「得る:うる・える」の謎に迫る/なぜ「あり得る」は「ありうる」なの?

知りたかったモヤモヤ語

はじめに

皆さんは、「あり得る」は「ありうる」と読むでしょうか。「ありえる」と読んでいるでしょうか。実はこれは「ありうる」なんですが、では、「ありえる」は間違いかというと、そうとも言えないんですね。今回はその謎に迫ってみたいと思います。

その前に「やむを得ない」について触れてみます。ときどき、「やむを得ない」が「やもうえない」になっている文章を見かけることがあります。確かに発音としては「やもうえない」と言いますが、書くとすれば「やむを得ない」になります。

○ やむを得ない
× やもうえない

どうして「やむを」が「やもう」になってしまうのかというと、「やむを(yamuo)」は母音の「u」と「o」が連続するので、それがくっつくいて「yamoo」になってしまうためです。これを母音融合といいます。発音としてはどうしてもそうなりがちなんですね。

でも、書くときには意味を考えて書かなければなりませんので、まず、「やむを得ない」の意味について確認しておきたいと思います。

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「やむを得ない」とはどういう意味?

「やむをえない」とは「しかたがない」とか「どうしようもない」という意味で、「やむを得ない事情があったのだろう」とか「彼が欠席するのはむを得ないことだ」などと用います。また、「やむを得ず歩くことになった」のように「やむを得ず」の形になることもあります。

・やむを得ない事情があったのだろう。
・彼が欠席するのはむを得ないことだ。
・やむを得ず歩くことになった。

「やむを得ず」は、もともとは漢文の「不得已」を、日本語で「やむを得ず」と訓読してできた言葉です。「已」は「止」の意味ですので「止むを得ず」と書くこともあります。

意味としては、「得」は「できる」ですから、「不得」だと「できない」になって、「已」は「止める」の意味ですから、「止めておくことができない」、つまり「なりゆきにまかせるしかない」「しかたがない」という意味になりました。

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常用漢字表で「得」を確認しよう

「あり得ない」は「ありえない」で迷いがありませんが、混乱するのが終止形や連体形の「あり得る」の場合です。念のため常用漢字表で確認してみましょう。

(常用漢字表より)
得  |トク  |得意,会得,損得
   |える  |得る(⇔獲る)
   |うる  |得るところ,書き得る

これを見ると、「得」は「える」とも「うる」とも読ませています。ただし、「得る(える)」は「収入を得る」のような、何かを獲得するという意味の「得る」であって、「できる」という意味の「書き得る」や「あり得る」などは「うる」と読むように示されているんですね。

つまり、次のように使うのが原則になります。

得る(える):収入を得る 承認を得る 知識を得る 
得る(うる):あり得る なし得る 言い得る

ただ、現実には「あり得る」は「ありえる」と読むことも多いですよね。「あり得ない」は「えない」なので、「あり得る」も「ありえる」と読みたくなります。それを無理に「ありうる」とするのは少々強引なように思います。

どうしてこんなややこしいことになっているのかというと、文語(うる)の活用と、現代語(える)の活用が異なるためです。そのため、終止形や連体形では「える」と「うる」が共存してしまっているんですね。もし、これからだんだん文語の「うる」は用いなくなったら、かえって文法上はすっきりするかもしれません。

でも、「うる」という表現も捨てがたいですよね。例えば、「できることは全てやりたい」よりも、「できうることは全てやりたい」のほうが、なんだか説得力があります。ただ、これは年代によっても異なるかもしれません。言葉はみんなで使って育てていくものですので、「える・うる」の問題については今後の行く末を見守っていきたいと思います。

結論としては、原則としては「あり得る」は「ありうる」だけれども、実際には「ありえる」も多用されているということになるかと思います。

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「える」と「うる」の表記はどうすればいい?

では、「える」と「うる」の違いはどう表記すればいいのでしょうか。基本的には常用漢字表にあるように、どちらも「得る」と書いて問題ありません。ただ、区別するために、「える」は「得る」、「うる」は「うる」とひらがなにして書き分けることが多いようです。出番の少ない「うる」をひらがなにするという立場ですね。

一方、誤解のないように、両方ともひらがなにする(※必須ではない)という立場をとっているのがNHK表記です。意図しない読み方を絶対にしてほしくない場合、現状はひらがなにするしかありませんので、そのあたりはご自身で判断してみてくださいね。

まとめ

・「やもうえない」ではなく「やむを得ない」が正解です。
・「やむを得ない」とは「しかたがない」という意味です。
・本来、「あり得る」は「ありうる」と読みます。
・「える」も「うる」も「得る」と書いて問題ありませんが、区別したい場合には「うる」をひらがなにするか、あるいは、誤解のないようにどちらもひらがなにします。

今回は、「やむを得ない」の意味と、「うる・える」の読みと表記についてまとめてみました。最後まで読んでくださってありがとうございました。