重ねる言葉と繰り返し符号(々)の使い方/「一人一人」か「一人ひとり」か

漢字かな以外の表記

はじめに

日本語には繰り返して用いる言葉がたくさんあって、擬音語や擬態語はもちろんのこと、「人々」「山々」「木々」のほか、「正々堂々」や「子々孫々」など四字熟語になっているものもあります。

こんなときによく用いるのが「々」の符号ですが、「民主主義」は「民主々義」とは書かないことからもわかるように、一定のルールがあるようです。それはいったいどんなルールなのでしょうか。

また、「ひとりひとり」というときに、「一人一人」と「一人ひとり」「1人1人」などさまざまな表記があって、どれが正しいのか迷ってしまいますよね。

そこで今回は、重ねる言葉(畳語)と繰り返し記号(々)の使い方についてまとめてみたいと思います。

「一人一人」「一人ひとり」「1人1人」はどれも可

まず、「一人一人」の表記ですが、公用文では「2字以上の繰り返しはそのまま書く」という原則がありますので「一人一人」と書きます。新聞表記は基本的に「一人一人」ですが、後半が濁る場合は「一人びとり」にします。ただ、濁らなくても「一人ひとり」になっている記事をよく目にしますので、実質的にはどちらも使われているようです。議事録表記は「一人一人」も「1人1人」もどちらも可としていますし、NHKでは文脈によってどれも用いています。

このように「ひとりひとり」の表記は実にさまざまで一定していないんですね。ですから、個人の判断でふさわしい表記を選んでくださいとしか私には言えません。ただし、「ひとり一人」や「1人ひとり」とは書けませんので注意してください。

最近、特に「一人ひとり」の表記が多くなってきたのは、個性や多様性が重視されるようになった社会的な背景と無縁ではないように思います。確かに「一人一人」より「一人ひとり」のほうが個性が重んじられているようなニュアンスがありますよね。そのため、「ひとりずつ」の意味なら「一人一人」や「1人1人」、「個人個人」の意味なら「一人ひとり」が好まれるようです。ただ、これは決まり事のようなものではありませんし、「一人一人」と書くのが最も一般的ともいえます。

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踊り字(々)の使い方の3つのルール

繰り返し符号のことを「踊り字」ともいいますが、この踊り字の使い方には大きく3つのルールがあります。

①踊り字は「々」のみ用いる。
②「々」は漢字一文字の繰り返しにのみ用いる。
③複合語の切れ目をまたぐ繰り返しに「々」は用いない。

これらについて、それぞれ少し解説してみたいと思います。

①繰り返し符号は「々」のみ用いる

踊り字には「々」のほかに「〃」「ゝ」「ゞ」などがありますが、文章中では「々」しか用いません。「々」には正式名称があって、「同の字点(どうのじてん)」というそうです。

ただし、「いすゞ自動車」や「金子みすゞ」など、固有名詞はこの限りではありません。また、集計表や図表などにおいては「〃」を用いることができます。

(例外)
・いすゞ自動車
・金子みすゞ
 など

②「々」は漢字一文字の繰り返しにのみ用いる

「々」は漢字一文字の繰り返しにのみ用います。漢字一文字の繰り返しというのは、「山々」とか「木々」というように一文字のみ繰り返すことですね。「子々孫々」「正々堂々」など、繰り返しが連続することもありますが、一文字の繰り返しであれば問題ありません。

・山々
・木々
・人々
・点々
・刻々

・大々的
・子々孫々
・正々堂々
・戦々恐々
・是々非々
・年々歳々
 など

③複合語の切れ目をまたぐ繰り返しには用いない

複合語においては、切れ目をまたぐ繰り返しの場合には「々」を用いません。つまり、「民主主義」は「民主」+「主義」という2語からなる語ですから、切れ目をまたいで「民主々義」とは書かないということですね。「○○会社社長」や「○○会会長」なども同じく複合語の切れ目をまたぐ繰り返しになりますので「々」を用いずに漢字を重ねます。

ただし、「先々週」や「翌々日」など、慣用表現として浸透しているものは漢字にすることができます。

・古古米(古+古米)
・高高度(高+高度)
・北北東(北+北東)
・再再婚(再+再婚)
・民主主義(民主+主義)
・○○会社社長(会社+社長)
・○○会会長(会+会長)
・○○病院院長(病院+院長)
・○○会議議長(会議+議長)

(例外:慣用表現)
・先々週
・翌々日
・先々代
・前々日
 など

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その他の畳語の表記

「々」は「漢字一文字の繰り返しにのみ用いる」ということですから、漢字が二文字の場合には「々」は用いずそのまま重ねます。また、「思い思い」など漢字以外が含まれている場合にも、繰り返しの部分はそのまま書きます。

・一日一日
・一歩一歩
・個人個人
・毎日毎日
・毎年毎年

・思い思い
・泣く泣く
・知らず知らず
・来る日も来る日も
・繰り返し繰り返し
 など

2語目が濁る畳語の扱い

「2字以上の繰り返しはそのまま書く」というのが原則ですが、同じ語の繰り返しの場合に、例えば「かえすがえす」のように後半が濁る場合があります。このような場合、新聞表記の『記者ハンドブック』では後ろの部分をひらがなにしてもよいとしています。この書き方はとても美しいと思いますので私は好きな表記です。公用文では用いませんが、表記に自由度がある方は工夫して使ってみてくださいね。

・返す返す/返すがえす
・重ね重ね/重ねがさね
・好き好き/好きずき
・散り散り/散りぢり
・離れ離れ/離ればなれ
・一人一人/一人びとり
 など

「細々」は「ほそぼそ」か「こまごま」か

「細」の字は「細い(ほそい)」とも「細かい(こまかい)」とも読みますので、「細々」といったときに「ほそぼそ」なのか「こまごま」なのか判断がつきません。そのため、どちらもひらがなで表記にしたほうが親切ですよね。これが新聞表記の立場です。

ただし、公用文では「副詞は漢字で書く」という原則があるのでどちらも漢字で書くんですね。確かに原則も大事かもしれませんが、読み手への配慮も必要ではないかと思いますので、そのあたりはご自身で判断して用いてみてください。

・今は細々と暮らしています。
・今はほそぼそと暮らしています。

・細々とした仕事を抱えています。
・こまごまとした仕事を抱えています。

このように、日本語の表記はもともと複雑なのに、統一されていないことも多くあって、どれが正解かわかりづらいものですが、これはもう表記の多様性と前向きに捉えるしかありませんので、ご自分で納得のいく表記を選んでみてください。誰のための表記かを考えたときに、やはり読みやすさも大事ですからね。

今回は重ねる言葉(畳語)と繰り返し符号(々)についてまとめてみました。最後まで読んでくださってありがとうございました。