はじめに
「来る」という漢字は非常によく使いますよね。「友達が来る」「電車が来る」「春が来る」など、人や物だけでなく時間にも使います。でも、みんな漢字なのかというとそうではなくて、「くる」とひらがなにしなければならないことがあるんですね。それが「やってくる」や「暖かくなってくる」「帰ってくる」などの場合です。
また、「きたる」は漢字で「来る」と書きますが、これが本当に紛らわしくて、どうして「来たる」にしないのか不思議ですよね。
そこで今回は、漢字の「来る」とひらがなの「くる」の使い分け、そして「きたる」の表記についてまとめてみたいと思います。
動詞の「来る」は漢字にします
「来る」というのは、向こうからこっちに何かが移動すること、または到達することです。このような意味の動詞の場合は「来る」と漢字で書きます。ちなみに「来る」はカ行変格活用の動詞です。
・友達が来る。
・電車が来る。
・春が来た。
・自転車で来いよ。
・来週、母が来るそうだ。
・いつもどおりの朝が来た。
・収穫期に台風が来るのは困る。
補助動詞の「くる」はひらがなにします
「くる」は、「暑くなってくる」というように、別の語にくっついて補助的な働きをすることがあります。これを補助動詞といいます。本来の意味が薄れて意味を添える役割にとどまっている場合ですね。このような場合には「くる」とひらがなにします。「て」に続くことがほとんどで、「~てくる」というように用います。
・先生がやってくる。
・レポートを提出してくる。
・だんだん暖かくなってくる。
・食欲がないので痩せてきた。
・暗くなってきたから帰ろう。
・この仕事で生きてきました。
・おみやげを買ってきた。
・彼は元気になってきたようだ。
ひらがなが好ましい動詞の「くる」もあります
動詞は漢字、補助動詞はひらがなにすると書きましたが、動詞であってもひらがなが好ましいことがあります。例えば「頭にくる」とか「ピンとくる」のような場合、あるいは「そうきたか」のような場合です。
これらは動詞であってもひらがなにします。なぜなら、「移動してくる」という意味から離れてしまっているためです。「心で感じる」とか「発生する」というような場合ですね。
(「心で感じる」の「くる」の例)
・頭にくる
・ピンとくる
・しっくりくる
・胸にくるものがあった。
・あの言い方にカチンときた。
(「発生する」の「くる」の例)
・そうきたか。
・そうこなくちゃ。
・ストレスからきた病気だ。
・静電気がビリッときた。
・古くなってガタがきている。
ただ、これらは表記の決まりとまでは言えなくて、表記の工夫の範ちゅうです。「本来の意味から離れている」といっても個人によって語感が異なるのではないかと思いますが、「来る」がなじまないと感じる場合は「くる」とひらがなにしてみてくださいね。
なぜ「きたる」は「来る」と書くのか
さて、「きたる4月4日は創立記念日です」などという場合の「きたる」ですが、この場合は「来る」と書くのが一応の決まりです。これは「もうすぐやってくる」とか「今度の」という意味で、「来る○月○日」や「来る○○には」というように、日付や行事と一緒に用いるのが特徴です。
・来る4月4日は創立記念日です。
・来る8月15日に戦没者の追悼式典を行います。
・来る式典の際にはあいさつをお願いします。
・来る投票日にはぜひとも一票をお願いします。
でも、「来る」は「くる」とも「きたる」とも読めてしまうのでモヤモヤしますよね。どうしてこんな紛らわしいことを許容しているのかというと、内閣告示文書の「送り仮名の付け方」に「副詞・連体詞・接続詞は、最後の音節を送る」と示されているためです。
「最後の音節」ですから次のように送ります。
必ず(かならず)→ず
更に(さらに)→に
既に(すでに)→に
全く(まったく)→く
最も(もっとも)→も
来る(きたる)→る
それで「きたる」は「来る」と書くというわけです。
「きたる」は全体をひらがなにします
でも、この書き方はあまり合理的ではありません。常識だとおっしゃる方もいらっしゃるでしょうが、紛らわしい表記は避けたほうが親切です。AIの読み上げ機能を使ったら「くる」と読んでしまう可能性もありますし、移住されてきた方にもわかりづらいと思います。
そこで「来たる」と書くと、今度は「連体詞は最後の音節を送る」という送りがなのルールから外れてしまいます。ですから、誤解のない表記にしたいと思ったら、「きたる」と全体をひらがなにします。
・きたる4月4日は創立記念日です。
・きたる8月15日に戦没者の追悼式典を行います。
・きたる挙式の際にはよろしくお願いします。
・きたる投票日にはぜひとも一票をお願いします。
これは「きたる」だけではなく「来す」の場合も同じです。「混乱をきたす」の「きたす」ですね。「ある状態をもたらす」という意味で用います。
漢字で書けば「混乱を来す」になって、これが正解です。でも、どうしても違和感がある場合は「来たす」ではなく「きたす」と全体をひらがなにしてみてくださいね。
・混乱を来す
・混乱をきたす
・不調を来す
・不調をきたす
まとめ
・動詞の「来る」は漢字にします。
・補助動詞の「くる」はひらがなにします。
・意味が薄れている「くる」は動詞でもひらがなにします。
・「きたる」は漢字で「来る」と書きます。
・「きたる」は全体をひらがなにします。
今回は「来る」と「くる」の使い分けと、「来る/きたる」の扱いについてまとめてみました。最後まで読んでいただきありがとうございました!