「はなむけ/ちりばめる/なげうつ/なにがしか/よりどころ」をひらがなで書く理由

表記の決まりごと

はじめに

文字を書くときに、知っている漢字であれば、当然、漢字表記にしますよね。小学校で習うような易しい漢字であればなおさらです。でも、イメージする漢字ではない場合もあるんですね。その代表例が「はなむけ/ちりばめる/なげうつ/なにがしか/よりどころ」です。

例えば、「はなむけ」というのは「花向け」と書きたくなりますが、「餞」が正解です。でも、これは常用漢字表にない表外字ですので「はなむけ」とひらがなにするんですね。しかも、もともとは「馬の鼻を向けること」だったようです。

今回は、このように、「思ってた漢字じゃなかった!」の代表選手をご紹介したいと思います。

○ はなむけ   餞   × 花向け
○ ちりばめる  鏤める × 散りばめる
○ なげうつ   擲つ  × 投げ打つ
○ なにがしか  某か  × 何がしか
○ よりどころ  拠   × 寄り所

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「はなむけ」とは? 漢字でどう書くの?

はなむけ=餞(贐)

「はなむけ」とは、遠くの土地に旅立つ人や新たな門出を迎える人に対して贈る励ましのメッセージや金品のことです。シチュエーションとしては、人事異動によって県外に行く人や、卒業して新しい世界に旅立つ人などに向けて贈ります。

もともとは、旅に出る人が乗った馬の鼻を出発する方向に向けることでしたので、「鼻向け」だったんですね。お祝いのことと勘違いしがちですが、別れの場面で用います。

「はなむけ」は、漢字で「餞」と書きます。お餞別の「餞」ですね。「贐」とも書きますが、いずれも常用漢字ではないのでひらがなにします。かつては旅立つ人を見送って郊外まで行き、そこで宴会をして別れたことから、「餞」には「送別会」の意味もあるようです。

「ちりばめる」とは? 漢字でどう書くの?

ちりばめる=鏤める

「ちりばめる」とは、刻んだところに金銀・宝石などをはめこむことです。また、比喩的に、文章などにおいて、美しいことばをところどこに配置することにも使います。

「ちりばめる」は、漢字では「鏤める」と書きます。「鏤」は金属などを細かくほることですが、そこから「細かい模様を刻み込む」という意味になりました。「鏤」は常用漢字ではないのでひらがなにします。「散りばめる」と書きたくなるので少し注意が必要です。

このように「ちりばめる」には技巧的な要素が含まれているため、宝石をちりばめるだけではなく、文章などの巧みな技法として「美辞麗句をちりばめる」などとも使われるようになったんですね。

「なげうつ」とは? 漢字でどう書くの?

なげうつ=擲つ

「なげうつ」とは、惜しげもなく差し出すことで、「財産をなげうって学校を建てた」とか、「私財をなげうって動物の保護にあたった」などと用います。

「なげうつ」は、漢字で「擲つ」と書きます。「擲」は「ポイッとなげる」こと、つまり、惜しげもなく捨ててしまうことですね。「投げ打つ」と書くこともありますが、これは「投げて打つこと」ですので意味が異なります。「擲」は常用漢字ではありませんのでひらがなにします。

このように、「なげうつ」は、大事なものをいとも簡単に提供することですので、主に金額が莫大な場合に用いますが、金品だけではなく「身をなげうって」というように全精力を投じることにも使います。

「なにがしか」とは? 漢字でどう書くの?

なにがしか=某か

「なにがしか」とは、名前や量などがはっきりしない場合、または、わざとはっきりさせない場合に用いる代名詞です。

名前が不明な場合に「井上なにがしという方にお会いしました」というように用いたり、量をはっきりさせない場合に「なにがしかの負担は必須です」とか「なにがしかの金品を渡さなければなりません」などと用います。

ただ、「某」を「ボウ」と読む場合は漢字で書きますので、「某日」「某所」「某国」「某氏」などと用います。ひらがなにするのは訓読みする場合ですね。

また、「某」は「それがし」と読ませることもありますが、これは自分のことを謙遜して言う人称代名詞です。この場合もひらがなで「それがし」にします。

「よりどころ」とは? 漢字でどう書くの?

よりどころ=拠

「よりどころ」は、「根拠」の意味として「論のよりどころ」などと用いますが、ほかに、「それがなくなれば自分の存在が危うくなるもの/支えになるもの」という意味で、「心のよりどころ」や「生活のよりどころ」などと用います。

「よりどころ」は、漢字では「拠」または「拠り所」です。「寄り所」と書くこともありますが、これは「立ち寄る場所」という意味ですので「拠」の意味とは異なります。「拠」は「拠点」や「本拠地」など「キョ」とは読むものの、「よりどころ」という読みはないのでひらがなにします。

また、「拠」は「よんどころ」の意味もあって、多くは「よんどころない」の形で用います。「よんどころない」は「よりどころがない」、つまり、支えになるものがないということですから、「やむを得ない」とか「どうしようもない」という意味ですね。「きっと、よんどころない事情があるんだろう」などと用います。「よりどころ」というのはそれほどまでに大切なものなんですね。

まとめ

・「はなむけ」は「餞」で「花向け」ではありませんでした。
・「ちりばめる」は「鏤める」で「散りばめる」ではありませんでした。
・「なげうつ」は「擲つ」で「投げ打つ」ではありませんでした。
・「なにがしか」は「某か」で「何がしか」ではありませんでした。
・「よりどころ」は「拠」で「寄り所」ではありませんでした。

今回は、ひらがなで表記する語のうち勘違いしやすいものを集めてみました。最後まで読んでいただきありがとうございました。

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