はじめに
「あける」には「開ける/空ける/明ける」の表記がありますが、どの漢字がいいのか迷うことってありませんか? あるいは、漢字で書いていいのかどうか疑問に思ったりしないでしょうか。特に「穴をあける」というときには、「穴を開ける」のような気もしますし、「穴を空ける」ような気もしますし、どちらもふさわしくないようにも感じてしまいます。
また、「あける」は他動詞ですが、自動詞の「あく」もあって、「開く/空く/明く」と書きますが、特に困るのが「開」です。「開く」は「ひらく」とも「あく」とも読みますし、「開ける」は「ひらける」とも「あける」とも読めてしまうので、書き方が難しいことがあるんですね。「扉が開いていた」だと、「扉があいていた」なのか「扉がひらいていた」なのか判別がつかないことがあります。
(常用漢字表より)
開 |カイ |開始,開拓,展開
|ひらく |開く,川開き
|ひらける |開ける
|あく |開く
|あける |開ける,開けたて
そこで今回は、「あく/あける」と読む漢字、つまり、「開ける/空ける/明ける」の使い方は表記辞書においてはどのように示されているのかを確認するとともに、ひらがなの「あく」や「あける」はどのように用いるのがいいのかを探っていきたいと思います。
「開く(あく)/開ける(あける)」の使い方
「開く/開ける」は「閉」の反対、つまり、閉じていたものを開けることですから、「窓を開ける」「ドアを開ける」などのほかに、「引き出しを開ける」「ペットボトルの蓋を開ける」などと用います。
そのほかに、金庫や玄関の「鍵を開ける」こともありますし、単にドアを開けるのではなく、営業活動や興業を開始するという意味で「店を開ける」「幕を開ける」などと使います。
また、体の動きとして「口を開ける」や「目を開ける」のようにも用います。「開いた口がふさがらない」という慣用句がありますが、これは「あきれてことばが出ない」という意味です。
・開け閉め
・幕が開く
・窓を開ける
・ドアを開ける
・口を開ける
・目を開ける
・開かずの扉
・箱の蓋を開ける
・引き出しを開ける
・ペットボトルの蓋を開ける
・玄関の鍵を開ける
・手紙を開ける
・風呂敷包みを開ける
・店を朝9時から開ける
・開けっ広げな性格だ
・入り口を開け放しておく
・壁に穴を開ける
・開いた口がふさがらない
「穴があく/穴をあける」はどう書けばいい?
では、「穴をあける」はどう書けばいいでしょうか。新聞表記の『記者ハンドブック』においては、「ドリルで穴を開ける」や「壁に穴を開ける」というように、具体的なものに穴をあけるなら「開く/開ける」にして、「舞台に穴があく」「ポストに穴があく」というような抽象的な表現の場合は「あく/あける」とひらがなにするとしています。抽象的な表現というのは、人の配置や期間に欠損が生じることですね。こちらは、どちかというと「空」に近いニュアンスがありますが、ひらがなにするんですね。
(開く/開ける)
・ドリルで穴を開ける
・壁に穴を開ける
・穴の開いた板をはめ込む
(あく/あける)
・舞台に穴があく
・ポストに穴があく
・政治に穴をあけるわけにはいかない
表記に自由度があるお立場の場合は必ずそうしなければならないということではありませんが、このようなことを参考にして表記を選んでみてくださいね。どちらも「あける」にしたくなるかもしれません。
「開く(あく/ひらく)」「開ける(あける/ひらける)」問題
では、「開く」は「あく」とも「ひらく」とも、「開ける」は「あける」とも「ひらける」とも読めてしまう問題はどうすればよいのでしょうか。
表記辞書を確認したところ、公用文をはじめ、新聞表記でも議事録表記でも、そしてNHK表記においても、このことについての言及はありませんでした。ですから、基本的にはどちらも漢字で書いていいことになります。
ただ、「扉が開いていた」というときには、「扉がひらいていた」とも「扉があいていた」とも、どちらにも読めてしまいますので、誤読を防ぎたい場合はルビを用いるか、それができない場合は、「ひらく」は漢字にして、「あく/あける」はひらがなにすることが多いようです。
ただ、これについては表記の決まりとして定まっているわけではなく、表記の工夫の範ちゅうになりますので、ご自身で読みやすいように考えて表記してみてくださいね。
「空く(あく)/空ける(あける)」の使い方
「空く(あく)/空ける(あける)」というのは、中にあったものがなくなって「から」になることです。「空き箱」や「空きビン」「空き家」など決まった言い方のほかに、「空いた皿を下げてください」などと用います。
