はじめに
「はかる」というときに、「計る・測る・量る・図る・諮る・謀る」のどの漢字を使えばよいのか迷ったことはないでしょうか。計測というくらいですから「計る」でも「測る」でもどちらでもよさそうですが、身長は「計る」なのか「測る」なのか、体重は重さだから「量る」にしたほうがいいのかなど、簡単なようで迷いがちです。
また、「計り知れない」はよく使いますが、この場合は「計る」なのに、「真意を測る」は「測る」ですし、「推し量る」は「量る」になるなど、「はかる」の表記はやっかいです。それに、国語辞典や表記辞書によっても扱いが異なっていたりするので、かなり手を焼くのが「はかる」の表記です。
とはいえ、ある程度の使い分けを念頭に置かないと不自由ですよね。そこで今回は、「計る・測る・量る・図る・諮る・謀る」の使い方についてのポイントをまとめてみました。前半部分はそれぞれ特徴的な意味と用例を示し、後半では迷いがちなものを取り出してまとめていますので、最後までお目通しいただけたら幸いです。
「計る」とは?
「計る」は数量や時間を調べる場合に用います。「時間」が関連しているときは「計る」にすると思っていれば大丈夫です。「タイミングを見計らう」というように、時機を見きわめるという意味でも用いますが、これもある意味では「時」に関係した言い方ですね。
(時間を計る)
・時間を計る
・タイムを計る
・ストップウォッチで計る
・砂時計で計る
(時機を見計らう)
・時機を計って実行しよう。
・いい頃合いを計ってください。
・タイミングを見計らっているところだ。
・計ったように朝6時に目が覚める。
「測る」とは?
「測る」は測定する場合に用います。長さ、高さ、距離、大きさ、深さ、速さをなどを、実際に何らかの測定する器具を用いて測定するイメージですね。ただし、重さは含まれないことに注意してください。
・距離を測る
・面積を測る
・水深を測る
・高さを測る
・身長を測る
・体温を測る
・標高を測る
・血圧を測る
・速度を測る
など
「量る」とは?
「量る」は重さや容積に用います。測定するために「はかり」を用いるイメージでしょうか。また、はかりにはかけられなくても、容積であれば「量る」にします。
ちなみに、重さを量る器具の「はかり」は、漢字で書けば「秤」ですが、これは常用漢字表にない表外字であるため、「はかり」とひらがなにするのが一般的です。
・目方を量る
・体重を量る
・重量を量る
・升で量る
・薬品を量る
・計量カップで量る
・プールの容積を量る
・量り売り
など
「図る」とは?
「図る」は、うまくいくように考えて実行すること、とりはからうことの意味で用います。物ではなく行動に対して用いるので区別しやすいのではないかと思います。「図らずも」というのは「思いもよらず」という意味です。
・便宜を図る
・解決を図る
・身の安全を図る
・親睦を図る
・合理化を図る
・実現を図る
・再起を図る
・図らずもうまくいった。
「諮る」とは?
「諮る」は意見を求めて相談することです。自分たちだけでは判断しかねることについて、審議会に諮ったり議会に諮ったりします。会議などでは「皆さんにお諮りしたいと思います」などとよく用いますよね。
ただし、あくまで相談であって、決定権を委ねるわけではありません。そのため、どちらかといえば下の立場の人の意見を求めるというニュアンスになりますので、「上司に諮ってみたいと思います」などは使えませんので注意してください。
・議会に諮る
・審議会に諮る
・役員会に諮る
・出席者に賛否を諮る
・総会に諮ったが否決された。
「謀る」とは?
