解説!「とる」の表記/「態度をとる」「立場をとる」「アンケートをとる」

もう迷わない 漢字のチョイス

はじめに

「とる」という言い方は日常の中でとても多く用いられる語ですが、どの漢字にすればいいのか迷うこともまた多いのではないでしょうか。それに、書き手の解釈によって表記がまちまちなことも多い漢字です。

「とる」といっても「取る/採る/捕る/執る/撮る/摂る/穫る/獲る/盗る/録る」などとてもたくさんの漢字があります。ただ、常用漢字表の中にあるもの、つまり、通常の文章中で「とる」と読む漢字として用いていいものは限られているんですね。

そこで今回は、国語辞典や表記辞書の扱いをもとに、「とる」と読む漢字の意味と、どのように用いればいいのか調べてみることにしました。

常用漢字表に示されている「とる」の漢字

「とる」と書けそうな漢字には「取る/採る/捕る/執る/撮る/摂る/獲る/穫る/盗る/録る」がありますが、このうち常用漢字表の中で「とる」の読みが示されているのは「取る/採る/捕る/執る/撮る」だけです。

(漢字で書けるもの)
取る
採る
捕る
執る
撮る

(漢字で書けないもの)
獲る
穫る
盗る
摂る
録る

漢字で書けるものはいいですが、書けないものはどうするかというと、基本的にはひらがなにするか、もしくは「取る」などほかの漢字で代用することになります。

では、具体的にそれぞれどのような場合にどの漢字を当てはめればいいのか確認していくことにしましょう。

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「取る」を用いるもの

「取る」は一般用語として広く用いられていますし、前述した代用漢字として選ばれることの多い漢字です。意味も非常に多岐にわたっているので用いることが最も多い漢字ではあるものの、「取得」と「除去」という正反対の意味を持っていたりしますし、扱いづらい面もあります。

具体的に見ていくことにしましょう。

(取得する)
野菜を取る
手に取る
資格を取る
弟子を取る
時間を取る
年を取る
満点を取る
休みを取る
予約を取る
許可を取る
手玉に取る

(除去する)
汚れを取る
痛みを取る
疲れを取る
異物を取る
腫瘍を取る
取り除く

(動きをする)
連絡を取る
メモを取る
ノートを取る
手続きを取る
責任を取る
相撲を取る
機嫌を取る
拍子を取る
バランスを取る
後れを取る

「態度」や「立場」は「とる」にしましょう

「態度をとる」や「立場をとる」というときには、「取る」と書かずに「とる」としたほうがいいんですね。なぜなら「態度を執る」や「立場を執る」になることもあるためです。詳しくは「執る」の段で触れますね。

また、もともと「取」の漢字の意味は「手中に収める」という意味ですので、「動きをする」という意味の「とる」は「取る」がなじまないと感じるかもしれません。そんな場合は、例えば「バランスをとる」や「後れをとる」などとひらがなを用いてみてください。

「採る」を用いるもの

「採る」というのは「必要なものを選びとる」という意味です。当然、必要ではないものは採りません。「採決」というのは、議案などを採用するかしないかを決めることで、否決されればその案は採用されないことになります。

山菜やキノコは「取る」ではなくて「採る」にします。なぜなら、山に生えているものをみんな収穫するのではなく、必要なものを選んで採るためです。食べられないものや必要ないものは生えていても採りません。一方、畑に植えた野菜だったら、そもそも収穫するために植えたわけですから「取る」になるんですね。

採血も、血液の必要な量だけをとるので「血を採る」にします。「標本」も、自然界の一部分のものを抽出して保存しておくので「採る」が用いられます。

(「採る」にするもの)
・山菜を採る
・キノコを採る
・木の実を採る
・血液を採る
・決を採る
・標本を採る
・サンプルを採る
・指紋を採る
・A案を採る

「採る」を使う際の注意点

例えば、「措置をとる」という場合に、「措置をする」なのか「その措置を採用する」ということなのか明確でないことがあります。そのような場合には意味を限定せずに「措置をとる」とすることがあります。

自分で書く文章であれば問題ありませんが、例えば議事録や講演録のような場合には、勝手な解釈をしないためにひらがなを用いる工夫も必要になります。

「捕る」を用いるもの

「捕る」というのは、「取る」のうち「捕獲」の意味のみに用います。「つかまえる」ということですね。野球の捕球とはボールをしっかりとつかむことですので、キャッチする意味なら「捕る」にします。

ほかにはネズミを捕ったりクマを生け捕りにしたりします。虫の場合、駆除するなら「取る」ですが、つかまえるなら「捕る」になります。

難しいのが魚の場合です。魚のつかみどりや、海に潜ってつかまえてくるなら「捕る」ですが、漁に出て網で一挙にとるなら「獲る」になります。ただ、「獲る」は常用漢字表では「とる」と読ませていませんので、代用字としての「取る」にするか、もしくはひらがなで「とる」にします。

・ボールを捕る
・ネズミを捕る
・虫を捕る(※)
・魚を捕る(※)
・生け捕る
・召し捕る
・捕り物
 など

「執る」を用いるもの

「執る」は、「執行」という語があるように「任務として事にあたる」という意味と、「執筆」などに代表されるように「手に取って扱う」という意味があります。

(任務として事にあたる)
・式を執り行う
・事務を執る
・教鞭(きょうべん)を執る
・指揮を執る

(手に取って扱う)
・筆を執る
・外科医がメスを執る
・指揮者がタクトを執る

「態度」や「立場」を「とる」にする理由

前段で触れた「態度」や「立場」を「とる」場合ですが、「執」は「執着」や「執心」の熟語にあるとおり、「しっかりと心を保つ」という意味があって、『大辞林』では「毅然たる態度を執る」を例文として示しています。ですから、強い気持ちの場合には「執る」になるんですね。

