べようがないほどの料理が並ぶ。)
・彼がやったとは思いきれない自分がいる。
(彼がやったと完全に思うことができない自分がいる。)
・書きたいことがありすぎて書ききれない。
(書きたいことがありすぎて全部書くことができない。)
「ピンからキリまで」の「ピン/キリ」の語源は?
最後に「キリ」つながりで、「ピンからキリまで」はどんな意味で、どう表記すればいいかに触れてみたいと思います。
「ピンからキリまで」というのは「最上のものから最低のものまで」という意味ですよね。では、どうして「ピン」と「キリ」なんでしょうか。
調べてみたところ、「ピン」はポルトガル語のpintaの略で「点」という意味だそうです。そこから転じてサイコロの「1」の目を「ピン」と呼ぶそうなんですね。
「キリ」については語源がはっきりしていなくて、クルス(=クロス)の十字形から「10」の意味になって、「1から10まで」を「ピンからキリまで」と言ったという説と、「キリ」は「切りがない」の「切り」だという説もあって、一定していません。
いずれにしても「ピン」は外来語ですから、それとの整合から「キリ」もカタカナにしたほうがよいのではないかと思います。ですので「ピンからキリまで」と書いてくださいね。もちろん「ピン」が最低で「キリ」が最高という意味として用います。
・テレビ番組といってもピンからキリまである。
・出展されていた作品はピンキリだったよ。
まとめ
・物事の切れ目や区切りは「切り」にします。
・複合語や慣用句の場合も「切り」にします。
・「っきり」の形で用いるものはひらがなにします。
・「…だけ」の意味のものひらがなにします。
・「…きれない」は基本的にひらがなにします。
今回は「切り」と「きり」の使い分けについてまとめてみました。最後まで読んでくださってありがとうございました!