「謀る」とは、悪いことをしようとたくらんだり策略をめぐらすことです。悪事に限って用いる点に注意してください。
・暗殺を謀る
・悪事を謀る
・逃亡を謀る
・まんまと謀られた
・さては謀ったな。
ここまで、特徴的な意味について述べてきました。次からいよいよ迷いがちなものを取り出して説明してみたいと思いますので、もう少し頑張って読んでみてくださいね。
迷いがちな表記/おしはかる「計る」「測る」「量る」
「計る」「測る」「量る」の使い分けで迷うのは「おしはかる」の意味の「はかる」ではないでしょうか。これらの違いは大枠で捉えるなら次のように分けられます。
計る:推計/計算することによって推計すること 【計算】
測る:推測/知り得た情報によって推測すること 【予測】
量る:推量/事情や心中を想像すること。当て推量【想像】
漢字の意味としてはそれぞれこのようになります。
例えば、「被害の大きさは計れない」というときには、計算できないほど大きいという意味なので「計る」ですし、「真意を測りかねる」というのは、知らない人ではないけれど、本当の気持ちはわからないという意味なので「測る」にします。また、「相手の立場を推し量る」というのは、自分が想像してみることなので「量る」です。
つまり、具体的な数字を用いて計算できるかどうかなら「計る」、推測するための手がかりがあるなら「測る」、まったく想像するしかない場合には「量る」になります。
(計る:計算する)
・被害の大きさは計れない。
・事故のダメージは計り知れない。
・国の行く末を計る。
・会社の利益を計る
(測る:予測する)
・真意を測りかねる
・実力の程を測ろう。
・進歩の度合いを測る
・政治的動向を測る
(量る:想像する)
・彼の気持ちを推し量る。
・相手の立場を推し量ろう。
・子育ての苦労は独身の私には量れない。
・あなたの幼少期のことは私には量れません。
ただし、厳密に使い分けることは困難ですので、「計り知れない」は「計る」、「推し量る」は「量る」を用いることだけ念頭に置いて、紛らわしい場合は「測る」にするか、判断が難しい場合は「はかる」とひらがなも選択肢に入れてみてください。
特に「量る」は「推し量る」以外はあまり積極的に用いられていません。それだけ使い方が難しい表記だということですね。文脈によってどれを用いるかは異なりますので、これが正解ということはありません。ご自分の語感に合った表記を選んでみてくださいね。
(慣用的な表現)
・計り知れない
・推し量る
迷いがちな表記/身長と体重を一緒にはかるときは?
身長は「測る」で、体重は「量る」にすると書きましたが、身体測定などでどちらも一緒にはかる場合はどうすればいいでしょうか。新聞表記などでは「測る」にしますが、議事録表記では「はかる」とひらがなを採用しています。ですから、「測る」か「はかる」のどちらか好きなほうを選んでください。
迷いがちな表記/悪事ではないくわだては?
「謀る」は悪事をたくらむことですが、実は「計る」にも「だます」の意味があります。ただ、「計る」は悪事ではなく、どちらかというと「計らい」のようなイメージです。
わざと2人きりにさせられたとか、サプライズを仕掛けられたとか、犯罪とは程遠い場合には「計る」を用います。「やられた!」というような感じですね。一方で「謀る」は悪事や悪だくみに限定して用います。
・友達に計られて彼女と2人きりになった。
・まんまと計られて一発芸をすることになった。
・詐欺集団に謀られてお金を振り込んでしまった。
・アリバイ工作か。さては謀ったな。
まとめ
・「計る」は数量や時間を調べる場合に用いる。
・「測る」は測定器具で測定する場合に用いる。
・「量る」は重さや容積をはかる場合に用いる。
・「図る」は、うまくいくように考えて実行することである。
・「諮る」は意見を求めて相談することである。
・「謀る」とは、悪いことをしようとたくらむことである。
・「おしはかる」の意の「計る/測る/量る」は文脈で使い分ける。
・身長と体重を一緒にはかるときは「測る/はかる」にする。
・悪事ではないくわだては「計る」、悪事は「謀る」を用いる。
今回は「計る・測る・量る・図る・諮る・謀る」の使い分けをまとめてみました。迷うことの多い「はかる」ですが、なにがしかお役に立てたら幸いです。
長くなってしまいましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました!