はじめに
「先」というのは「あとさき」の「先」で、「先ほど」や「先頃」などと用いますが、「さき」はひらがなにしなければならないことがあるんですね。
「先に行ってください」「先にやってしまいましょう」というときは「先に」でいいのですが、「先日」や「以前」という意味であれば、「さきにお伝えしたように」や「さきの会議で協議したところ」などとひらがなにします。
(先に)
・先に行ってください。
・先にやってしまいましょう。
(さきに)
・さきにお伝えしたように…
・さきの会議で協議したところ…
でも、どうしてひらがなにするのか不思議ですよね。今回はその謎についてまとめてみたいと思います。
「先」には「未来」と「過去」の両方の意味がある
先というのは、一般的には「未来のこと」や「先頭のこと」を示します。
・先が見えてきた。
・先行きが心配だ。
・先払いでお願いします。
・先に立つ人が必要だ。
それなら、過去のことには使えないのかというと、そうでもなくて、「先ほど」や「先頃」「先日」などと過去の意味でも用います。
・先ほど説明したように…
・先頃、このような事案が発生しました。
・先日お知らせしましたが…
それなのに、どうして「さきに」や「さきの」はひらがなにするのでしょうか。
「以前」の意味なら「さき」にする理由
「さき」という表現は日常会話の中ではあまり出てこないかもしれませんが、会議などでは頻出します。
・さきの説明会で出された意見を集約しました。
・協議の趣旨はさきにご案内のとおりです。
・詳しくは、さきに送付しました資料をご覧ください。
これらの「さき」は「過日」とか「以前」という意味になりますが、このような場合に限って「さきに」とひらがなにします。どうしてひらがななのかというと、漢字で書くと「前(さき)」あるいは「嚢(さき)」になるためです。
「前」と書いて「さき」と読ませることもできますが、常用漢字表では「前」は「まえ」と「ゼン」という読みしかありません。そのため、漢字で「さき」と書きます。
ただ、「さきの国会」や「さきに開催した説明会」などの「さき」は単なる前ということではなくて、「過日/以前」という意味ですから、漢字としては「嚢(さき)」が近いといえます。
「嚢」とは「間に日数を挟んでいること」
「嚢」を「さき」と読むなんて学校では習いませんでしたが、それもそのはず、「嚢」は常用漢字表にはありません。逆にいえば、常用漢字ではないために「さき」とひらがなにするというわけです。
漢和辞典を開くと、「嚢」の字は「間に日数を挟んでいること」とあります。何日か挟んでいるので、現在からすれば「さき」は「以前」の意味になります。
「嚢」というと、大雨のときに積む「土嚢(どのう)」や、体にできる「嚢胞(のうほう)」を思い浮かべるかもしれませんが、このように「嚢」は何かを詰め込む袋のことです。
「嚢」単体であれば、いわば日にちを間に詰め込んでいることになります。そのため、「以前」や「先日」という意味の場合には「さきに」や「さきの」とひらがなにするんですね。
・さきの国会の議決が確定して法律となる。
・さきにご案内しておりました施設がこちらです。
・資料として、さきに実施したアンケート結果を配付します。
このように用います。ですから、「前に」や「前の」と言い換えられる場合や、日にちがたっている場合にはひらがなにします。「先の国会」とすると、これから開催される国会のことになってしまいますので、そのこところを気に留めてみてくださいね。
まとめ
「嚢に」という意味の「さきに」は、議事録を作成している方にとっては身近な表現だと思いますが、日常生活においてはあまり出番がないかもしれません。でも、「以前」という意味の「さき」はひらがなにすると覚えておけば社会人としてやっていくにも何かと便利ですので、これを機にぜひ使ってみてくださいね。
最後まで読んでいただきありがとうございました!