「まつる」の表記/「祭る」「祀る」「まつる」は使い分けたほうがいいの?

もう迷わない 漢字のチョイス

はじめに

「まつり」というときには、当然ながら「祭り」と書きますよね。でも、動詞の「まつる」となると、「祭る」がふさわしくないように感じることがあります。「祭」という字を用いると、どうしてもにぎやかなイベントの「祭り」を連想してしまうため、「先祖を祭る」と書いていいかどうか迷ってしまうんですね。

ほかに思い当たるのが「祀る」ですが、「祭る」とどう違うのかはっきりしません。それに、常用漢字表の中で「まつる」という読みがあるのは「祭る」だけで、「祀」は常用漢字ではない表外字です。もちろん、表外字だからといって使ってはいけないということではありませんが、広く情報を発信する場合には、やはり意識したいところです。

そこで今回は、「まつる」の表記はどのように扱えばいいのか、国語辞典、漢和辞典、そして各表記辞書をもとに調べてみることにしました。

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名詞の「まつり」は「祭り」です

まず、名詞の「祭り」について確認しておきたいと思います。「まつり」は漢字で「祭り」と書きます。「秋祭り」「七夕祭り」「火祭り」「村祭り」などいろいろありますが、「祇園祭」や「山王祭」など、固有名詞として定着しているものを除いて、「祭り」と「り」を送ってください。「祭らない/祭ります/祭る」などと活用がある場合は、名詞形でも語尾を送ることになっているためです。(※例外もあります。)

送りがなを用いない場合は、「まつり」ではなく「サイ」と読むことが多いですね。「文化祭」「音楽祭」「慰霊祭」「収穫祭」などたくさんあります。

そもそも「祭り」とはどういうものなのかというと、神仏に対する祈願や感謝、あるいは慰霊のために、毎年、決まった日に行う儀式のことですが、そればかりではなく、記念や祝賀、宣伝などのために行うにぎやかな催し物のことも「祭り」と呼びます。例えば「桜祭り」「夏祭り」「ちびっこ祭り」など、それぞれの地区でさまざまなイベントが開催されていることと思います。

(「祭り」とは?)
①神仏に対する祈願、感謝、慰霊のための儀式
②記念、祝賀、宣伝などのために行う催し物

このような名詞としての「祭り」、つまり儀式やイベントの場合は、内容にかかわらず漢字で「祭り」と書きますが、親しみやすく「まつり」にすることもあるようです。

動詞の「まつる」には「祭る」と「祀る」があります

一方で、動詞の「まつる」になると少し事情が異なってきます。「まつる」には大きく2つの意味があります。それが「①供物をささげ、神霊を慰める儀式を行うこと」、そして、「②神としてあがめ、一定の場所に安置すること」です。

①の場合は、すなわち「お祭りを行うこと」の意味ですから「祭る」ですね。問題は②の場合です。「先祖の霊をまつる」というときには、何か儀式を行うというよりも、むしろ「安置する」という意味が近くなりますので、この場合は「祀る」が用いられることが多いようです。

念のため漢和辞典を調べてみたところ、『漢辞海』には、どちらも供物を捧げることであるけれども、神仏にささげるのが「祭」で、祖先にささげるのが「祀」とありました。

上記のことから考えると、「神や仏に対して供物をささげて儀式を行う」なら「祭る」で、「先祖の霊を一定の場所に安置する」という意味なら「祀る」になりそうです。

祭る」:神や仏に対して供物をささげて儀式を行う。
祀る」:先祖の霊を一定の場所に安置する。

常用漢字表に「祀」がない問題にどう対処する?

でも、常用漢字表を見てみると、「まつる」と読む漢字は「祭る」しかありません。それでどうするかというと、「“祭”で代用する」か「ひらがなにする」かのどちらかです。

新聞表記や公用文では「祭る」にする立場のようです。ですから「犠牲者の霊を祭る」にするんですね。一方でNHKでは「まつる」とひらがなにして「犠牲者の霊をまつる」を許容しています。このように方針が異なるということですから、どちらでも可と解釈できます。表記に自由度がある場合は「祀る」にしてよいと思いますし、可能なら初出にルビや読み仮名を添えれば完璧です。

先祖というのは実際に生きていたことがある人の意味だとすれば、「菅原道真を祀る」とか「徳川家康が祀られている」というように、人間の場合に用います。あるいは「犠牲者を祀る」や「戦没者を祀る」というような場合も「まつる」もしくは「祀る」が適切だと解釈できます。

ただ、境界はあいまいなところがありますので、用いる場合は慎重にしたいところです。神仏に対して「祀る」を使ってしまうと天上から叱られそうですので、不安な場合はひらがなにしてくださいね。

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「祭り上げる」とはどんな意味?

「祭り上げる」とは、「周囲の人がおだてるようにして、ある人を責任ある立場につかせること」をいいます。

この場合は対象が生きた人間ですが、おみこしを担ぐようにしてもり立てるようなニュアンスですので「祭」を用います。「豚もおだてりゃ木に登る」のが人情というものですが、生活に支障をきたすほどの負担にならないように用心したいところです。

・彼を委員長に祭り上げよう。
・知らぬ間に世話役に祭り上がられていた。
・私を救世主に祭り上げようとしても無理だね。

まとめ

・名詞の「まつり」は「祭り」と書く。
・神仏の霊をなぐさめるたり祈ったりする儀式の場合は「祭る」にする。
・先祖の霊を安置する意味の場合は「まつる」とひらがなが推奨される。
・「祭り上げる」とは「おだてて責任ある立場につかせること」をいう。

今回は、「まつる」の表記について、「祭る」「祀る」「まつる」の使い分けについてまとめてみました。

伝統行事としてのお祭りは人手不足で取りやめになることも多いようですが、オンラインショッピングの「感謝祭」は大盛況です。これからだんだんと神仏そっちのけのお祭りのほうが多くなるのかもしれませんね。

最後まで読んでいただきありがとうございました。