「優しい/易しい/やさしい」の使い分け:「やさしい」の語源は?

知りたかったモヤモヤ語

はじめに

「“優しい”と“易しい”の使い分けなんて簡単じゃん」と思われるかもしれませんが、最近は「やさしい」というひらがな表記も増えてきました。これは「表記の工夫」の範ちゅうであって、特に「やさしい」とひらがなにしなければならない「表記の決まり」があるわけではありません。

ただ、実際にはひらがな表記の「やさしい」が用いられている場面がたくさんありますので、今回は、「優しい」と「やさしい」は使い分けたほうがいいのか、もし使い分けるとしたらどのあたりがポイントになるのか探っていきたいと思います。

加えて、「易」というのは「やさしい」とは読みますが、「やすい」とは読みません。でも、意味が似ているので混乱をきたしがちですので、併せてまとめてみたいと思います。

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「やさしい」には大きく2つの意味があります

「優しい」か「やさしい」かですが、公用文においては「常用漢字で書ける形容詞は漢字を用いる」という原則がありますので、無理に「やさしい」にする必要はありません。

でも、ことばはどんどん変化していますし、公用文以外ではひらがなを用いる表現がとても多くなっていますので、具体的にどのように扱えばいいのかを探っていくことにしましょう。

意味①「優しい」 思いやりがあること、おとなしくて素直なこと

本来の「優しい」の意味は、「思いやりがある」とか「おとなしくて素直である」ような場合に、その人の性格や形質を表現することばとして用いられてきました。

思いやりがあること おとなしくて素直であること
・気立てが優しい。
・優しい人が好きです。
・彼は優しい心の持ち主だ。
・彼女は心根の優しい人だ。

意味②「やさしい」 痛手を与えないこと、穏やかであること

ところが、だんだんと人以外にも用いることが多くなってきて、「痛手を与えないこと」や「穏やかであること」の意味で使われるようになりました。こうした傾向は比較的最近のことだと思います。このように、人ではないものに用いる場合は「やさしい」とひらがなにすることが多いようです。

痛手を与えないこと 穏やかであること
・地球環境にやさしい製品
・高齢者にやさしい機能
・肌にやさしい化粧品
・目にやさしい色合い

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「易しい」と「やさしい」はどう違う?

一方、「易しい」は「簡単であること」「容易にできること」「わかりやすいこと」などの意味ですから、人ではなく物事に対して用います。

簡単であること わかりやすいこと
・問題が易しかったから合格できそうだ。
・易しすぎるゲームはつまらない。
・思ったより易しい業務で助かった。
・初心者用の易しい問題を用意しました。

ただ、「易しい」の意味が「優しい」の意味に近いことがあるんですね。また、「易しい」を用いると不快に思われる人に配慮することもあるでしょう。そのため、意味を限定したくない場合は、あえて「やさしい」とひらがなで書くことがあります。また、読みやすさを考慮してひらがなにすることもあります。

・やさしい日本語を用いましょう。
・高齢者用のやさしい説明書を作りたい。
・なまやさしいことではない。

「易」は「やすい」とは読みません

「易」は「やさしい」と読みますが、常用漢字表を見ると「やすい」という読みは示されていません。

(常用漢字表より)
易  |エキ   |易者,貿易,不易
   |イ    |容易,安易,難易
   |やさしい |易しい,易しさ

そのため、「易い」とは書けませんので、「食べやすい」「書きやすい」「歩きやすい」などとひらがなにしてください。

「案ずるより産むが易し」ということわざがありますので「易い」と書けるように思ってしまいますが、現在の表記の基準に従えば、これは「案ずるより産むがやすし」になります。この場合は成句として浸透しているので「易し」でも大丈夫ですが、なるべく「やすい」にしてみてくださいね。

・食べやすい
・書きやすい
・歩きやすい
・親しみやすい
・言うはやすし

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「優しい」は「痩せる」が語源だった

古文の授業で習ったかもしれませんが、「やさしい」はもともと「痩す(=痩せるの意)」から生まれたことばです。でも、どうして「痩せる」が「やさしい」になったのでしょうか。

奈良時代には、痩せるほどにつらいという意味で「やさし(痩さし)」が用いられていました。そして、そんなにつらい状況であることは恥ずかしいことなので、やがて「やさし」は「恥ずかしい」という意味になりました。

平安時代になると、相手の人が優美で上品であればあるほど、わが身が恥ずかしくなってしまうことから、自分が「恥ずかしい」のではなく、むしろ相手が「優美なこと」を指して「やさし」というようになりました。

そして鎌倉時代になると「けなげだ」という意味が加わって、やがて現在の「思いやりがある」という意味の「やさしい」になったそうです。

ですから、語源をたどれば「やさしい」とひらがなで書くのも風情がありそうですね。

まとめ

・「優しい」は、思いやりがあることやおとなしくて素直であることです。
・「優しい」には、痛手を与えないことや穏やかであることの意味もあります。
・「易しい」は、簡単であること、わかりやすいこと、たやすいことです。
・「易」は「やすい」とは読まないので「歩きやすい」などと表記します。
・「優しい」は、もともと「痩す/痩さし」が語源です。

今回は「優しい」「易しい」「やさしい」の使い分けについてまとめてみました。最後まで読んでくださってありがとうございました。