はじめに
「あらためる」は「改める」と書くことが多いと思いますが、「あらためて」はひらがなの表記にもよく遭遇しますので、みんな「改」にしていいのか心配になりますよね。ひらがなになっているのは、ほとんど副詞の場合ではないでしょうか。
また、動詞でも意味が多様で、「態度をあらためる(改善)」こともありますし、「持ち物をあらためる(検査)」こともありますし、「年度があらたまる(新規)」ことも、「病勢があらたまる(悪化)」こともありますので、みんな「改」の漢字が当てはまるのか気になるところです。
そこで今回は、「あらためる/あらたまる」、そして「あらためて」というときに、どのように表記すればいいのか、国語辞典や表記辞書をもとに調べてみることにしました。
副詞の「あらためて」は漢字が基本?
「あらためて」は、動詞のほかに副詞になることがあります。「その態度を改めてください」だと動詞ですが、「あらためて質問させてください」は副詞です。
(動詞)
・その態度を改めてください。
(副詞)
・あらためて質問させてください。
動詞は「改善する/新しくする」という意味ですが、副詞の場合は「もう一度」という意味になります。このように、副詞は本来の「改」の意味と少し異なるため、ひらがなが好まれるようです。
ただ、調べてみたところ、副詞の「あらためて」をひらがなにするという方針を示している表記辞典はありませんでした。公用文は、「常用漢字内で書ける副詞は漢字で書く」のが基本的な立場ですし、新聞表記でも議事録表記でも、NHK表記においても、副詞のあらためては「改めて」と漢字で書くように示しています。ですから、副詞の「あらためて」であっても、動詞と同じように「改めて」で問題ないんですね。
ただ、NHKでは、以前は副詞の「あらためて」はひらがなで表記していましたので、今もその影響があるかもしれませんし、一概に新聞表記といっても、それぞれのメディアで独自のルールにしていることもあるだろうと推察されます。
他の記事でも触れましたが、副詞はひらがなになっている表記に多く遭遇するのは、副詞だと漢字本来の持つ意味から離れてしまうので、ひらがなのほうがなじむためだと考えられます。
ですので、あくまで表現の工夫としてになりますが、表記に自由度があるお立場であれば、かっちりさせたい場合には「改めて」、ふんわりさせたい場合は「あらためて」にするなど、文脈に応じて選んでみてください。
動詞の「改める」の表記について
次に、「動詞」の「あらためる」の使い方について確認していきたいと思います。
動詞の「あらためる」には、大きく「①新しくする」「②改善する」「③堅苦しい態度をとる」という意味がありますが、どれも「改める」にします。「④検査する」については後述します。
①新しくする
・行を改めて書き始めてください。
・日を改めてお伺いいたします。
②改善する
・その態度を改めなさい。
・手法を改めて取り組みたい。
③堅苦しい態度をとる
・改まった態度で接する。
・改まらないで気楽にいきましょう。
「検査する」意味の「あらためる」の扱いについて
「あらためる」には「不正がないか検査する」という意味で用いることがあって、「かばんの中身をあらためる」とか「切符をあらためさせてください」などと使います。
④不正がないか検査する
・かばんの中身をあらためる。
・切符をあらためさせてください。
この場合の「あらためる」は「検める」になりますが、常用漢字表の「検」には「あらためる」という読みがないことからひらがなが多く用いられています。
ただし、日本史で習った「宗門改(しゅうもんあらため)」のように、「改」の漢字にも検査するという意味がありますので、「改める」と書いても問題ありません。実際、「検査する」という意味の「あらためる」をひらがなで書くように明確に示している表記辞書はありませんでしたので、「あらためる」でも「改める」でも、語感に合うほうを選んでみてください。
「年があらたまる」はどう書けばいいか
新年になって「年があらたまる」、または新学期になって「年度があらたまる」ことがあります。この場合の「あらたまる」もひらがなもよく使われます。
「日を改める」と「年があらたまる」の違いは、力を働かせて変えるのか、自然に新しくなるかの違いで、後者の場合はひらがなが好まれるんですね。ただ、必ずひらがなにしなければならないわけではありませんので、各自で判断してみてください。
・日を改める(人為的な変更)
・年があらたまる(時の流れ)
「病勢が革まる(あらたまる)」はひらがなにする
ただし、必ずひらがなにしなければならないものがあります。それが「革まる」という意味の「あらたまる」です。
「革まる」とは「急に悪化する」という意味で、「病(やまい)革まる」や「病勢が革まる」というように用います。ただ、「革」の字に「あらたまる」という読みは示されていないため、どの表記辞書においてもひらがなで表記するように示しています。
(急に悪化する)
・病勢があらたまる。
・病あらたまって危険な状態だ。
まとめ
・副詞の「あらためて」は漢字が基本ですが、ひらがなも多用されています。
・動詞の「あらためる」のうち、「①古いものを新しくする」「②よいものに改良する」「③堅苦しい態度をとる」意味であれば漢字で「改める」にします。
・「検査する」という意味の「あらためる」は「改める」ですが、ひらがなも好まれます。
・「年があらたまる」は漢字で書けますが、ひらがなも好まれます。
・「病勢が革まる」の意味であれば、必ずひらがなで「あらたまる」にします。
今回は「あらためて」と「改めて」の使い分け、そして、「あらためる」の表記についてまとめてみました。
「あらためる」はかなり表記のゆれがありますので、これが正解ということはお伝えしにくいのですが、多様に用いられていると解釈して語感に合ったものを選んでみてください。ただし、表記に厳格なお立場の方は、ひらがなの使いすぎには留意する必要があるかもしれません。
最後まで読んでいただきありがとうございました。