はじめに
「さびしい」というときに、一般には「寂しい」と書きますが、よく「淋しい」という表記も目にしますよね。「寂しい」と「淋しい」はどう違うのでしょうか。また、「さびしい」と「さみしい」の両方の言い方がありますが、これはどちらでもいいのでしょうか。
そこで今回は、「さびしい」と「さみしい」、そして「寂しい」と「淋しい」の使い方について調べてみることにしました。
「さびしい」なのか、「さみしい」なのか
まず、「さびしい」なのか「さみしい」なのかについてですが、どちらの言い方も間違いではなくて、「さびしい」が一般的ではあるものの、「さみしい」も誤用とか俗語といった扱いではありませんでした。
ほとんどの辞典が「さみしい」を引くと「→さびしい」としていますが、『三省堂国語辞典』には「“さみしい”は“さびしい”のやわらかい言い方」とありました。
ただ、言葉自体としては「さびしい」が先で、「さみしい」は中世末期から派生して用いられるようになったものですので、「さびしい」が標準的語形とされています。
「さびしい」はもともと「さぶし」の形で用いられました。古語の「荒ぶ(さぶ)」の形容詞形が「荒ぶし(さぶし)」で、これが「さびしい」の語源だと考えられます。ですから、「さびしい」と濁点を用いるのが本来の使い方になります。「荒ぶ」は活気が失われているさまのことですが、心情に対しても用いられました。

「さみしい」は、比較的新しい言い方なのね。
「寂しい」なのか、「淋しい」なのか
次に、漢字の「寂しい」と「淋しい」はどっちを用いるかについて調べていきたいと思います。
国語辞典で「さびしい」を引くと「寂しい」と「淋しい」の両方が掲載されていますが、常用漢字は「寂しい」だけですので、「さびしい」を漢字で書くなら「寂しい」になります。「淋」は常用漢字ではないので一般には用いません。これは公用文をはじめ、新聞表記や議事録表記、そしてNHK表記においても同じです。
もちろん、この基準は文芸や詩歌などにおける表現まで制限するものではなく、あくまで情報を伝えるための文章においてという意味ですが、レポートや小論文などでは「淋しい」は用いないほうがよさそうです。つまり、意味によって「寂しい」と「淋しい」を使い分けるのではなく、漢字で書くなら一般的には「寂しい」を用いるということですね。
なお、「さみしい」という漢字はありませんので、「さみしい」を用いるならひらがな一択になります。

漢字で書くなら「寂しい」にして、「さみしい」はひらがなで書くと覚えておけばいいんだね。
「寂しい」の3つの意味
「寂しい」」には大きく3つの意味があります。念のため用例とともに確認しておきたいと思います。
①人の気配がなくひっそりしている。
・寂しい夜道を歩いて帰った。
・人が減ってしまい寂しい町になった。
②仲間や相手がいなくて孤独である。
・母が亡くなり寂しい毎日である。
・知らない土地で寂しく暮らしている。
③物足りなくて満たされない気持ちである。
・給料日前なので財布が寂しい。
・たばこをやめたら口が寂しい。

最近、財布は使わなくなったけど、懐はやっぱり寂しいままだな。
「寂」と「淋」の漢字の意味は?
漢和辞典で「寂」を引くと、「①人の気配がなくひっそりしている」という意味と、「③物足りなくて満たされない気持ちである」という意味が掲載されていますが、「②仲間や相手がいなくて孤独である」という意味は見当たりませんでした。そのため、②の意味、つまり、「孤独である」という場合に「淋しい」が好まれるのだと思います。
ただ、「淋」を漢和辞典で引くと、『漢辞海』も『漢字源』も、「淋」は「水が流れる」とか「水がしたたる」という意味で、「さびしい」に該当する意味が見当たりませんでしたので、どうして「さびしい」を「淋しい」と書くようになったのかまでは調べることができませんでした。水が流れることから「涙が流れる」というニュアンスで用いられるようになったのかもしれませんが、個人的な解釈を述べるわけにはいきませんので、引き続き探っていきたいと思います。
まとめ
・「さみしい」は「さびしい」をやわらかく表現したものである。
・「さびしい」が標準的語形のため、公式なものに「さみしい」は用いない。
・「淋」は常用漢字ではないため、公式なものには「寂」を用いる。
今回は「さびしい/さみしい」「寂しい/淋しい」の使い分けについてまとめてみました。最後まで読んでいただきありがとうございました。


