ユニークな日本語

花束のイラスト 日本語そもそも

日本語は易しくないけど、やさしい響き

以前、ニューヨーク在住で、タレントの渡辺直美さんがタクシーに乗っていたら、運転手さんに「きみたちの使っていることば何語なの? とてもやさしいことばだね」と話しかけられたとおっしゃっていましたが、それを聞いて私も、まるで自分がほめられたようにうれしい気持ちになりました。確かに日本語は響きがやわらかくてすてきなことばですよね。

でも、もしも母語ではなく、外国語として日本語を習得する立場になったらどうなのでしょうか。よく「日本語は難しい」という話を耳にしますが、日本でしか暮らしたことのない私にとっては、日本語は自分が操ることのできる最も容易な言語ですので、他の言語に比べて難しいのかどうかは言及しにくいところです。確かに主語が省略されがちなのはとらえどころのない感じがしますが、敬語や婉曲表現は他言語にもあるようですしね。ただ、確実に言えることは、日本語はとにかく表記がややこしいので、このあたりが難しいと感じる要因になっているかもしれません。

同じ読みでも違う漢字 同じ漢字でも違う読み

表記の難しさの要因のひとつに同音異義語があります。「同音異義語」とは、発音は同じなのに意味が異なる言葉です。「解答」と「回答」などがその例ですが、「保証」「保障」「補償」、あるいは「体制」「態勢」「体勢」「大勢」「耐性」「大成」「大政」「胎生」などたくさんの同音異義語がある単語もありますので、長年使っていても「どっちだっけ?」と迷うことがありますよね。

熟語だけではありません。和語であっても同じ読みをしながら用いる漢字が異なることがたくさんあります。例えば、「早い」と「速い」、「省みる」と「顧みる」、「望む」と「臨む」などですね。これらについては徐々に詳しく解説していくことにします。

もっとあるんです。漢字には「音読み」と「訓読み」があって、しかも、いくとおりにも読ませることがあるんですね。「日」などはそのよい例で、こんなに読み方があるんです。

・一日(ついたち)
・二日(ふつか)
・吉日(きちじつ)
・日曜(にちよう)
・曜日(ようび)
・日和(ひより)
・日程(にってい)
・日本髪(にほんがみ)
・昨日(きのう)
・今日(きょう)

当然のように使い分けている僕は、もしかして生まれながらの天才か?

外国語を取り入れるのが上手な日本語

読みを惑わすものに「漢語」と「和語」があります。同じ「健くん」でも「たけしくん」も「けんくん」もいるといったことですね。「漢語」とは昔の中国から伝わった言葉で「音読み」が用いられます。「和語」はもともとの日本の言葉で、基本的に「訓読み」です。「外来語」は外国から入ってきた言葉で、多くはカタカナで表記します。ただ、外来語であってもすっかり日本語になじんでしまって、カタカナではなくひらがなや漢字になっているものもあります。

漢語だけではなく、例えば「サボる(サボタージュする)」や「断トツ(断然トップ)」など、日本語は外来語の取り込みがとても上手です。「エモい」や「ググる」もそうですが、そもそも漢語に和語を組み合わせたのが日本語なので、こういう組み合わせによる変化球が得意なんですね。「運転する」とか「勉強する」とか、「する」をくっつけただけですから、「バズる」と似たようなものです。

参考までに漢語と和語と外来語の代表例をいくつか挙げておきます。

漢語和語外来語
速度速さスピード
旅館宿(やど)ホテル
昼食昼ごはんランチ
球(きゅう)球(たま)ボール_____
足跡(そくせき)足跡(あしあと) 
草原(そうげん)草原(くさはら) 
牧場(ぼくじょう)___牧場(まきば)|||_ 

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ユニークな日本語① 文字の種類が多い

日本語は、そもそもの由来となった漢字のほかに、その後に生まれたひらがな・カタカナを組み合わせて使いますから、見た目がとてもユニークです。

漢字は文字に意味を込められるというすぐれた点がありますが、種類が非常に多く複雑なものもありますから、かなり工夫して用いないと共通語としての役割が果たせません。そのため韓国語は漢字を使用しないという判断をしましたが、日本語は漢字を捨てませんでした。どちらがいいということではなく、一長一短があるということだと思います。

ひらがなは1音に1文字ですから平易で便利で確実です。カタカナも同様ですが、加えてカタカナは半角処理ができる点がデジタル処理においては有益なものになっています。ローマ字は、日本語をなんとかアルファベットに置き換えて世界水準にしようと試みられたものですが、この先人たちの努力はローマ字入力という意外な形で結実して現在に至ります。漢字、ひらがな、カタカナ、ローマ字、それぞれに重要な役割を担いながら日本語を形成しているなんてすばらしいことだと思います。

文字の種類がたくさんあるって独特なことだったのね。

ユニークな日本語② 縦横自由自在

日本語の特徴として縦にも横にも書けるということがあります。世界の中で縦書きの言語はあまり多くはなく、今では中国語もほとんど横書きになりました。韓国語もしかりです。縦書きとITは相性が悪いですから、どんどん横書きになっていくのもうなずけます。ただし、台湾やモンゴルでは縦書きを残しているようです。

日本では、国語の教科書は縦書きですし、文芸作品は縦書きで、何より新聞が縦書きを貫いていますから、縦書きでも違和感はありません。ただ、目は横に並んでいますから横書きのほうが疲れませんし、文字はもはや「打つ」ものになったことで横書きがますます増えていくと思われます。それでも日本語は縦書きを捨てることはないでしょう。このフレキシブルさは誇っていいのではないかと思います。

縦書きにできる言語って少ないんだね。

ユニークな日本語③ オノマトペが多い

ユニークといえば、日本語の特徴としてオノマトペが多いということもあります。オノマトペとは、状態や気持ち、発せられた音などを言葉で表現したもので、擬態語と擬音語と擬声語があります。

擬態語 もちもち すべすべ きらきら ふわふら さらさら など
擬音語 ドカーン カチャカチャ ドクンドクン ザクザク  など
擬声語 チュンチュン ワンワン ホーホー ギャーギャー  など

擬態語なのか擬音語なのか擬声語なのか、それぞれの境界は明確ではなく、意味も多様で、同じ「ごろごろ」でも、「ごろごろしてないで掃除しなさい」「目がごろごろして痛い」「戦場には死体がごろごろ転がっていた」「猫がゴロゴロいって気持ちよさそう」などとさまざまに使われます。

言語化しにくい気持ちもオノマトペで表現されます。「なんかイライラする」とか「どよーんとした気持ちだよ」「ルンルン気分でいっぱい買っちゃった」「ごめん。ぼーっとしてた」など、もはやオノマトペなしには暮らせないほどですよね。

オノマトペをひらがなで書くかカタカナにするかでも印象が変わるわね。