「もつ」には「持つ」と「保つ」があります
「持つ」というと、すぐに思い浮かぶのは「持つ」という漢字ではないでしょうか。実際、「手に持つ」や「持ち物」など日常的に使っていらっしゃることと思います。
ただ、「日もち」や「長もち」は「もち」とひらがなにしたほうがいいんですね。それはどうしてかというと、この場合の「もつ」は「そのままの状態を保つ」という意味なので、「保つ」という漢字が当てはまるためです。でも、常用漢字表を見てみると、「保」には「ホ」と「たもつ」の読みだけが示されていて、「もつ」とは読ませていません。それでひらがなで「もつ」にするというわけです。
(常用漢字表より)
保 |ホ |保護,保存,担保
|たもつ |保つ
「保つ/もつ」の表記について
このように常用漢字表に記載されていない場合、どうするかというと、「①ひらがなにする」「②ほかの漢字で代用する」のどちらかになります。
「持つ」で代用してもいいのですが、そうすると、どうしても「手で持つ」「所持する」の意味が前面に出てしまいますので、ひらがなのほうが誤解がありません。そのため、『新訂標準用字用例辞典』や『NHK漢字表記辞典』では「保つ」は「もつ」と書くように示しています。
ちなみに、新聞表記は「持つ」で代用する立場ですから、もしも語感に合わなければ「持つ」でも大丈夫です。そこは各自で判断してみてくださいね。
具体的にどのように用いるか、用例で確かめてみましょう。
(「保つ」の意味の「もつ」)
・日もちする食品を常備しましょう。
・冷蔵庫に入れれば3日はもちます。
・これは丈夫で長もちする繊維です。
・3万円の食費では1か月もちません。
・この暑さじゃ体力がもたないよ。
・なんとか天気がもってくれてよかった。
・あの店は奧さんでもっているようなものだ。
「長持ち」を知っていますか?
「長もちする」は「長もち」とひらがなで書くと述べましたが、「長持ち」という家具はご存じでしょうか。この場合は漢字にします。「長持ち」は、今では使われなくなりましたが、シーズンオフの衣類や寝具などを入れておくための長方形の木箱で、旧家になら残っているかもしれません。
また、「長持ち唄」という民謡がありますが、これは婚礼のときの祝い唄です。どうして婚礼で「長持ち唄」なのかというと、昔は嫁入り道具のたんすを運ぶため、長い棹(さお)を渡して前と後ろの人で担ぎました。このことから、長い棹でたんすを持ってお嫁入りする唄の意味で「長持ち唄」とされたんですね。それでたんすは「一棹(ひとさお)」「二棹(ふたさお)」と数えるというわけです。
「持って」と「もって」の違いについて
ついでに「持って」と「もって」の書き分けについて触れてみたいと思います。
「持つ」は「持って」と「もって」の使い分けにも少し注意が必要です。「この荷物を持ってください」の「持って」と、「今回をもって終了します」の「もって」ですね。
後者の「もって」は文語的な表現になりますが、「~をもって」や「~をもちまして」の形で、「それによって」のような意味になります。これを漢字で書くと「以て」になりますが、常用漢字表では「以」は「イ」としか読ませていませんので、「もって」とひらがなにするんですね。
・今回をもって終了します。
・これをもちまして閉会といたします。
・書面をもって挨拶とさせていただきます。
まとめ
今回は「持つ」と「もつ」の使い分けについてまとめてみました。
・そのままの状態を保つ意味の「もつ」はひらがなにする(推奨)。
・「これをもって」のような「もって」はひらがなにする(必須)。
ここまで読んでいただきありがとうございました。