また、すき間や空間ができることとして、「座席が空く」「行間を空ける」などと用いますし、買い物のしすぎで「冷蔵庫に空きがない」ことも、留守にして「家を空ける」こともあります。何もない状態であることの意味で、「手が空いたら手伝って」とか「予定を空けておいてね」という言い方もします。
ほかに、役職などに欠員が生じるという意味で、「局長の席が空いている」とか「教授の椅子が空きそうだ」というように、比喩的に用いることもあります。
・空き缶
・空きビン
・空き室
・空き地
・空き巣
・空き箱
・空き家
・空いた皿を下げる
・冷蔵庫に空きがない
・ボトルの中身をシンクに空ける
・手が空く
・予定を空ける
・座席が空く
・行間を空ける
・家を空ける
・がら空き
・体が空く
・手が空いたら手伝って
・予定を空けておいてね
・局長の席が空いている
・教授の椅子が空きそうだ
「水をあける/水をあけられる」はひらがなで書く
競争相手に引き離されてしまうことを「水をあけられる」と表現することがあります。これは間隔ができてしまうことなので、意味としては「空」になりますが、新聞表記もNHK表記でも、「水をあける/水をあけられる」の場合には「あける」とひらがなで書くように示しています。
どうして差がつくことを「水があく」というのかというと、もともとは水上の競技、つまり競泳やボートレースなどで、自分の身長以上の差がついたり、自分のボートの艇身(ていしん)以上の差がついて、追いつくのが難しいことを「水があく」とか「水をあけられる」と表現したためだそうです。
転じて、水に関係しないことにおいても、「ライバルに水をあけられた」とか、「今のうちに水をあけておきたい」などと用いるようになったんですね。
「空く」は「すく」とは読まない
「空く」というと、「あく」のほかに「すく」とも読めそうな気がしますよね。ただ、常用漢字表を見てみると、「空く」に「すく」という読みはなく、「あく」としか読ませていません。ですから、「おなかがすいた」や、「席がすいている」などはひらがなにしてください。
(常用漢字表より)
空 |クウ |空想,空港,上空
|そら |空,空色,青空
|あく |空く,空き巣
|あける |空ける
|から |空,空手,空手形
「明く/明ける」の意味と使い方
「明ける」は、明るくなるという意味で「明け方」「夜が明ける」などと用いるほかに、「期間が終わる」という意味で「連休明け」や「年が明ける」「梅雨が明ける」などと用います。
ほかに、「明らかにする」という意味があって、「悩みを打ち明ける」「秘密を明かす」「事件の真相を明かしたい」という言い方をすることもあります。
・明け方
・夜が明ける
・明けの明星
・年が明ける
・連休明け
・梅雨が明ける
・喪が明ける
・年季が明ける
・部屋を明け渡す
・悩みを打ち明ける
・秘密を明かす
・事件の真相を明かしたい
「らちが明かない」とはどういう意味?
「明く」を用いる慣用句に「らちが明く」や「らちが明かない」があります。「らち」は漢字では「埒」と書きますが、これは物事の区切りのことです。
「らちが明く」は「区切りがつく」で、「らちが明かない」だと「区切りがつかない」ことですから、「物事が進まない」とか「はかどらない」という意味で用います。
「埒」というのは、もともとは「柵」のことだそうで、「柵があるので進まない」という意味なんですね。そうすると「開」のほうが意味としては近いように思いますが、「明」には「遮っていたものがなくなる」という意味があるようです。いずれにしても、慣用として「らちが明く」「らちが明かない」と書きますので、これは「明」で覚えてしまったほうがよさそうです。
慣用ということでは、「明け渡す」も、部屋などを空けて渡すことですから「空け渡す」のほうが意味としては近いかもしれませんが、慣用として「明け渡す」が用いられています。
まとめ
・「開く/開ける」は、主に「閉じていたものを開ける」場合に用います。
・「穴をあける」は、具体的なものには「開」を用い、抽象的な場合にはひらがを用います。
・「空く/空ける」は、中身がなくて「から」になっていることに用います。
・「水をあける/水をあけられる」の「あける/あけられる」はひらがなにします。
・「明く/明ける」明るくなることや期間が終了する場合に用います。
・「らちが明かない」とは「物事がはかどらない」という意味です。
今回は「開ける/空ける/明ける/あける」の使い分けについてまとめてみました。最後まで読んでくださってありがとうございました。


