はじめに
「あたる」というと、真っ先に思い浮かぶのが「宝くじに当たる」とか「予想が当たる」の「当たる」ではないでしょうか。そのため、「当たる」はなんとなく景気のいい響きがありますね。
「当たる」は一般用語なので、「あたる」といえば、その多くが「当たる」に該当します。でも、「あたる」とひらがなにする場合もあって、「湯あたりしたみたいだ」とか、「お昼のお弁当があたったかな」のような場合は「あたる」とひらがなにするんですね。それはどうしてなのでしょうか。
また、「あてる」という表記には「当てる」のほかに「充てる」や「宛てる」もあります。使い慣れている語ほど意識せずに使ってしまっていることもあるかと思いますので、今回は「当たる」と「あたる」の違い、そして、「当てる・充てる・宛てる」の使い分けについてまとめてみたいと思います。
「当たる」の意味は多種多様
「当たる」は、命中したりぶつかったりする以外にも、「風が当たる」ことも「日が当たることもありますし、「犬も歩けば棒に当たる」こともあります。また、「事に当たる」や「任に当たる」のように引き受けて行う場合にも用います。
ほかには、例えば「たき火に当たる」とか、イライラして「当たり散らす」とか、「ほかを当たってくれ」などと用いますし、「1個当たり」や「1人当たり」というように単位を示すこともあります。
具体的な用例で確かめてみましょう。
・宝くじが当たる
・予想が当たる
・犬も歩けば棒に当たる
・風が当たる
・日が当たる
・事に当たる
・任に当たる
・業務に当たる
・たき火に当たる
・当たり散らす
・ほかを当たってくれ
・1日当たり
・叔父に当たる人
・柿の当たり年
・原典を当たる
・非難するには当たらない
など
「開会に当たり」か「開会にあたり」か問題
「開会にあたりご挨拶いたします」などとよく耳にすることがあるかと思いますが、この場合の「開会にあたり」は「当たり」にするべきでしょうか、「あたり」がよいのでしょうか。これは実は判断が分かれているんですね。
「開会にあたり」というのは「開会に際して」という意味です。このように「~にあたり」の形で用いられるものは「当たる」の意味が薄まってる補助用言ですので、「開会にあたり」とひらがながふさわしいことになりますが、公用文においてはなぜか「当たる」を採用しているんですね。
実際の表記を見ていてもどちらもあって困ってしまいますが、このように判断が分かれているということは、つまりはどちらでもよいと解釈して、あとはご自身の語感に従ってみてくださいね。
・開会にあたり/開会に当たり
・出発にあたり/出発に当たり
・卒業するにあたり/卒業するに当たり
「食あたり」はひらがなで「あたり」にします
一方で、ひらがなにしなければならない「あたる」もあります。それは、「害を受ける」という意味の「あたる」です。食中毒などのことですね。これは漢字で書くと「中る」になりますが、「中」という漢字は「チュウ」と「なか」という読みしか示されていません。そのため「あたる」とひらがなにすることになっています。
「食あたり」ばかりではなく、「毒にあたる」ことも、「暑気にあたる」ことも、「湯にあたる」こともあって、これらはみんな「あたる」にします。
・食あたり
・暑気あたり
・湯あたり
・毒にあたる
・フグであたってしまった。
・キノコにあたったようだ。
充てるとはどういう意味?
「充てる」というのは「当てはめる」という意味で、「別のものにも使えるものを、あえてそのことに使う」、あるいは「欠けているものを充当する」という意味で用います。
・保健室を臨時の更衣室に充てる
・体育館を避難所に充てる。
・財源に交付金を充てて整備する。
・後任に臨時採用の教員を充てる
・生活費を切り詰めて通院費に充てる。
・余暇はゲームに充てている。
「宛てる」とはどういう意味?
「宛てる」というのは「手紙などを差し向ける」ことで、電子メールも該当します。ただし、名詞形の「あて」は「宛」と書いて送りがなを用いないように示されていますので、「あてさき」は「宛て先」ではなく「宛先」と書いてくださいね。
(常用漢字表より)
宛 |あてる |宛てる,宛先
(用例)
・恩師に宛てて手紙を書いてみた。
・亡き父が母に宛てたはがきが見つかった。
・私に宛ててメールを下さい。
・宛先はこちらです。
・会社宛に通知が届きました。
まとめ
・「当たる」は一般用語で、「あたる」の多くは「当たる」になる。
・「開会に当たって/あたって」はどちらの表記も可能である。
・「害を受ける」という意味の「あたる」はひらがなにする。
・「当てはめる」という意味の「あてる」は「充てる」にする。
・「手紙などを差し向ける」意味なら「宛てる」にする。
・「宛先」は送りがなを用いない。
今回は「当たる」と「あたる」、そして、「充てる」「宛てる」の使い分けについてまとめてみました。最後まで読んでいただきありがとうございました。