はじめに
「ほど」というのは、漢字で「程」と書きますが、みんな漢字にするわけではなくて、ひらがなにしなければならないこともあるんですね。学校では漢字の習得については熱心に指導しますが、使い方まで詳しく触れる余裕がありませんので、結果としていろいろな表記に触れることになり、どれが正しいのか判断に迷ってしまいがちです。
「ほど」と「程」の使い分けについては公用文もマスコミ表記も共通していますので、一応の基準を押さえておくと安心です。もちろん、どのように書いてもいいわけですが、参考までに知っておくのも悪くないですよね。
今回は、「ほど」と「程」の使い分けについてまとめていきたいと思います。
「ほど」とひらがなで書く ①助詞の場合
まず、ひらがなにしなければならない「ほど」について見ていきましょう。ひらがなにするのは助詞の「ほど」です。
助詞というのは、それ自体には意味はなく、前の語を肉付けする働きをするものです。例えば、「3日ほど」の「ほど」、「あれほど」の「ほど」などですね。この場合にはひらがなで「ほど」にします。
(助詞の「ほど」)
・3か月ほどインドに滞在します。
・体重が90キロほどになってしまいました。
・これほどつらいなんて思ってもみなかった。
・だから、あれほど言ったじゃないか。
・あなたほど優秀な人なら何でもできるよ。
・フライドポテトほどおいしい食べ物はない。
・周囲が元気なほど、かえって気持ちがふさぐ。

私は、通帳の残金が1万円ほどになってしまいました。
「ほど」とひらがなで書く ②形式名詞の場合
もう一つひらがなにするものがあって、それが「形式名詞」の「ほど」です。形式名詞の「ほど」は、本来の意味を失って、前の語に意味を添える役割にとどまっているものをいいます。「ご検討のほど」の「ほど」や、「ご指導のほど」の「ほど」がこれに当たります。
(形式名詞の「ほど」)
・新製品導入について、ご検討のほどお願いします。
・今後ともご指導のほど、よろしくお願いいたします。
・今シーズンのご活躍のほど、大いにご期待申し上げます。
・誠に申し訳ございません。どうかご勘弁のほどを!

形式名詞の「ほど」は確かに形式的だね。
「程」と漢字で書く 名詞の場合
漢字で「程」と書くのは名詞の「程」です。つまり、もともとの意味で用いられる場合ですね。「程」というのは物事の「度合い」や「程度」のことですから、そのままの意味で用いる場合には漢字で「程」と表記するのが基本です。
(名詞の「程」)
・身の程をわきまえてください。
・まだまだ程遠い道のりだ。
・程なくして父がやってきた。
・程よい歩調で進みましょう。
・やめてくれ。冗談にも程があるよ。
もちろん、名詞であってもひらがなで表記するのが間違いということではありませんし、実際、「ほどがある」のようにひらがな表記も目にします。ただ、原則としてはこうなりますということですね。

「身の程」や「程遠い」などの特定の言い回しを覚えれば、あとはひらがなでいいってことになりそうね。
「先程」なの? 「先ほど」なの?
先ほどは「先ほど」です。「先程」とは書きません。副詞的に用いることもあるので「さきほど」とひらがなも好まれますが、特にこだわりがなければ「先ほど」にしてください。これは公用文もマスコミ表記もそのように示しています。
ちなみに「先ほど来」というのは、「先ほどから」という意味になります。日常会話では出番は少ないかもしれませんが、会議などでは頻出します。
・先ほどから申し上げているとおりです。
・今の意見は先ほどのものとどこが違いますか。
・先ほどご提案がありました件ですが……
・先ほど来、ご説明していますように……
「余程」なの? 「よほど」なの?
「よほど」はひらがなで「よほど」と書きます。「余程」とは書きません。これも公用文とマスコミ表記で共通しています。
「よほど」というのは「相当」とか「ずいぶん」という意味で用います。「よっぽど」という言い方をすることもあります。
・よほどのことがあったんだろう。
・変わるためにはよほどのきっかけが必要だ。
・薬のおかげでよほど楽になったよ。
・お金を失うのは命を失うよりよっぽどいい。
「程々」なの? 「ほどほど」なの?
「ほどほど」は「ほどほど」と書きます。「程々」とは書きません。これも公用文とマスコミ表記で共通しています。「ほどほど」とは「ちょうどいい程度」という意味ですね。
・勉強もほどほどにしないと体調を崩すよ。
・何をするにもほどほどがいいと思う。
・お酒はほどほどの量にするのが難しい。
【補足】表記に自由度がある場合には、漢字をひらがなにするのは問題ないと思います。ただ、逆に、助詞や形式名詞の場合には必ずひらがなにしてくださいね。
そもそも「程」とはどういう意味?
漢字の「程」とは物事の度合いや程度のことですが、もともとは長さや重さや程度を「はかること」の意味だったようです。はかる際には尺度を用いますよね。どの位置にあるのか、どの高さなのか、どういう内容かを示す基準のようなもの、あるいは目盛りのようなものが「程」なんですね。
例えば「工程」というのは、どうやって、どうやって、どうやるという手順のことです。「日程」というのは、その日は何をして、何をして、何をするという予定のことです。「課程」というのは、何を学んで、何を学んで、何を学ぶかの順序や内容のことです。「行程」というのは、どこに行って、どこに行って、どこに行くという道順を示すものです。
このように「程」は、どの段階に到達しているかということですので、「程なく」であれば短い段階で、「程よい」であればちょうどいい段階ということになるんですね。
まとめ
・助詞の「ほど」はひらがなにします。
・形式名詞の「ほど」はひらがなにします。
・名詞の「程」は漢字にします。
・「先ほど」の「ほど」はひらがなにします。
・「よほど」はひらがなにします。
・「ほどほど」はひらがなにします。
今回は「ほど」と「程」の使い分けについてまとめてみました。最後まで読んでくださってありがとうございました。