はじめに
日本人は「おかげさまで」という表現をよく使いますが、少し前まで、私は「おかげさまで」という言い回しがあまり好きではありませんでした。お世話になってもいないのに、社交辞令としてそう言っているのだとばかり思っていたためです。
でも、違いました。「おかげさまで」は、手にした幸運は自分が頑張ったからではなく、「神仏のご加護によって」、つまり、たまたま得たものであるというとても謙虚な表現だったんですね。それを知ったら、むしろ「おかげさまで」を積極的に使いたくなりました。
今回は、「おかげさまで」の語源と使い方の注意点についてまとめてみたいと思います。
「おかげさま」の意味を確認しよう
「おかげさま」というのは、本来どういう意味なのでしょうか。「おかげさま」は、漢字では「御陰様」になりますが、「御」は尊敬を表す接頭語ですし、「様」も丁寧語ですから、どうやら「陰」というのは、ものすご~くありがたいもののようです。
そんなにありがたい「陰」とはいったいどんなものなのかというと、文字どおり「陰」のことなんですね。物陰に隠れていれば、見つかってひどい目に遭うこともありませんし、災難が降りかかってくることもありません。このように、「陰」には「庇護」や「恩恵」の意味があって、つまり「神仏のご加護」を指しているんですね。
ですから、「おかげさまで」というのは「神様や仏様に守っていただいたおかげで」という意味だったんです。そのことがわかると、「おかげさまで」がとても使いやすく感じられるのではないでしょうか。
・おかげさまで、家族みんな元気に暮らしています。
・おかげさまで、志望校に合格することができました。
・おかげさまをもちまして、無事に還暦を迎えることができました。
「おかげで」は主によいことに使います
このように、「おかげさま」はもともとは「神仏のご加護」のことでしたが、それがだんだんと「人の力添え」にも用いられるようになりました。ですので、誰かに助けてもらったら、それもやはり「おかげさま」になるんですね。
人に対しては、「おかげさまで」ばかりでなく、もっとカジュアルに「おかげで」とか「おかげさんで」という言い方もします。きっと日常的に、「おかげで助かったよ」とか、「これもあなたのおかげです」などと用いていることと思います。また、人だけでなく、物事や事象に対しても用ることもあります。
・おかげで助かったよ。
・これもあなたのおかげです。
・天気がよかったおかげで大盛況だった。
悪いことには「せい」を用います
このように、「おかげ」というのは、よい結果に至った原因となるもののことで、神仏であれば「ご加護」、人であれば「力添え」、事象であれば「都合がいいこと」ですから、悪い結果をもたらした場合に用いると意味が合わなくなってしまいます。
あえて皮肉っぽく、悪いことにも「おかげで」を用いることもありますが、通常であれば、やはり避けたほうが無難です。
どうするかというと、悪い結果を招いた原因を述べる場合には「せい」を使います。「せい」も、やはり原因や理由を示す言い方ですが、こちらは単に「~のため」という意味ですので、悪いことにも使えるんですね。
・食べ過ぎたせいでおなかが痛い。
・僕がしくじったせいでチームが負けた。
・雨が降ったせいでイベントが中止になった。
原因が同じでも、「おかげ」も「せい」もある
同じ原因であっても、「おかげ」なら前向き、「せい」にすれば後ろ向きな表現になりますので、結果によって使い分けてくださいね。
・貧乏な家に生まれたせいで苦労ばかりだった。
・貧乏な家に生まれたおかげでたくましく育った。
・父の会社が倒産したせいで進学を諦めた。
・父の会社が倒産したおかげで家族の絆が深まった。
まとめにかえて
今回は、「おかげさま」の語源と、「おかげで/せいで」の使い方をまとめてみました。
物事の大部分は偶然でできていることに誰もが気づいていることと思います。失敗しても人のせいにせず、成功したら「おかげさまで」という謙虚な気持ちでいられたら、また次の幸運を呼び寄せられるのかもしれません。ただ、簡単なようで、それがなかなか難しいものです。人間ですからね。
最後まで読んでくださってありがとうございました。