・毅然たる態度を執る
・不退転の立場を執る

しかし、どんな気持ちなのか一般的な文章では明確にしないことが多いですよね。そのため、「取る」と「執る」の両方の意味を含むものとして「とる」が望ましいことになります。もちろん、強い気持ちを強調したい場合には「執る」にしてください。

・態度をとる
・立場をとる

「撮る」を用いるもの

「撮る」は「撮影」の「撮」ですから、使い方で迷うことはないと思います。日常的に写真を撮ったり動画を撮ったりしますのでね。

・写真を撮る
・動画を撮る
・映画を撮る
・隠し撮りはいけません

ただ、悩ましいのは「撮」は「とる」とは読んでも「うつす」とは読ませていないんですね。

(常用漢字表より)
撮  |サツ  |撮影
   |とる  |撮る

そのため、撮影するという意味の「うつす」は「写す」を用いるように示されていますが、どうも「動画を写す」という表現はしっくりしません。かといって「映す」は投影することですから意味が異なってしまいます。ですので、「撮す」は「写す」と書くか、違和感があれば「うつす」とひらがなにします。もちろん、常用漢字表に縛られたくない場合は「撮す」と書いても問題ないと思いますし、さらにルビを添えれば完璧です。

これは、時代の変化に漢字の読みの指定が追いついていないためだと思いますので、次の常用漢字表の改訂では「撮す」と書いて「うつす」と読んでよいことになるのではないかと思っていますし、また、そうであってほしいと願います。

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「摂る/穫る/獲る/盗る/録る」の扱いについて

残るは、常用漢字表で「とる」という読みを示していない「摂る/穫る/獲る/盗る/録る」の扱いについてです。これらは基本的に「とる」にしますが、違和感がなければ「取る」を用いても大丈夫です。

それぞれ、具体的に意味を確認していきましょう。

「摂る」は「とる」にします

「摂る」というのは摂取することですね。人体に必要な栄養を体内に取り入れる意味に限定して用います。「とる」とひらがながよいと思いますが、「取る」にすることもできます。

・食事をとる
・栄養をとる
・滋養のいい食べ物をとる
・サプリメントでビタミンをとる
・カルシウムがとれる食品

「穫る/獲る」は「取る」にします

米や麦は「収穫」するもの、つまり「穫る」ものですが、「穫る」は「取る」で代用します。

魚の場合も「獲る」に当てはまる場合は「取る」にします。魚をつかみとるときには「捕る」ですが、漁に出て捕獲してくる場合には「取る」を用いるんですね。どうしても「取る」にしたくない、似つかわしくないと感じるときは、「とる」とひらがなにしてください。

・米を取る(収穫)
・魚を取る(漁獲)

「盗る」は「取る」または「とる」にします

「盗る」というのは人のものを盗むことですね。ただし、「盗」は「とう」とは読むものの、「ぬすむ」の読みは示されていません。そのため「取る」で代用するか、「とる」とひらがなにしてください。通常は「取る」が用いられます。

・人のものを取ってはいけません。
・財布を取られてしまった。

「録る」は「とる」にします

録音したり録画したいるすることはとても多いかと思いますが、この場合のとるは「とる」とひらがなにするか「取る」で代用します。「とる」にしたほうが違和感がありませんが、どちらでも大丈夫です。

・音声をとる
・ビデオにとる
・会話の内容をとっておく。

「アンケートをとる」はどう書けばいいのか

「アンケート」というのは、それ自体が「質問」や「調査」という意味ですので、「アンケートをとる」というのは、言い換えれば「アンケートを実施する」という意味になります。そうすると「取る」が意味としては近いかもしれませんが、どうもしっくりしません。

「アンケートを採る」というと、必要なものだけ採用するという意味になってしまい、調査の在り方が問われてしまいます。ですから、誤解が生じないように「アンケートを採る」は用いないほうがいいですね。

辞書の用例をくまなく探してみましたが、「取る」の用例にアンケートの用例は見当たらなかったものの、「アンケート」の見出しではほとんど「アンケートをとる」とひらがなになっていましたので、「アンケートをとる」がよいのではないでしょうか。

・アンケートをとる

「データをとる」はどう書けばいいのか

「データ」とは、客観的な事実としての数値や情報のことですよね。「データをとる」というのは、言い換えれば「データを集めて記録する」ことです。「集める」なら「取る」ですし、記録するなら「録る」ですが、「録る」とは書けませんので「とる」になります。

したがって「データをとる」は「データを取る」もしくは「データをとる」とするのがよさそうですね。

・データをとる(データを取る)

まとめ

・「取る」は広く一般用語として用います。
・「採る」は必要なものを取り入れるという意味で用います。
・「捕る」はつかまえる、捕球する場合に用います。
・「執る」は仕事として実行する場合や手に取って扱う意味で用います。
・「撮る」は撮影して記録として残すことです。
・「摂る/獲る/盗る/録る」は、「とる」か「取る」を用います。
・「態度」や「立場」は「とる」にするのが望ましいと考えられます。
・「アンケート」は「とる」にするのが望ましいと考えられます。
・「データ」は「データを取る」か「データをとる」にします。

今回は「とる」の表記についてまとめてみました。こうしてまとめてみても、「とる」というのは本当に守備範囲が広くて、使い方が難しい漢字のひとつです。

そんなときに活躍するのがひらがなです。「迷ったらひらがな」というのは悪い選択ではありません。上手にひらがなも取り入れながら納得のいく表記を選んでみてくださいね。
最後まで読んでいただきありがとうございました!