「遅れる」と「後れる」の違いを理解しておきましょう
「おくれる」の漢字表記には「遅れる」と「後れる」がありますが、ここでは、その使い分けについて確認しておきたいと思います。
「遅れる」:一定の時間や時期に間に合わないこと 基準や想定より遅いこと
・学校に遅れないようにしなさい
・商品開発が予定より大幅に遅れている
・会議が10分遅れて始まった
・例年より桜の開花が遅れているようだ
・工事の進捗が遅れています
「後れる」:ほかのものよりあとになること 先行しているものより後ろであること
・勉強で彼に後れをとってしまった
・気後れするので会いたくない
・どうせ僕は時代に後れた老いぼれだ。
・彼女の後れ毛までも魅力的だ
・妻に死に後れてしまった。 (※「死に後れる」は先立たれること)

「後れ毛」や「気後れ」「死に後れる」などの特定の言い回しを覚えておけばよさそうだね。
「後れる」の使い方には注意が必要です
「遅れる」は一般的な表記で、広く用いられています。一方、「後れる」は限定的で、「気後れ」や「後れ毛」などの慣用表現に多く用いられます。似て非なるこの表現、「後れる」の使い方には注意が必要なんですね。なぜなら、「後れる」は「ほかよりもあとになる」という意味であることから、「劣る」というニュアンスが含まれてしまうためです。
例えば、「発育が後れている」と表記すると、それは「ほかのお子さんよりの発育よりもあとになっています」という意味になってしまいますから、「発育がゆっくりです」という意味であれば「発育のおくれ」とひらがながいいですね。
「A社に後れをとってしまった」などと自分のことを述べるのであれば、自覚していることの表明ですから「後れる」で大丈夫です。でも、他人のことや他国のことの場合は慎重に用いなければなりません。実際に、かつては「後進国」という表現をしていたことがありましたが、今では「発展途上国」と表現していますよね。

書いて表すものには、まず、配慮が下敷きにあるのね。
使い分けのコツをつかみましょう
「遅れる」と「後れる」の使い分けですが、一般的にはほぼ「遅れる」で問題ありません。学校にも、会社にも、電車にも、納期にも、デートの待ち合わせにも、みんな「遅れる」ですから、「遅れる」でかなりカバーできます。
「時代の波に乗り遅れる」は、意味としては「時代に後れる」ことですが、「乗ることにおくれる」という複合語ですから「乗り遅れる」になります。
「手遅れ」か「手後れ」という問題については解釈の違いがあって断定はできないところです。表記辞書にも違いがあって、NHKは「手遅れ」を主たる表記にしていていますが、議事録表記では「手後れ」にしています。判断に迷ったら「手おくれ」とひらがなにして大丈夫です。

意味によって使い分けることを意識しないといけないのね。
ミニミニクイズに挑戦
下の文章は「遅れる」でしょうか。「後れる」でしょうか。考えてみてください。
・田舎出身だからっておくれてると思うなよ。 (後)
・待ち合わせにおくれたらフラれちゃった。 (遅)
・締め切り日をおくらせてもらえて助かりました。 (遅)
・ヘマをしたせいで出世がおくれた。 (後)
・遅刻したのは時計がおくれていたためです。 (遅)
いかがでしたでしょうか。「遅れる」「後れる」は日常的に使用する言葉です。いったん覚えれば、あとはもう迷わないと思いますので、納得しておくことが大事ですね。
「後塵を拝する」ってどんな意味?
「後(あと)」という意味と「後れる」という意味を掛け合わせたおもしろい表現があります。それが「後塵を拝する」という慣用句です。
「後塵」というのは馬や牛が駆け抜けたあとの土ぼこりのことなんですね。馬に乗ったライバルが先に駆け抜けていったのでしょう。その土ぼこりを拝ませてもらうということですから、「後れをとってしまった」という意味なんです。「しまった。先を越された」という感じでしょうか。自虐的でセンスのいい言い回しだと思います。機会があったらぜひ使ってみてくださいね。

「後塵を拝する」ってかっこいいね。「先陣を切る」ほうがもっといいのかな。